SOL.5:激闘!火星戦線!!

「アレが援軍……!?」


 突然現れた機体は、ルルの目には空戦機系統なのはわかるが、初めて見る機体だった。


『はいはーい!正規軍より割増で即急行!!

 どうもー、傭兵のリュカちゃんだよー!!』


「その声……まだ子供!?」


『あ、安心して軍人さん!

 そっちよりは、BBBには乗ってる時間長いからっ!』


 と、2丁のシースルーハンドガンと呼ぶべき武器を素早く連射し、ベリル2機を蜂の巣にする。


 ふわり、とシュバルツ側の兵器特有の動きで浮かび上がる残りのベリルが、その空戦機を新たな目標とし攻撃を開始する。







「いっくぞー『鷹匠タカジョウ』!

 ドローンちゃん、行って!!」


 彼女の掛け声と共に、


 いや正確には、彼女の脳内神経伝達を感知した拡張人工頭脳が受信した意思を光の速度で伝達した情報を受け取ったと同時に、全身に備えられたドローンたちが飛び立つ。


 牽制のシースルーハンドガンの連射の中、縦横無尽に駆け巡るドローンたちが、避けた先のベリル達を撃ち抜く。





「すっご……!」


『彼女はウチで雇っているパイロットちゃんでしてねぇ……

 色々あって『機械化手術マシンナイズ』されているからこの手の兵器の操作は得意なんですよ〜』


『リュカさんが敵を抑えているうちに後退してください、ルルさん!

 一度合流しましょう!』


 とりあえず、彼女の撃ち漏らした敵へHEATランチャーを叩き込み、陸戦機の友軍が逃げた方向へ機体を向ける。


「ごめん、武器が少ないから引く!!

 リュカ、ちゃんだっけ?あなたも!」


『私の心配はしないでー?

 それより、逃げた先の方が援軍必要かも!』


「えっ?」


 その時、SOSシグナルが発生する。



         ***



「げぇ……!?」


「冗談キツイですわよ……!?」



 2機の薔薇の名を持つ陸戦機は、見上げた先を見て唖然とする。





 グォングォングォングォン………………




 頭上を飛ぶ、巨大な影。

 まるで、水の上をすすむ多脚の虫と言うべきか。

 いや…………虫というには大きすぎ、そしてその黒曜石のような黒いボディのあちこちにある紫に光る穴から、ベリルを吐き出すそれは、虫などではない。






「シュバルツの空母じゃねーか!?」


「軌道艦隊は寝てましたの!?!」





 二人とも実物を間近でみたのは初めてだが、間違いなくそれは巨大な敵異星人の空母だった。

 本来ならば、軌道上の防衛艦隊が迎撃するはずの代物が、なぜ惑星上に……?




 と、


 ズドォォンッッッ!!!!


 そんな空母へ、遠くから何かが撃ち込まれ、盛大に爆煙をあげるシュバルツの空母。


 見れば、数キロ先にいる陸戦機の大部隊が、自走大口径砲と共に攻撃を敢行している。


「味方の部隊だ!!ラッキー、てことは補給部隊も近くだぜ!!」


「ようやくこの弾切れ状態ともおさらばですわね!」


 2機のローズが走り、部隊への合流を急ぐ。



          ***


『こっちこっちぃ!!よぉーっし!!』


 補給部隊のいる場所に先回りしていたブリジット達のトラックの位置へ、ルルはブライトウィングを着地させる。


「ボールドウィン社長、ライフルすみません!」


『良いって言ったでしょう?

 そんなことより、こういう事も想定して本社からこうやってライフルを持ってきてあげましたし』


 見れば、高速ティルトローター機がワイヤーで吊るして来たBB用武装コンテナを降ろしている。


 どすん、と旧時代の戦車2台分のコンテナが降ろされ、地面にいるブリジットの手のリモコンによって箱のようなコンテナが開く。


 そこにあるのは数々のBB用の武器達。

 先程使っていたシースルーライフルと思わしき物が3つ、砲身と本体とコンデンサに分解されて鎮座している


 人間サイズの銃よりも単純なブロック工法っぷりだが、そのサイズを考えれば普通にすれば接続していくだけでも重機がいくつか必要である。


「メーカーサポートがしっかりしてるなぁ……!」


 ───BBは、というより原型のボーンは人型汎用重機。

 操縦桿を動かせば腕は人のように動きライフルのパーツを掴み、自立コンピュータの補助もあり人のように組み立てられる。


 ものの数十秒で、シースルーライフルはコンデンサを差し込まれ、いつでも撃てる状態になる。


『当たり前でしょう?それが私のBHIですから!』


『────へー、すっげな!!』


『ところで、こちら他メーカー製品にも付けられますのかしら?』


 と、ガシャンガシャンと音を立ててやってきた陸戦機2機────先程助けたあの2体のローズが、勝手に武器を拝借し始める。


『ってちょっとぉーっ!?何してくれてやがるますかー!?』


『まぁまぁ、そう硬い事言わなさんなよ社長様〜。

 どうせ武器を調達すんなら最高のものにしたいのも人情じゃあないかよぉ〜?』


『それに、BHIの兵器はわたくし達も良く使ってますので信頼しておりますのよ〜?

