SOL.4:訓練開始!

 海を進むガラティーンの横を、我々人類と同じように移民してきたシャチの群れが追いかける。



 時刻は14:30

 雄大な大海原を戦艦の左、BB用の飛行甲板では。





「それではただいまより点呼を取る!!」


『はい!』


「準備はいい!?」


『はい!!』


「では、アルファ!」


「ブラヴォー!」


「チャーリー!」


「デルタ!」


「エコー!」


「フォックストロット!」


「ゴルフ!」


「ホテル!」


「インディア!!」


「よし全員いるね!!

 甲板10周!!いくぞ!!」


『イエスマム!!』


 ルル達502の面々が、走り始めていた。





「うーたんとみーたんケンカしたー♪」


『うーたんとみーたんケンカしたー♪』


「原因はカレシの取り合いだー♪」


『原因はカレシの取り合いだー♪』


「泥棒猫!!」


『泥棒猫!!』


「なによブス!!」


『なによブス!!』


「このクソ女ァ!!」


『このクソ女ぁ!!』





 全員もちろん、1G状態での走り込みだった。

 甲板は長い部分は300m、幅は41m、かなり広い。

 発艦担当兵達に挨拶をしながら、ここを10周する。







「ゼーハー、ゼーハー……!!」


「みんな、大丈夫?」


 終わってみれば、萌愛や志津はともかく、ブーステッドであるジョアンナ達も疲労困憊の顔になっていた。

 ぬるめのスポーツドリンクすら、飲むのに一苦労している。


「まぁ、新兵じゃこうなるわなぁ……あたしも久々だわこんな走んの……


「ここの所、ずっと営倉かBBの中かでしたものね……後はお偉いさんの前かしら?」


「ふぅ……もう5週してきます」


「「やっぱレンジャーは化け物じゃないかよ(ですわね)」」


 なお、凪は全然息も切れていない。


「ふぅ……た、大尉殿達は……毎日これを……??」


「宇宙だとパイスー着てね。鍛えなきゃ耐えられないから」


「ガタガタ言わないの!それと日が沈むまでまだ訓練続くのよ!」


 新兵達はウヘェ、と呻く中、言ったリディア本人も正直休みたいと感じている。

 だが…………新兵のためにも、心を鬼にするべきだと感じていたので、休憩もそこそこに次の訓練を開始する。


「傾注!30分後、BBBの初回起動訓練に入る!!」


          ***


「「「「「グギギギギギギ……!!!」」」」」


 ギチギチ……!


 パイロットスーツは、まず下のブーツと一体化したズボンを履き、次に上半身をプロテクターと一体化しているインナースーツを着るのだが……


 これらは基本的に体に自動的にフィットする設計のため、


 は、上半身の新品はとても


「入れぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 言葉の節々に出るボーイッシュな性格のかけらもないGirlsなサイズや、


「行けぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 子猫が乗っかりそうな空戦乗りのJetなサイズや、


「我が胸よぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 腐っても貴族なHigh-classなサイズとか、


「入ってぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 レンジャー出身の諜報Intelligenceサイズとか、


