SOL.6:作戦名『ショックトループ』
『なんだと!?我が軍の新型が、あの巨大空母の内部に突撃して動力炉を破壊する!?』
地上部隊の指揮官機らしきオレンジ色のレッドローズが、レールライフルでベリル達に応戦しながらそう叫ぶ。
『宙間戦闘用の機体で突入するそうです!』
『随分と大胆だが手慣れた手段を……誰がやると言っている!?』
『無線によれば……穂乃村ルル大尉、だそうで』
『なんだと!』
一瞬、驚きで目を離した隙にベリルがシースルーブレードを
『───だとすれば、成功は確実だな!!』
敵の刃が届くより早く全力で体当たりし、近接武器の実体斧を叩き込み行動不能にさせる隊長機。
『紳士諸君、聞けぇ!!
先のエウロパ解放戦で、我々揚陸部隊を守った『レディエース』が、2隻目の『敵空母撃破』を狙うつもりだ!!
諸君!!我々は、エウロパ奪還の時に、彼女の活躍によって作戦を全うした者達である!!
ならば、やる事はなんだ!?
一つではないのか!?!』
隊長機が無防備にライフルを旗のように天高く掲げ、広域無線で問いかける。
『道を開けぇーッ!!』
『受けた恩は恩で返す!!それが、陸戦道!!』
『ここでやらなきゃ、男が廃る!!』
『女も廃ります!!自分たちで道を開きます!!』
瞬間、飛び交う声。
明らかに、全員の動きが変わっていく。
『紳士淑女の陸戦兵達!よく言ったぞ!!
今から俺たちが『
───うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!
響き渡る咆哮のような叫び声と共に、陸戦部隊の攻撃が強く激しくなっていく。
***
『聞いたことある名前だと思ってたら、大尉殿あのレディエースなんすか!?』
「そうだけど……そのあだ名やめてほしいな」
『なんでまた?わたくしは良いと思いますが』
「だってさ……
────
陸戦機の群れが開けた道を駆け抜け、二人の機体を追い越して飛ぶ。
目の前のベリルが対応するよりも速く、
その顔面を脚部で思いっきり踏む。
「敵でも人を足蹴にするレディはいない!」
ベリルを踏み台に跳躍、迫る2機の反応を待たずにシースルーライフルを撃ち込み爆散させる。
爆煙を掻き分けてさらに飛び、びっくりした、と言わんばかりのベリルをさらに踏み台にして空母へ迫る。
「狙いは……!」
空母の虫のような胴体の、脇に光るベリル達の出てくる丸い穴。
何度目かの踏み台を経て、ブライトウィングのブースターのフル出力で一気に近づく。
そして、ルルの操作でマニピュレーターが、背後に付けられた新武装を掴む。
「ここだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
一閃!そして切り裂かれる空母の一部。
先ほどまで、背中に補助ブースター付き補助翼のように鎮座していた物を、片刃の剣のように振るった一撃でそれが起こった。
この丸い場所は、ナノマシンサイズの装甲であり爆破でもすぐ治る。
だが、実は高エネルギーの何かを出来るだけ速く広範囲に照射するとナノマシン同士の結合が揺らぎ、そこに何か実体のあるものをたたき込むとナノマシンに異常が発生し簡単に開く。
この致命的欠陥故に、ルルの得意としていたBB、スノウウィングのレーザーブレードを使えば簡単に開いた。
そして、BBBブライトウィングがふるったそれは、
新兵器、
陸戦機の実体装甲も切り裂く特殊合金製実体刃にシースルーブレードのように特殊なエネルギーを纏わせて切り裂くものだった。
「はしたない言い方だけど……ご開帳!!」
内部もまるで黒曜石やそう言ったもので出来たような質感のそこへ、ブライトウィングが踏み出す。
だが、瞬間ガクンと動きが止まる。
「何……!?」
見れば、後ろのブースター部分を全力で掴んで妨害するベリルが2機。
「くっ……離せぇぇ!!」
左腕のHEATランチャーを素早く後ろに撃つ。
しかし、ヒビの入った機体で無理してまで内部に入れさせない。
「くっ……このままじゃ……あっ!!」
そして気がつけば目の前の空間にいたベリルが、こちらへシースルーウェポンを向けている。
「しまっ……!!」
その時、カメラアイのある頭部の脇をかすめる光。
シースルーウェポンの光が、敵の頭部を撃ち抜き、一瞬身動きを取れなくさせる。
「ヒュー♪ なんて一直線な攻撃だよ!!」
構えたシースルーライフルのスコープと、レッドローズの頭部センサーの連動で得た情報を見てヴェロニカが声を上げる。
『命中ですの?』
「当たり前だ。
────ほら、出番だぞ!!」
「言われなくても、突っ込みますわよぉッ!?」
ブワァ、と火を噴く固形燃料ブースター。
爆発する勢いで重装甲な陸戦機のブルーローズが飛び上がり、大剣のような切っ先の衝角を向けて突っ込む。
「邪魔ですわよぉッ!!!」
バキィッ!!
