結成!第502戦技教導隊!!
SOL.1:そうして彼女達は集まった
数ヶ月前、地球
当時、11月
日本、福島県福島市
「本当にいいのか……?」
ある高校の進路相談室。
「はい……私……!」
教師に尋ねられ、小さな体の女子生徒が、クリクリとした大きな目を開いて言う。
「SSDFに、入隊します!!」
***
同じ頃、東京武道館
わぁ、と上がる歓声。
ライブステージに向けられる熱気。
壇上でそれらを一身に受けるのは、人気ボーイッシュアイドルグループ『プリンステラ』の面々だ。
『みんな今日はありがとう!!
私たちの、活動休止前最後のライブに来てくれて!!
本当に、感謝してるよ!!』
壇上に一人、ボブカットのまさにボーイッシュさを感じる少女が言う。
そしてあちこちから響く「いかないでー!」「辞めちゃやだー!」の声。
『ごめんねみんなーっ!!
明日からボク達、徴兵にいきまぁーす!!
3年後また!また会おうねーッ!!』
パチリ、と彼女がウィンクをした直後、再び武道館を熱気が包んだ。
***
火星防衛戦終了と同時刻、
地球衛星軌道上、月面。
プラント34、『有沢ヘヴィインダストリー』月面支社。
内部の一角、『特殊学習型オペレーティングシステム開発室』と書かれた部屋。
『データ取得。解析中
Hi-BOSへのアップグレード、2時間で完了』
チキチキ、と目を光らせ、薄く光る身体の少女が答える。
いや、それは少女とは言えない。
それは、ホログラムで映し出された映像データ。
彼女は、実態として存在しない存在。
「随分とかかるじゃないかカリン。
2時間もだって?」
薄暗い、巨大なコンピュータといくつかのモニターと机だけが支配する部屋の中の、唯一の生命体である日系人が、くたびれた顔でコーヒーを片手に言う。
『モーションフィードバックデータ、『穂乃村ルル大尉』は非常に特異かつ特殊。
下手な圧縮や私自身の機能による予測線で補完する場合トレースは不可能。
出来るだけ生のデータのまま解析する。
ハルトには異論があるか、回答を求む』
「いや、君の判断は信じよう。
相手はブーステッドですら追いつけない……なんてあだ名だったかな?」
『『
私は彼女のこの
「クールね……しかし、軍人と言う輩はキツそうで苦手だな」
『資料によれば彼女は、非常に穏やかな気性。
気配りも効くと人物評価に記されている』
「それはいいな……俺たちは仲良くできそうだ」
と、ハルトと呼ばれた男の言葉に、そのホログラム少女カレンは首をかしげる。
『言っている意味が不明瞭』
「ああ、実は俺たちは、そろって火星に出向だ。
この穂乃村ルル大尉殿と共に、Hi-BOSの完成を目指す」
一瞬、カレンはホログラムに映し出された表情をじとりとした目に変える。
『そう言うことは、早く言うべき』
***
火星、ネオジーン財団居住区
財団長アルフレッド・アダムスのオフィス
「───つまり君達は、
花壇を荒らした二人を『全治2ヶ月』の怪我を負わせることで『懲らしめた』……と言いたいわけだね?」
ブーステッド───遺伝子改造人間の作ったブーステッド技術の発展と繁栄を目的としたネオジーン財団は、ごく一般の人々からはよく『悪の秘密組織』『非人道的組織』などとも言われることがある。
人類が太陽系の数々を制覇している時代に何を、とは思う人間もいれば、旧世紀から全く変わらない人間もいる。
「ごめんなしゃーい!!」
「うぅ……悪気は無かったんですぅ……!」
この、ネオジーン財団を統べる老紳士、アルフレッド・アダムスも、
悪いことをすればその頭にゲンコツぐらいは入れるという感性を持つ、旧世紀から変わらない道徳観はあった。
「悪気がなくとも悪いことはあるのだよ。
例えば、ただイライラしたから花壇を荒らすのも、意味もなく無抵抗な人間を君達にしたようにゲンコツをするのも、動機や供述はともかく悪いことだ。
いくら悪いことを正すためでも、行き過ぎた暴力は罪でしかないのだよ?」
「うぅ……反省するよファーザー……!」
「ごめんなさい、ファーザー……!」
ふぅ、と目の前の二人の少女に、穏やかにため息をつくアルフレッド。
彼女達は、栗色の髪のサイドテールの少女を『ジョアンナ』、金髪のストレートヘアーの少女を『フェリシア』と言う。
一見して可憐でまだ幼さを感じる彼女達は、
戦闘用に生まれる前から調整された、ブーステッドだった。
「そう、まして君達は戦闘用だ。
筋力だけじゃない、生まれついて君達は兵器としても完成されてしまっている。
そう作ったのは我々大人達なのだから、悪いとは言わないよ?