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!」


 隊長Leaderだから許されるかは知らない、説明不要なLargeサイズとかである。


「「「「「そりゃっ!!!!!!」」」」」


 ず、と黒いインナー部分を腰まで下ろし、カチリと丸い金具に止める。

 そのまま腰回りをコルセットのような特殊機械兼防護ユニットで覆い、首の嗚咽マイク兼任の部分を止める。


「「「「「ふぅ……」」」」」


 ルル、凪、リディア、シャルロッテ、萌愛の5人が安堵の息を漏らす。


「…………」


 そんな5人を見て、後ろでジョアンナとフェリシアが着替えるのも見えず、先に着替え終えた志津が光彩を失った目をしていた。


「……なんで……私…………大尉と……同い年…………」


「諦めなって志津ちゃんよ。なんか違うんだよ、こう……なんか違うんだよあいつらと」


 自らの慎ましやかなAえーサイズを気にする志津を慰める。

 そんなヴェロニカは理想の上官Commanderだった。


「むぅ……みんなおっきいなぁ……」


「私たちも将来そうなるかなぁ……?」


「「なると思う。いやなってる!!」」


「「きゃわっ!?」」


 と、まだ圧倒的年下のはずなのに、すでにヴェロニカ並みなんじゃあないかと思われるサイズの2人のその部分を鷲掴みにして二人は叫んだ。


「何やってんのよ……」


「4人とも!行くよ!」


 とりあえず全員ヘルメットを持ってロッカーから出る。








「あ〜〜〜〜…………1Gダル重い……」


「実際に重いですよ、社長!」


 と、パイプ椅子にだらしなく天を仰いで腰掛けるブリジットを、フィーネが介護する。


「やれやれ、火星人はだらしがないねぇ」


 と、真横でタブレットを操作する、ボサボサの髪に年季の入ったYシャツと締まりのないネクタイといったいでたちの男がブリジットに言う。


「うっさいですよ、薄給社畜!!

 だーれのお陰で、今回のプロジェクトに関われたと思ってやがるんですか!」


「そりゃ、大学の同期という仲で抜擢してもらった恩はあるがね、ブリジット?」


「分かってるならそこのコーヒーよこしなさい晴人ハルトぉ……!」


 と、無茶苦茶いう彼女へ、へいへいと言いながら彼は缶コーヒーを渡す。


「───失礼します!!

 穂乃村ルル以下、第502戦技教導隊到着いたしました!!」


 と、そのタイミングでルル達が到着し、コーヒー片手に重い頭をそちらへ向けるブリジット。


「あー、どもどもー……いや失礼ですよー、火星に慣れすぎちゃって……」


「ほー……聞いてはいたが、ここまで見目麗しい面々とはねぇ……もっとゴツいかと思ったよ」


 と、晴人と呼ばれた男性は、ルル達を見てそう感想を漏らす。


「失礼ですが、あなたは?」


「いやこちらこそ失礼レディエース。

 俺……いや僕は、有沢重工、AHIから出向してきた有沢ありさわ 晴人はると

 まぁ見ての通り、ただのしがないただのサラリーマンさ……薄給のね?」


 手を差し出し握手を求められ、ルルも握手を返す。


「あら、AHIだなんて意外なところに」


「確か……BBの武器の会社だよな?あと自動車」


「その通り。まぁ、有史以来から兵器産業なんて自動車屋の副業みたいなものさ」


「まぁ最近は自動車がトラック以外の買い手が消えちゃって大変らしいですよ〜?

 いいスポーツカーもあるのに……みなさん買ってあげてくださいね〜?」


「ははは、それもいいが……

 今日僕がプレゼンするのは、もっと別のさ」


 と、そう言って晴人はタブレットの操作を始める。


「我々、AHIはバスターボーンは作っていないんだ。

 専門はBBの輸送手段と、内部のコンピュータとそれを動かすシステムだ。


 ……ここで本題だが、君たち502部隊の搭乗するBBBトリプルビーには、僕と研究チームが学生の頃から10年は費やした画期的OオペレーティングSシステムが搭載されている。


 それをまずは見せよう……カリン、来てくれ」


 そう言って、タブレットを操作したその瞬間、彼の隣に突然立体映像が映し出される。


『───プログラム起動。

 機能確認……正常』


 それは、銀髪の光る青い目の少女。

 アニメでカリカチュアされた『近未来的』な格好をした、ホログラムの少女だ。


『はじめまして、私はカリン。

 新型OSのHi-BOSの管制AI。

 以後よろしく』


 彼女は片手を胸に当ててお辞儀をし、そう挨拶をする。

 その自然な動きに、思わず全員がおぉ、と声を上げて、ヴェロニカも眼鏡を外して見ながらヒュー、と口笛を吹いている。


「驚いたわぁ……そりゃ、AIが作られはじめて500年経ってるっていうのは知ってるけどさぁ……!』


『ヴェロニカ・リー少尉は、おそらく私が人間っぽすぎると言いたいと予測する』


「おいおい、言い方が機械っぽいのが返ってすげー人間っぽいぜ……」


 ツンツン、とヴェロニカは頬を突こうとするが、その指はホログラムを抜けてしまう。


「あの……あなたがBBBトリプルビーの中に入っているの?」


『ルル大尉、答えはイエスだが少し違う。

 私は、あくまでHi-BOSハイボスの動作性を高めるためにいるに過ぎない』


「はい……ぼす?」


 と、ルルの言葉に一度後ろの晴人を見て、うなづいたのを確認し手をかざしてある立体映像を映す。


『Hi-BOS、

 Hyper intelligence-Bone Operating System.