割れる、と言うべき壊れ方で、ブライトウィングの右を抑えていたベリルが壊れる。
『曹長!?』
「はい、もう一体!」
ブワッ、と吹き荒れるブースターの出力のまま回転した遠心力と共に、刃すらない剣に似せただけの鉄塊が、もう片方のベリルを砕く。
『ありがとう、シャルロッテ曹長!』
「例には及びませんわ♪
さて、私も空母落としに参加ですわよ!!」
ズシン、とブライトウィングに続いて降り立つブルーローズ。
空母の内部は、実際の空母よりも広く、まさに『空洞』と言うべきものだった。
所々ある柱にもなにやらせて光る器官があり、
壁際には、起動、起動前問わず、まだベリルが並んでいる。
『なんて広い……!我が家の農場よりもずっと……!!』
「シュバルツの技術なら、隔壁も要らないのかもね。
アレ!あれが、間違って撃っちゃった奴!」
ルルの操縦でマニピュレーターはある場所を指差す。
それは、おそらく船体後方に位置するであろう場所。
───ブォン……ブォン……ブォン……!!
宙に浮かび、鼓動するよう光が明滅する球体。
まるで、大動脈と言わんばかりの太いケーブルが天井と床に繋がっている不気味な機関だ。
『あーら、なんて分かりやすい!』
「あっまだダメ!!」
気持ちがはやったのか、左手のシースルーライフルを適当に撃ち放つシャルロッテ。
だが、一直線に球体に伸びた光は、その手前の見えない壁に阻まれて拡散してしまう。
『えぇっ!?!』
「言い忘れてたけど、あの機関の周りにはさっき破った奴に似た壁があるの!
私が間違った時は、一人が投げたレーザーブレードがアレに当たって壁が解除されちゃってた」
『なんとまぁ、本当に事故で撃破してましたのね!』
「そう。
後、前より難易度上がっちゃったかも……!」
この騒ぎの間に、内部のベリル達が立ち上がり、こっちに近づいてきていた。
───わかってはいたが、本当に数が多い。
『わたくし、責任を取って血路を開きますわ。
大尉の機体の武装で破壊をお願いします』
「了か……まってしゃがんで!!」
慌ててブースターを最高出力で起動させ、タックルするようにブルーローズを掴んで倒れる。
背後をかすめるシースルーウェポン。
侵入した穴から、ベリル達が戻ってきている。
『
「気持ちはわかる……!」
応戦。
適当にそこら辺のハッチを壊して盾にする。
やはり敵の素材だからなのか、シースルーウェポンを数発は防いでくれる。
数発、だが。
『どうします!?』
「逃げ道はないし進む道もない!!」
『チェックメイトですわね……!』
ジリジリ、包囲狭まるが何もできない。
一か八か、SEブレードをあそこへ投げつけるかを考えたルル。
『───FOX2!!伏せろ!!』
その時、そんな声と共に
『げぇ!?』
「そっちに飛んで!!』
慌てて入り口付近から跳躍し、大群の位置へ移動した瞬間、
そう、
当然のように、入ってきた穴から
「『に゛ゃ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛っっっ!?!?』」
思わず、変な声を上げながら適当なベリルを盾に爆炎から身を守る。
硬いと言われるベリルでも、対艦ミサイルは流石にかなりの数を爆散させ、盾にした個体も割れたガラクタと化す。
『痛っ……たぁ〜……!!』
「今撃ったの誰!?
助けたいのか殺したいのかはっきりしてよっ!!」
思わず叫んだ瞬間、煙の上がる入り口に見える二つの光。
『ハァ!?
助けたに決まってるでしょ!?
礼ぐらい言いなさいよ、狂人共!』
ボフン、と煙を切り裂き伸びる、レーザー発振器の刃。
現れた空戦型BB、
『これで貸し二つよ!とっとと立ちなさいよ!』
「キッツい言い方!!
