SOL.8:ヤケクソファイヤー大作戦
「ふざけんなッ!!
どこの惑星に重要な作戦の流れの要をアドリブで済ませようとする愚か者がいると言うのよッ!!
このたわけ者ォ─────ッ!!!」
ブリッジに響くアリアの怒声に、ブーステッドであるため耳がいいのどかをはじめとした皆が耳を塞ぐ。
「席を変わりなさいクズ艦長!!!
私が指揮を執ってやるぅぅぅ!!!」
「どーどー!
実は……そういうと思って、私なりにプランを考えてはあるんです!」
と、意外なことを言い放つ吹雪に、途端にもっと顔をしかめるアリア。
「……どうせ、このまま降伏するとか、そんなのでしょう?」
「そんな!
結構ちゃんと考えたんですよ!?
ただ………………その……」
「何?とっとと言いなさい?
ああ、その前に索敵担当官、敵の位置は?」
「後方、5時、7時、8時の方向、3キロ先から追いかけてきています」
「というわけで、とっとと言え!!
もうすでに怒っているのよ私は!?」
凄まじい剣幕の言葉に一度困ったように笑い、吹雪は海図を指差す。
「ここより、13キロ先、2時の方向。
まずここへ逃げ込みます」
そこを見たとき、思わずアリアはひ、と短く悲鳴をあげる。
「れ……『令和新山』……!?」
「はい。
旧世紀の日本、令和の元号の時に打ち上げた火星探査機が、クリュセ平原で唐突に発生した新しい火山のここです」
「正気!?あそこは……この火星でも屈指の噴火頻度を誇る活火山よ!?
アレのせいで座礁する船も少なくは無いわ!!」
「そう。そしてそれはシュバルツの艦艇も例外と言えない」
は、とその恐ろしい考えに思い当たり、恐怖するアリアに吹雪は続ける。
「ここへ突っ込みます」
「…………」
あんぐり、と言った顔のまま、恐る恐る吹雪の方へ顔を向けるアリア。
「…………
「ふむ?と、言うと?」
「あなた……この作戦を先に言えば、私が絶対に反対するって分かって……!!
だから、わざとアドリブなんて言って……退路塞いだわね……!?」
その言葉に、少し吹雪は真顔になる。
「ガラティーンは、敵に渡すぐらいなら破壊すべき艦でしょう?
そして、そこまでするなら、破壊する覚悟で逃げ切り、敵を倒さなければいけません」
「それは、この艦の乗員全員の命を危険にさらしてでもと?」
「じゃあ、素直に鹵獲された方が全員無事なんでしょうか?」
「…………だから、貴女みたいな指揮官は嫌いなのよ」
はぁ……とため息をつくアリア。
「……機関最大船速」
「了解。機関長、機関最大船速!」
「目標座標
艦長の命令よ、命捨ててでもやってやるわ!」
『了解!!』
指示が飛べば行動は早い。
ガラティーンを回頭、目標の地点へ進路を定め、亜光速エンジンを蒸して進んでいく。
「ブリッジ昇降、
「了解!!ブリッジ昇降開始!!」
出入り口が閉まり、ガクンと部屋全体が落ち始める。
電子機器の発達した時代より、見晴らしがいい代わりに狙われやすいブリッジの役割を、艦の頑丈な区画へ移行するようになっていった。
そして時代が進み、
宇宙艦艇の時代になると、ブリッジから部屋ごとCICへ移行する機構が備えられるようになった。
「CICへ移行完了!」
目の前のガラスの向こうは、BBなどの格納庫。
あとの情報は、電子機器を介しての物となる。
「後方よりキャビテーション。
ミサイル!」
「発射から何秒?」
「5秒です!」
「速度緩めず総員対ショック姿勢!!」
直後、ボォンと爆発と爆風がやってきて、ガラティーンを揺らす。
「……損傷軽微!浸水なし!!」
オペレーターの言葉に、さも当然と言った笑みを浮かべる吹雪。
「進みすぎた文明だから、魚雷が何で必要なのかを忘れてしまったんでしょうね」
「海中じゃあ、自慢のシースルーウェポンも意味がないものね」
「そうなれば、やることは極めて原始的な方法……」
コーン……!
