SOL.6:嵐の夜に

「こんな季節にマーク・ワトニーってどう言うことよ!?」


「分かりませんが、ここら辺は前の襲撃でまだ偵察衛星が復旧していないので確認が遅れました!!」


「のどちゃん准尉、ヤバイの?」


「中心気圧、930hPa

 最大風速60m/s

 これ、3月どころか、シーズンでも本当に破滅的すぎる嵐ですよ……!」


 と、ぐぐー、とブリッジが一瞬後ろへ傾く。


 いや、ブリッジだけではなく、船全体が大きく波に乗っかり傾いたのだ。


「…………もうか。

 これは、艦長として決断しなければいけないよねぇ……」


 ふいー、としわくちゃな疲れた顔を見せ、そして顔を戻し吹雪は指示を出す。





「全ポート閉鎖、甲板の要員を収納。


 ガラティーン潜水準備!」





「了解!

 全ポート閉鎖、甲板オフィサー収納!

 ガラティーン潜水準備!」


「全艦内に通達。全ポート閉鎖。ガラティーンはこれより潜水す。

 繰り返す─────」



 オペレータの通信と同時に、艦内の人間達は外へ出るためのすべての扉を閉め、潜水のため隔壁を下ろす。


Eエネルギーシールド、機関チェック。

 副長、シールド展開しますか?」


「航海長、深度6000も潜るわけじゃ無いわ。

 通常潜航にて、深度200」


「了解。

 通信手オペレーター、艦内隔壁は全部閉鎖した?」


「全ブロック、全閉鎖確認!目視も完了!」


「了解。これより全バラスト注水。ガラティーン潜水開始する」


 艦内に響くアラート。

 いよいよ、ガラティーンの潜水が始まる。


 全バラストタンクへ注水し、浮力をなくして水の中へ、剣のような船体を潜り込ませていく。




「…………深度200。航路固定します」


 水中ともなると、この時間は真っ暗で何も見えない。

 起動したソナーの情報が可視化し、おおよその形をグリット表示で示す。


「今どこらへんですか?」


「クリュセ平原海に入りました」


 おぉ、と思わず吹雪は呟く。


「かつての平原は、海に沈み、峡谷は海溝となり、赤い大地は緑化され…………


 もしも、火星人がいたとして、帰ってきたらびっくりするんじゃあないかなぁ?」


「だとしても、今の家主は我々です。

 買った家をどういう色に変えようと住んでない奴が文句言う筋合いないわ」


 なんとなく呟いた言葉に、アリアがそう答える。


「でも、我々火星の家賃払ってないんですよね……

 地球も同じく」


「ひょっとしてシュバルツは家賃取り立て人なのかしら?」


「にしては、我々に会話がなさすぎる。

 今まで一部の電子機器への謎のハッキングこそあれど、彼らは何一つ声明を出していない」


「いつ聞いても不気味な話よね……」


「それ、何かおかしいことなんですか副長?」


 と、火器管制席からマーシアがそう疑問を投げかけると、当たり前じゃ無いと言わんばかりのため息が出る。


「いい?戦争とは、外交の中でも一番単純でコストパフォーマンスの悪い手段よ。


 彼らは、まるでそれが当たり前のように、我々に対して攻撃をずっと続けているけど……


 我々は相手に何度も全滅をしかけられたけれども、我々もまた何度も相手を撤退に追い込んだ実績がある。


 何度も休戦を呼びかけた。あらゆる手段を持って。


 でも……言語が通じていないだとか言うレベルを超えて、相手から返答がないのはおかしいの。


 自分の損害も無視してまでこちらを攻撃してくる節すらあるのはなぜ?


 目的が見えないのよ……」


 なるほど、と聞いた皆が納得する。


「不気味だな…………こっちを滅ぼすつもりなのかな?」


「その割には、この前奪還したエウロパの施設、無傷らしいよ。

 例にもよって『ピコピコ』しかいなかったって」


「まぁまぁ、末端が考えても仕方ないですって!