……まぁありがとう」
『どーいたしまして』
と、遅れて入ってくる天界達が、アサルトキャノンを連射しながら援護を始める。
『こちら、第45飛行中隊所属エコー小隊だ!!
遅れたが援護に来た!!
そっちの生意気ネコちゃん共々、空母破壊を支援する!』
『一言余計!』
『あら、ネコちゃんご機嫌斜めかしら?』
「なんでもいい!!
まずあの障壁を破壊するから、援護してネコちゃん!」
『ネコちゃん言うなぁッ!!』
とは言うものの、彼女もアサルトキャノンを持って援護を始める。
標準的武装とはいえ、120ミリAPFSDSを叩き込まれればベリルでも怯みはしてくれる。
『大尉、考えがありますわ。その武器借りても?』
「良いけどどうするの?」
『突っ込みます♪』
「……考えとはいえないけど、良し!」
その合間を、SEブレードを受け取ったブルーローズが、陸戦機の中でも最も強力なブースター出力を生かして突っ込む。
『行きますわ行きますわよ行きますわァァァァァァァァァァッ!!!』
刃に纏う緑の光を前に、突きの構えで一気のベリルごと動力炉らしきものの前のシールドに突っ込む。
一瞬、見えない壁に電流が走り、
バリィンッ!!!
障壁が、ガラスのように砕け散る。
「曹長逃げてッ!!」
間髪入れず、シースルーライフルを放つルル。
バシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!
一直線に伸びた光が、丸い心臓を貫く。
一瞬の静寂。
既に、ルル達は逃げの態勢に入り、入ってきた場所へ殺到する。
すぐさま動力源は、撃ち抜かれた場所から光る亀裂が走っていき──────
ズドォォンッッッ!!!!!!!!!!
***
『うわー!たーまやー!!』
遥か地球は日本から伝わり、何故か火星ではすっかり定着してしまった花火の掛け声を、それを見たリュカが言う。
それはとても鮮やかな炎色反応の色。
異星人シュバルツの空母が、破壊された爆発の色。
『…………勝った……!』
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!
誰かの言葉を皮切りに上がる歓声。
瞬く間にそれは広がり、火星の大地をを埋め尽くす。
「やったぜ!!オイ、くたばったなら返事しろやシャル!!」
『────言うと思いましたわよ、ヴェル!』
ズン、と重い音を立てて、煤けた色の装甲のブルーローズが大地に降りる。
『やっぱり行きてやがったか!!殺しても死なないやつだ!!』
「お互い様でしょうに!
……でも、今日は許して差し上げます」
ふぅ、と安堵のため息をつき、上を見上げるシャルロッテ。
「勝ちましたわよー!!クソシュバルツ!!」
そして、とても良い笑顔で上空に向かって中指を立てた。
***
「ふぅ……どうなるかと思った」
ガシャン、と脚部が大地を踏みしめ、ブライトウィングもブリジット達の待つ場所に戻る。
『お疲れ様です、ルルさん』
『いやー、大戦果じゃあないですか〜♪
共同とはいえ空母撃破ですよ!!』
「もう二度とやりたくないです。
やっぱり……軍やめようかな」
『その時はテストパイロットで雇います!
年俸、火星円で何十億で良いです?』
はは、と逞しい言葉に苦笑いで答える。
ともあれ……ここの戦いは終わった。
「他の状況は……?」
『ああ……それが通信によれば、他の艦隊も引き上げたらしいです』
「引き上げた……?」
『はい。
どうやら、先の空母撃破の影響は大きかったらしく。
SSDFの軌道艦隊が攻勢に回った瞬間に、ほとんどが火星圏外へ逃げたそうです』
なるほど、と言いかけて、その次にフィーネに言われた言葉に驚愕する。
『それによって、今より火星大気圏内に残存するシュバルツ艦隊達への攻撃が開始できたそうです』
「え……?」
思わず、声が漏れる。
「待って……たしかに、空母1隻じゃないとは思ってたけど……
『はい。
ここ以外にも、主要都市部に空母や航空巡洋艦が現れています。
7隻は惑星内に出たそうです』
「ちょっと待って、それ……!?
『はい。
これは、本格的な侵攻です』
***
開拓歴60年、火星標準月3月1日
『第一次火星防衛戦争』、発生。
我々、太陽系に住む人類と、
異星敵性体シュバルツとの戦いは、
この日を境に、より激化する事となった。
この日から、
彼女達の戦いの日々も、始まったのだった。
***
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