「ソナー感!敵艦隊散開!!
2隻づつ両舷へ展開し、毎時21ノットまで加速!!」
「やっぱり近づいてきますか!全部で何隻ですか?」
「7です!」
「艦隊で水中活動……異星人の宇宙船だけは頑丈ね……」
と、ソナーへ耳を当てていたのどかが、一瞬首を傾げこう報告する。
「一隻、速度が落ち……あ、着底しました」
「……ふふ、宇宙よりも過酷な場所は、案外たった100m下の海の底かもしれない……!」
「艦長、ガラティーンも例外じゃありません。
たしかに相手より海を知っていても、彼我の科学力は下です」
「それもそうか。じゃあ次は我々がそうなるんですかね?」
ボン、と爆発音らしき物をソナーで聴きながら、少し恐ろしい感覚を味わうのどか。
さて、と背後の艦長席で吹雪は言う。
「そろそろでしょうか?」
その言葉とともに、一瞬海流の流れが変わったようにカクンとガラティーンが動く。
「海流計によれば目標到達!!
にしても何この揺れは……!?」
「索敵、どうなっているの!?」
「下から物凄い勢いでキャビテーションが!!
これってまさか……!?」
のどかが言い終わるより先に、突然警報が鳴り響き、破裂したパイプから蒸気が上がる。
「何!?」
「アッツ……熱い!?」
「これ排水パイプじゃないの、熱ッ!?」
「艦内温度急上昇!!
やっぱり……海底火山が噴火してる!!」
艦の外、
暗いはずの海の底は、硫化水素やさまざまな物を含んだガスが吹き荒れ、マグマの生み出す凄まじい温度で煮立つ地獄の鍋の底と化している……!
「最悪ね!!我々は死ぬしかない!!」
「だが……見ようによっては相手も殺せる……!!」
「敵艦、2機爆発!!
衝撃きます!!!」
地獄に先に耐えられなかったのは、シュバルツの宇宙船。
爆発した衝撃をガラティーンが襲い、またどこかのパイプが割れる。
「艦内浸水!!」
『こちら機関室!!ちょっと何をしたの!?
冷却装置がすごい温度だし、ガラティーンの心臓なんて破裂寸前よ!!』
「ちょうどよかった、リタ機関長!!
はぁ、と向こう側でも、こちら側でも皆信じられない顔で吹雪を見る。
『今の聞き間違い?
「そう言いました!!
副長もハイパードライブの起動準備を!!!
砲雷長、通常魚雷で火口を撃つ用意を!!!」
その瞬間、全員が吹雪が何をしでかすかを理解した。
「無茶苦茶だ……ハイパードライブ起動命令なかったら従わないからね艦長ちゃん……!」
「魚雷発射管、1から4まで注水。
時限式誘導、通常魚雷目標セット!!」
マーシアが魚雷の用意をし、シュラアがハイパードライブの用意を行う。
「ハイパードライブ、コンソール起動。副長!」
「目標をセット、亜空間の出口座標は、ここより上空600mに固定!」
アリアの正面コンソールに浮かび上がった生体認証に手をかざし、起動した円形のボタンを7つ、座標を設定するために押し、準備を終える。
「敵艦隊、相対距離……50m……!」
「いよいよか……!」
海を進む、虫に似た宇宙船達。
小柄な艦が、まさに虫の口と前足のようなアームを広げ、ガラティーンに迫る。
「魚雷発射!!
着弾直前にハイパードライブ!!」
「了解!魚雷発射!!」
マーシアの操作で、ガラティーンの艦首下の発射口から魚雷が発射される。
「目標距離まで推定……80m!」
「敵艦は!?」
「……両脇で30m……!!」
グワァ、と大きく広げる捕獲用アーム。
二機の捕獲用の艦艇が、両脇からガラティーンに迫る。
「着弾まで残り、20m」
「まだです!ギリギリでハイパードライブを起動してください!!」
「敵、もうすぐ接岸!!