 そろそろ夜も老けてきましたし、自動操縦に任せてみなさん休みません?」


 と、言われて皆が『おぉ!』と声を上げて喜びの声をあげる。


 一瞬、堅物なアリアが全体を睨むが……


「……そうね。そろそろ終業しましょうか」


 と、言って、ようやく周りはイェーイと喜びを表した。


「はぁ〜…………私も疲れたわ、本当」


「あ、じゃあ甘いものでも食べます?」


 わざと大きなため息と共に言うアリアに、すかさず何処からか取り出したチョコレートを渡す吹雪。


「〜っ、ええ頂こうかしらね、私も何処かの艦長のせいでだいぶストレスがたまっているものねぇ〜??」


「あうあうあうあうあう……!」


 引きつった笑みで吹雪の頭を両腕で挟んでグリグリした後に、フン、と言ってチョコを奪い取るように掴んで踵を返す。


「さっさと自室に戻るわ。

 勝手にお菓子パーティでも何でもどうぞ」


 と、言ってアリアはブリッジを後にし、



「「「いやーっふぅーっ!!!」」」



 残った面々は、海図をしまってテーブルの上にお菓子を早速並べ始めたのだった…………



          ***


 さて、第502戦技教導隊の面々はと言うと……


「いやー、ごめんなさいですなー、無理言って一人部屋借りちゃってー」


「ああ、良いですって。

 でも借りる理由に『秘密通信するから』って素直に言っちゃって良いんですか凪さん……?」


「内容言わなきゃセフセフでござる。

 あとちょっと今日は、ゲッティングつぼ焼きイットもやるので……おっと、では失礼!」


 と、言って足早に高等士官用の一人部屋に入る凪。


 まぁいいか、と背後の同じ部屋の3人……萌愛とシャルロッテと志津に振り返る。


「と言うわけで一晩よろしくね」






 ガラティーンは広いが、士官用の部屋はそれでも4人部屋だった。


「じゃあ、私が上かぁ……意外と怖いんだよ……あっ、柵しっかりしてる!さすが最新型戦艦……!」


「わー、ベッドが柔らかい……!!」


 入り口から向かって左側の2段ベッドは、上段がルルで下段が志津になった。


「みんな上って嫌なんですか、少尉?」


「まぁ、スクランブルになれば分かりますわよ?」


 右側は、上段が萌愛、下段がシャルロッテになっている。


「ふぅ……消灯まで2時間……ジムにでも行って一汗流しましょうかしら?」


「「えっ」」


「あー、良いですねー!私もさっき鈍ってるなって思いましたし、お伴します!」


「「志津ちゃんまで……!?」」


「あ、お二人も来ません?

 ほら、わたくしこの部屋ですと一番最年少ですし、心細いですもの」


 意外な提案を意外な人間が言い放つが、まぁと二人は了承する。


「じゃあ、部屋に来たばっかりだけど」


「まぁいいか。体型維持も重要だし」


 それがまさか…………







「ふーっ!!!すぅぅぅ……ふーっ!!!」


 両脇合わせて200kgのベンチプレスを、となりの筋肉モリモリマッチョメンの下士官と同じようなペースで持ち上げ、下ろすを繰り返すシャルロッテ。




 パン!パン!キュキュ、パンパン!!


「ふっ、ふっ、ふっ、シッ!!」


 その小柄な身体に似合わないキレキレで動きで、スパーリング相手の黒人のタフガイの腕のミットへ拳を当てていく志津。




「「・・・・」」


 それをただランニングマシンやフィットネスバイクの上であんぐり口を開けてみているだけの萌愛とルル。




((なんだこれ……??))



「HAHAHA!負けたよかなわないな、そんな細腕で!!」


「おほほほ♪実家に出てきたイノシシを仕留めた時に担いでいた重さと同じで助かりましたわ〜」


「またやりましょう准尉!!鍛えます」


「ふふ、訓練に励め軍曹!ってやつですわね♪」


 なぜか、シャルロッテは筋肉の塊のような兵士と仲良くなっているし




「Hey!ジャパニーズリトルモンスター!!

 すぐ死ぬBBパイロットなんかやめて、海兵隊に入らないか?

 というか、俺らのボクシングクラブに入ってくれ!!

 今度駆逐艦カットラスの連中と戦うんだがフェザー級がいないんだ!!」


「うーん、まぁ……じゃあもうちょっとスパーお願いします。

 まだ身体が火星に慣れすぎてる……!」


「いいね!!まるで日本製の軽トラだ!!