 一応のおさらいだが、元々ボーンやBバスターBボーンを動かすBOSは、ボーンに対して人間の動作を人間の直感通りに動かすための仕組みがある。


 近づいて採掘ブレードで切り裂け、や、あちらの敵を撃て、などと言う本来機械の苦手とする曖昧な指令を、あなた方の視線、レバーの操作の手順などから瞬時に見抜き、事前に登録されたモーションを高速で判断してタイムラグを少なく実行する。


 一言で言えばど変態システム。

 まるで、印象派に一時期流行った点描画のような。


 そして、それを上回るキワモノで発想がおかしいのが、私が管制する事になったHi-BOS』


 ここまで説明を、BBの3DCGとコックピット内部のCGを交えてしてくれたカリンは、『BOS』の表記を『Hi-BOS』に変えて説明を続ける。


『結論から言えば、これは新兵だろうとエースパイロットの動きをある程度出来るようにするもの。


 それも、我々がシュミレートしたエースパイロットじゃない……存在するエースパイロットのデータの動きを、乗っているパイロットのタイミングや技量でも出来るようにする』


「……マジですの?」


『マジですの、ヴィドゲシュタイン少尉。

 なんなら、そこの穂乃村ルル大尉が先日たくさんのモーションデータを与えてくれたので、回避と動きながらの射撃だけで言えば、

 おそらく、そこの新兵諸君でも1、2時間の練習で同じ動きができる』


 ほぉ〜、と皆が感心する中、ふと手をあげるリディア。


「ねぇちょっと、

 私コンピュータ関連は専門外だけど、質問いいかしら?」


『胃に穴があきそうな前置きだが、どうぞ?』


「じゃあはっきりと穴開けるつもりで言うけど、


 空戦機で汎用機の回避できるっつーのよ?」


 あ、と新兵4人以外の顔がそこ質問によって変わる。


「いい、汎用・宙戦機はスラスターが一番多いの。

 だからその起動軸は理論上は14方向。

 それに対して空戦機はデカいイオンジェットを3から4ぐらいで補助ブースター含めても6方向にしか進めないわ。当然重力や空気抵抗も考慮しないといけない。


 何より陸戦機だってせいぜい3方向じゃない!

 どうやってもこの隊長の動きは無理よ!」


「あ、ブルーローズならちょっと遅いですが多分出来ますわ!」


「あの鉄塊でなんて動きしてるのよ!?!

 そこのドイツ人みたいな一部例外をカウントしないからね!!」


『どーどー。ヴィドゲシュタイン少尉のような一部例外は勿論考慮してないし、まさにまずそれが言いたかった』


 と、特に表情を変えることもなく、カリンはそう言葉を紡ぐ。


『Hi-BOSは、欠点と言えばいいのか分からないが、

 理論上はあらゆる機体でのさまざまなデータが存在しなければその効果を発揮できない。


 そう、空戦機には空戦機のエースのモーションデータが必須であり、陸戦機も同じ。


 ……実は、この第502戦技教導隊の結成の理由もそこにある』


 そう言って、改めて全員を見回すカリン。


『穂乃村ルル大尉。撃墜数238機。宙戦の最高峰のエース。

 リディ・モンヴォワザン中尉。撃墜数65機。火星本土の防衛戦には常に出ていた。

 ヴェロニカ・リー少尉。撃墜数36機。

 シャルロッテ・D・V・ヴィドゲシュタイン少尉。撃墜数42機。

 両者ともに陸戦では好成績を収めている。


 あと、そこの凪中尉もなかなかユニーク。

 それに……そこの新兵達も』


 ああ、と合点がいったようにヴェロニカがつぶやく。


「要するに、


 あたしらの教導する相手は、お前ってことか?」


 その質問に、初めてカリンは口の端を曲げて笑った。


『イエス。

 でも私だけじゃない』


 ふと、後ろを振り向くカリン。




 格納庫のあちこちに鎮座する、骨格のような人型重機。


 ビルドバスターボーン。BBBトリプルビー

 その中枢たる、フレーム部分。




『あなた達には、このビルドバスターボーンの根幹システムの『教導』を行ってもらう』




 さて、とカリンはこう続ける。


『早速、乗ってもらおうか』


          ***

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