ただ、だからと言ってこれはやり過ぎだね。分かるかい?」
ブンブンと首を縦に降るって答える二人。
……ちゃんと反省はしているようだ。
「……ふぅ……二人共、では、少しこちらへ来なさい」
はわー、と二人は目を輝かせている。
なにせ、アルフレッドの開けた引き出しの奥、ファイルケースの中に隠されていたのは……
「「チョコレートだ!!」」
「3つあげよう。ただし秘密にするんだよ?
私も医者に止められているのだが、まぁ君達は言わないだろう?」
「わたし何もみてなーい!」
「わたしもですー!」
それは、ビターな味では決してない、砂糖たっぷり甘さたっぷりなミルクチョコレート。
舌に優しく健康に厳しい、おいしいミルクチョコレートだ。
「……善悪、というのはなんだろうね」
「「??」」
ふと、優しい目でチョコレートを見ながらアルフレッドは呟く。
「例えば、チョコレートを食べなければ健康でいられるね?長生きするのは良いことだろう。
だが……チョコレートは食べたいだろう?」
たしかに、と二人とも強くうなづく。
「甘いものを食べると不健康になるかもしれない。
だが食べれば心が満たされて優しくなれる。
優しくなれると言うことは、誰かに施しを与えられる。
結果的に、これも良いことにはなるんだ」
ほー、と驚いた顔になる二人に、アルフレッドはこう続ける。
「いいかい?日頃から私は良い子になりなさいと君達に言っているね?
だが、正しいことがすなわち良いことではないと言うときも必ずある。
今日君達が、花壇を荒らした仲間を全治2ヶ月の怪我を負わせたことが間違っているように、
私が健康に悪いものを食べている事が結果的にいいことになるように、
何が正しいか、それはとても複雑で難しい事なんだ。
……そう、そんな顔になっても仕方がないように」
二人は、まさに分からないを表したような眉間にしわを刻んだ表情を見せている。
「……明日には、いよいよ君達は軍務に就く。
外の世界は、とても複雑で難しい事ばかりだ。
正しいと思った事、やった事が間違いかもしれない。
でも、諦めてはいけないよ?
失敗は、どんなに大きく重大なものでも、きっと正せる。
だから…………色々なことを経験しなさい。
きっとそれは、君達に良い結果をもたらしてくれるはずだから」
そ、っとジョアンナとフェリシアの頭を撫でる。
「……分かったかな?」
「難しいけど……はい!」
「頑張ります、ファーザー!」
「よろしい。
じゃあまずは、病室のみんなに謝ってきなさい」
はい、と元気よく返事をした二人は、駆け足気味に部屋を出る。
バタン、とドアを閉める様子を見て、アルフレッドの顔に少し悲しい表情が浮かんだ。
「戦闘用だって……?
まだ子供ではないか……なぜ、こんなにも早く辛い戦いに行かせなければならないのだ……」
机に顔を埋め、祈るように手を組む。
「私を含め、みな神によって作られた物じゃあない。
だがもしもあなたが存在するならば…………
どうか、あの子達が戦わなくて良い、産まれなくていい世に……!」
***
1週間後
火星首都 オデッセイシティ
そこは、海の底にあるドーム型の人工都市。
火星がまだテラフォーミングされていない頃よりずっと、そこに存在するこの星初めての大都市。
その真上に存在する、メガフロート建造物こそ、
SSDF火星支部第一基地である。
第一基地内、エドガー・ギリアム准将のオフィス。
「そう言うわけでだが、辞令を出そう」
まだ若きエリート准将の前に並ぶ、5人の少女たち。
「穂乃村ルル大尉、
リディ・モンヴォワザン中尉、
ヴェロニカ・リー少尉、
シャルロッテ・リーゼリンデ・フォン・ヴィドゲシュタイン少尉、
以後、君達はBHI火星本社と隣接した、第18基地に到着後、
第502戦技教導隊として、任務に就いてもらう。
***
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