 アレが一番好きなんだ!!」


 あの小さな身体で、萌愛と同じく1Gに慣れるための走り込みでへばっていた志津が、すでに回復したかのような体力で再びスパーを始めている。


「…………人って、以外……ですよね大尉……」


「あの身体の……酷い言い方だけどどこにそんなパワーが……」


「──いやー、いい汗かきましたよ〜」


「──うふふ、ですわね〜♪」


 と、何とも言えない顔でずっと見ていたルル達と合流する二人。


「二人ともすごいね……」


「というか、加藤准尉、ボクシングしてたの……?」


「ああ、はい。弟と一緒に。

 弟じつは、プロなんですよ〜」


「「弟!?!」」


「あのぉ、わたくしが言うのもなんですが、みなさん同い年では?」


 大体140後半台の志津の頭を、わしゃわしゃするルルと萌愛はなんや感やで170後半だった。


「酷いです!!萌愛ちゃんも大尉も酷いです!!

 むぅ!!」


「ごめん……」


「やりすぎたよ……」


「許してあげてくださいまし。ほら、成長は人それぞれと言いますものね?」


「少尉は年下なのに地味にマウント取ってくるぅ!?!」


「おほほほほ♪」


 なんとも微笑ましい光景である。





 ────それを眺める、屈強な兵士達。


「……可愛いぜ……いつまでも見てられる」


「むさ苦しい戦場に現れた、綺麗な花に可憐な花、か……」


 スパーリングやっていた黒人の屈強な男と、ウェイトリフティングしていた金髪のマッチョマンがそう言葉を交わす。


「…………今夜、部屋に誘おうかな」


「おい待て。花は眺めて楽しむものだぜ?」


 と、唐突に呟いた金髪マッチョメンへ、黒人がそう答える。


「だから、部屋にある花瓶に持っていくのさ」


「手元に置いて枯れるまで?

 ああやって土のままにすればいつまでも楽しめるのに?」


「俺は、花を埋め香りも味も楽しみたいね」


「ここでいい香りが嗅げないとはクソの詰まった鼻だな」


「遠くで見てるだけだなんて、根性のないオタク野郎みたいなヤツだ」


「…………どうやら、」


「ああ……」



 ダンッ、と二人は立ち上がる。









 拳で、


 これ以上は語るべきか────









 今静かに、謎の戦いが始まろうとしていた。



          ***



 一方、もう一つの4人部屋。


「……良いかぁ〜??クソガキ共ォ〜……

 アタシが今から本物の、『ワル』ってやつをよぉ……見せてやるぜぇ……!!」


 ゴクリ、と生唾を飲む二人の目の前で、凶悪な笑みを浮かべるヴェロニカは、それを取り出す。


「食パン……ケチャップ……手でちぎったベーコン……同じくピーマンに……ケケッ……!」


 べちゃり、と凶悪な赤い色を塗りたくり、荒々しく無残に引き裂いたそれらを散りばめる。


「最後は……チーズどーん!!」


「ヒィ!?!」


 後ろで見ていたリディアが、あまりにも悲惨な量を見せつけられ引きつった悲鳴をあげる。


「ここでバジルソースもちょっとかけて……いよいよ、入れる……!!」


 ドン、と取り出すはオーブントースター。

 凄惨な量のチーズが乗ったそのパンを入れ、スイッチオン。


 ───チーン♪


「ほれ、吸ってみろよ。

 スゥーっとするぜ」


 立ち込める煙の、なんたる香ばしい香りか……!


「これ……絶対寝る前に食べちゃいけないヤツだぁ…!!」


「ダメよ、私……!!食べちゃダメ、食べちゃ……ああ!」


「う、ぐ……もう我慢できないわ!!」


 サクッ


「「「お、美味しぃ〜〜〜!!」」」


 悪魔的ハイカロリーなピザトーストは、悪魔的美味さだった。


 フランス料理のような綺麗な味の技術も、日本料理の素材を生かした素朴な味も、


 このジャンクフードの前では、全て無意味!!


「こんなの食べてたら太っちゃう〜!!」


「いいか、古き良きアメリカにゃこんな言葉がある。


 法律上、ケチャップは野菜です」


「ぐっ……デブの国め……!!」


 そうは言ってもピザトーストは美味しいのでリディアは食べた。


「こんな悪い事がまかり通るだなんて、ファーザーの言う通り恐ろしい世界だったのね……あむ」


「もぐもぐ……怖いよぉ、怖いところだよぉ……もぐもぐ」


「そうだぞ、外はアタシ並みの悪がいっぱいだ。

 一見美味しそうなものぶら下げて、釣り上げてお前らも骨の髄までぜぇ〜んぶ食っちまうのさぁ!?」


「「きゃー!!」」


 がおー、と言うヴェロニカに、キャーと叫ぶジョアンナとフェリシア。

 しかし、すぐに3人は笑い声をあげてしまう。


「だから、アタシ以上のワルには警戒すんだぞ?」


「「はーい少尉ー!」」


「後、コイツ地味に今自分はまだ優しいみたいな事言っているけど、こんな高カロリーな物を喰わせたのは事実だから。

 今のが、悪い奴が「私無害です」って言う風にやる高等テクよ」


「言うねぇ、中尉殿は。

 まぁそうだけどよぉ?」


「「ひどーい!!」」


「そうだろー♪」


 と、行ってヴェロニカは二人とじゃれ合う。

 意外と子供好きなのか。


「まぁいいわ……あ、このテレビ使って良い?