魚雷着弾まで10m!!」
「艦長!!限界よ!!ハイパードライブを……」
「着弾寸前まで待て!!」
「敵アーム圏内!!着弾まで……残り1m!!」
瞬間、吹雪が叫ぶ。
「───ハイパードライブ!!!」
待ってました、と言わんばかりにアリアがそのスイッチを押す。
ボシュウッ!!!!
ガラティーンの前に開いた巨大なワームホール。
瞬間、急加速とともにガラティーンがそれに吸い込まれ、二機の鹵獲用宇宙船のアームが空振りする。
瞬間に爆発する海底。
通常魚雷といえど目的のための威力は充分にあった。
ほんの少し、冷えたマグマを剝がせればいい。
煮えたぎった1000℃以上のマグマと、100℃を超えられない水の塊が触れた瞬間、
巻き起こるのは、地形を変える自然現象。
そう─────水蒸気爆発
ズガァァァァァァァァァァァァァァァンッッ!!
その爆発は、海に一瞬穴を開け、旧クリュセ平原の大地を空気に晒すほどの物だった。
あまりの威力とエネルギーに、嵐が撹拌されて消え、夜空の星とそこを素早く横切るフォボスと遠くで光るダイモスが映し出される。
巻き上がった水が落ちていく中、空間にバチバチと走る光。
ボシュウッ!!!
開いたワームホールから、ガラティーンの巨大な船体と海水が現れ、重力に惹かれてドバーッと海水だけが落ちていく。
「やった……!!」
CICの中で、再受診した弱いGPS信号や弱まったパイプの煙からアリアが安堵の声を上げる。
「ガラティーン、着水!!
プランB成功!!」
「了解!!
ガラティーン着水させます!」
シュラアの操艦により、ゆったりとその巨大な船体を再び火星の海に浮かべる。
今が朝ならば、最高の絵になる……と、
「あ……カメラの映像モニター映します!」
と、のどかが言うなり、外の映像が映し出される。
なんと……空が少し明るくなり始めていた。
「あ……そういえば、移動ルート的にはもう……!!」
「ここら辺は、今が日の出ね」
遠く遠く水平線、空は白に、青に、そして赤へと変わっていく。
「綺麗…………船乗りになっていて……よかったと思ったのは2度目……!」
「1度目は?艦長?」
「火星訓練艦隊で……実技をしてた時に見た宇宙の日の出の時……!」
「……私も、それは好きね」
CICの中に、自然と笑みが漏れる。
これで勝利した、という安堵とともに─────
ドバァァァンッッ!!!
『!?』
モニターの日の出の方角、海が爆ぜる。
クゥオォォォン!!
現れたのは、あちこち欠けた巨大な丸い虫のような物。
シュバルツの……空母!
「まだ生きていた!?」
「やっぱりプランDまで用意してよかった……!!」
「見てください、アレ!!」
映像に映し出されるのは、発進したシュバルツの機動兵器群。
不気味な多数のベリルに混じり、翼を広げて飛ぶ異形。
例えるならば、鳥。
胴体に二つのシースルーウェポンを備え、バイザーのような黄色い水晶体を頭部に持つ、無機物で出来た鳥。
「この映像を502以下、BBパイロット達に見せて!」
「了解!映像を送ります」
くっ、と歯がゆい思いを口にする吹雪。
***
『おいおい、鳥だ!!
デカイ鳥の……新型だ!?』
「今までの航空機型と全然違う……これが?」
『いや!!これだけじゃない!!
我々を襲ったのは……!!』
ルル達がコックピット内で送られた映像を見る中、シュバルツの空母から一機何かが飛び出す。
漆黒の胴体は、まるでBBのように鍛え上げられた身体のよう。
所々直角で、堅牢そうな装甲、ブースターらしき光る器官を持つ。
右手に剣のようなライフル、
左腕にはシールドらしきもの、
そして背中には翼に似た機械の塊を持つ、バイザーのような青く光る目を持つ、人型機動兵器。
『アレだ!!アレに我々は全滅させられかけた!!』
ジャネットの言葉も合わせ、その異様な雰囲気を醸し出す機体を皆が注目する。
「ものすごく……見た目だけで強そう……!!」
ルルは、緊張を隠せない声でそう言葉を吐いた。
***
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