 暇だから見たいアニメあるのよ」


 と、私物らしき映像再生もできるゲーム機と、可愛い絵柄の女の子たちが見えるBDボックスを取り出す。


「おいおい、まだこんな早い時間だぞ、イヤホンなんぞしまえよ。

 アタシらも暇なんだから見せろよ!」


 と、素早くヴェロニカはゲーム機をセッティングして電源を入れ、阿吽の呼吸でジョアンナがテレビのスイッチを入れる。


「ちょ!?それだけはダメよ!!

 お願い他のは良いからそれだけは!?」


「わー!この女の子たち可愛いー!」


 ひょい、とフェリシアが掲げたBDボックス、


「ぎゃー!?それだけは本当にやめてー!?」


 表面に『円加まどか 槇利まきりは魔法少女である』と書かれているそれを、慌ててリディアは取り返そうとする。


「なんだよ、日曜の朝9時のヤツじゃねーか」


「もぉ、子供っぽいなぁ中尉さんって!」


「ちょっとこの緑の子好きかも……!」


「辞めろー!?それはそんなものじゃないのぉー!?

 あっ、あっ、再生しないで、ああ!?」


 非情なことに、再生ボタンをポチリとコントローラーで押される。




「せめて6話で視聴を打ち切ってぇーっ!!!」






 荒れ狂う海の下、くらい海の中を進むガラティーンに、断末魔が響いた。


          ***


 ギャー!?


 そして、ルルたちの部屋でも。



「なにこれぇぇぇぇぇぇ!?!いやァァァァァァァァァァ気持ち悪いぃぃぃ!!!」


「なんで部屋の備え付けの棚にゲイポルノが入っていますのよぉーっ!!!不潔ぅぅぅぅぅ!!!」




 何気なく開けた備え付けの埋め込み固定型テレビの戸棚の中、


『真・夏の夜の淫夢』


『ガチムチブリーフレスリング』


『視聴者投稿シリーズVol.4 変態糞土方』


『淫獣テディベア』


 etc...


 そんな、極悪なラインナップのゲイポルノ♂だらけの地獄が広がっていた。


「ダクトテープ!!そこにあるダクトテープとって!!」


「こんなもの置いたバカを探すのは置いておいてまずは封印!!」


 新兵二人が持ってきたダクトテープでなんとかそこを封印し、ようやく一息いれる。


「「ふぅ……」」


「大丈夫ですか……??」


「ありがとう萌愛ちゃぁん……!!

 怖かったよぉ……物凄く怖かったよぉ……!!」


 一応上官ではあるのだが、完全に心が折れたのか涙目で萌愛に抱きつくルル。

 本当に怖かったらしい。


「しかし……なんでこんなところにその…………ホモビデオが?」


「ずいぶん古い言い方ですわね。

 まぁともかく、建造中に見てたバカがそのままにしたのか……善意で置いていったとしたらこの世で最も邪悪なことですわ!」


 げしげし、と封印された扉を蹴ってから、怒り気味に言うシャルロッテ。


「忘れましょ!!ほら、口直しに何か!!」


「ですが少尉、DVDもBDもないですよ……?」


「くっ……潜水中じゃあ衛星放送も無いですわ……!」


「……あ!私良いの持っている!」


 と、意外なことにルルが手をあげる。


「おぉ!?意外ですわねぇ!?」


「2年間ぐらい暇つぶしに使ってたんだ……」


 と、言って、私物のバッグからモフモフした人形やらを取り出して、奥から出すのは…………






『ティンキジャッキー♪リィジィ♪ロォロ♪ミィ♪』


 ファンシーな音楽と共に、着ぐるみのずんぐりむっくりな可愛いキャラクター達が、今時珍しい実物の郊外のセットで飛び跳ねて踊って歌う。


「幼児向け番組……」


「幼児向け番組だ……」


「幼児向け番組とは……」


「あ!この回はファンファントースト機が壊れちゃう回だー!

 楽しい話なんだよね〜♪」


 ゲイポルノよりはマシだが、予想の斜め上のチョイスだった。

 というより、そんなにキラキラした目で見るとは……黙っていればクールそうな美人なルルからのギャップが凄まじい。


「…………ふんふふんふーん……♪」


 と言うわけで、ひたすら同じ言葉を覚えさせるように繰り返したり、舌ったらずな台詞回しを聞いているうちに……


「「「「ふんふふんふーん♪ふんふーん♪」」」」


 すっかり、4人は劇中歌を覚えていた。

 ちょっと楽しくなって来たまま、夜は更けていく。


          ***


 凪のいる個室、


 凪はラフな就寝用のTシャツ姿で、テレビにつないだゲーム機でFPSを行なっていた。


「いやぁ、我々現実でも銃を撃っていると言うのに、なぜかゲームまで撃ってしまうのですなぁ」


『ゲームの方が良いぜ?

 なんせ撃って死ぬんだからよ。

 現実はまさにクソ調整だ』


「まさしく!あ、撃たれた……」


 ゲームでも仲間として戦っている相手に、ヘッドフォン越しで会話する凪。


「くぅ……軍の回線使ってるからラグは少ないはず……コレチーターではござらんか?」


『こりゃ……うぉ!?死んだか!!

 クッソ……チーター野郎が……あー、だめだこりゃ』


「ベスト16で3キル……まぁ世紀末戦場でしたなぁ」


『まぁいいか。俺らも『ちょっと言えない回線』使ってるしな……報告で勘弁してやる』


 ふぅ……と一息ついて、凪はペットボトルの水を飲む。


「……でー、イチカ少佐?」


『あんだよ?』


「何故に秘匿回線でFPSにお誘いを?

 純粋にやりたかっただけって答えてほしい系なのでござるがー」


『なわけねぇだろう?

 一大事だ、特務中尉』


 げー、と言いながら嫌な顔で仰向けに寝転ぶ凪。

 しかし相手は容赦なく言葉を続ける。


『例の電波が観測された』


「『売国奴』ですか」


『その通りだった上に内容は……現在の火星の海の航路表だ』


 その意味を理解して、黙っていれば氷の美貌をくしゃくしゃな見るからに嫌な顔を見せる凪。


「狙いはこの艦でー?」


『それ以外に重要なものは無いな。

 いや、シーレーンを重要視してない訳じゃねぇぞ』


「なんだって良いでごぜーますぞー?

 コレが最後のゲームとか嫌でござる、もっと遊びたい、働きたく無いでござる!」


『嫌だろうが働けレンジャーニート!

 次の休日が消えるぞ!』


「政府も残ってればの話でしょー?」


 はぁ、とゴロンと寝転がる。


『……そっちはどうだ?』


「某の下着並みに黒ですな」


『色気のある上に興味深いな。

 証拠は?』


「生きてなきゃ持ち帰れない衝撃的なのが一個」


『了解。

 艦隊を3隻分だけ無理言って出させた。

 うまくいけばやり過ごせるだろうさ』


「貴官の仕事が早い時は、ぜってーヤバイ時じゃねーですか、もー」


『頑張れ!向こうの基地で渡してくれや』


「了解。通信終わり!」


 はぁ……とため息混じりにイヤホンの電源を切る。



「───軍回線でゲームする悪い子誰だー?」


「うぉおぉう!?!?」


 と、プシューと音を立てて開いたドアの先、いたずらな笑みを浮かべる吹雪が立っていた。


「艦長!?何故ここに!?!」


「オペ子さん達が傍受してたもので、終わるまでずっと聴いてましたー」


「なんとまぁ……で、自分は銃殺刑で?」


「そこまでキッチリしているのは副長だけです!」


 それはそれでどうかと思うセリフの後に、吹雪は少し真面目な顔でこう言う。


「そして……嫌な予感は的中ですよ、特務中尉」


「…………え?」


 疑問に答えるより先に、非常ベルが鳴り響き、吹雪は首元の通信機に向かって叫ぶ。





「総員、第1種戦闘配置!!コレは訓練では無い!!


 海上にて友軍がシュバルツと交戦!!


 繰り返すが訓練では無い!!


 艦長より総員に第1種戦闘配置を命ずる!!」




 げぇ、と言う凪に笑顔を向け、吹雪は言い放つ。


「じゃあ、あなたやルルちゃん達にも出撃してもらいましょうか」



          ***

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