 お、さっき大尉殿の使われていたシースルーブレード!貰っちゃいますわ』


『貰うなー!!

 そして旧型エネルギー炉の出力だと回復しづらかったりするんだから気をつけて扱いなさいよぉーッ!!』


「……はは……こりゃ凄いの助けちゃったなぁ……」





 略奪と言って差し支えない行為である。




 軍票でも出す気かもしれない。


『……しっかし、なんかキナ臭い戦場っすね』


 と、レッドローズの……確か、ヴェロニカという女性兵士がそう声を漏らす。


『キナ臭い?貴女の体臭ではなく?』


『こんだけ戦ってりゃお前もどっこいどっこいだろ。

 そうじゃねぇさ、あれだよアレ。友軍の攻撃方法』




 今、空へと無数のマイクロミサイルや、自走臼砲の球が飛んでいく。




MAP-W


 使、どういうことだ?』



 そういえば、妙だ。




 MAP-W


 Mass Amplitude Preemptive-strike Weapon


 大量広域先制攻撃兵器、要するにこう言った大きな敵や大量すぎる敵を減らすための武装。


 普通なら、まず最初に打ち込まれる物だ。



『鹵獲命令でも降りているのかしら?』


「鹵獲なら、陸戦機じゃなくって私みたいな汎用機を出すはず……

 機動性を生かして接近して、ベリルの出るとこを爆破して乗り込んだ方が楽だったから……」


『大尉殿は経験者なんすか?』


「3回、かな」


『凄い数ですわね……!!成功しました?』


「2回は。

 …………一回だけ、間違って動力炉に撃ち込んじゃって……」


 と、その時、広域周波数帯に連絡が入る。





『────こちら、SSDF第45前哨基地!!

 新成子坂方面で戦闘中の各機、残念な知らせをせねばならない!!』


 何、と身構えた矢先、嫌な予感が的中する。




『敵の卑劣な攻撃により、

 君たちのいる場所へ、今すぐ打ち込めるMAP-Wはない……!』




 わお、とヴェロニカの言葉が聞こえ、嫌な通信は続く。


『軌道艦隊にも通信をしたが、敵の遅滞行動にはまり、3時間は動けん。

 ……我々は今、シュバルツに対し有効な攻撃を出来ない状況にある。


 すまない……!!本当に、すまない……!!!』


 悔しさの嗚咽の混じるその声に、しかし誰もが悪態をつくような気持ちにしかならない。


『……チッ……どーすんだこれ?

 アレ、確かベリルのプラントでもあるから、』


『いる限り無限に敵は湧き続け、本体は何よりも硬い外殻に覆われておりましたわよね、確か』


「それであってる。

 だから、普通は大口径砲持ちの駆逐艦か戦艦がやるんだ……」


 上空で悠々と攻撃を受け止めながら、ベリルを吐き出し、漂う巨大な物。

 地上砲撃も、最早本体ではなく吐き出されたベリルを減らすのに使われている。


『あ、まてよ?このシースルーウェポンならアレ撃ち抜けんじゃね?』


『射程と大きさ考えなさいな』


『エンジン部ならワンチャンない?』


「ごめん、リー曹長。あの空母はエンジンの出力のせいで小口径じゃ溶けて消えるから装甲に覆われた基部狙わなきゃだし、


 何よりさっき知ったんだけど…………

 アイツら、ベリルクラスでも対シースルー防御持ってる」


『『えぇ……??』』


 要するに、艦艇クラスならもっと強力な防御があるはずだ、ということである。


 わかりやすく言えば、詰み、と言うことだ。


『どうすんだこれ……2時間はもたねぇぞ多分』


 こちらが補給の間に、奮闘する陸戦機軍も徐々にやられ始めている。


 そろそろこちらの身を気にする時だ。


『……あの、良いでしょうか?』


 と、そのタイミングでフィーネがそう声を上げる。


「フィーネさん……?」


『さっき、ルルさんが言ってた事をやってみてはどうでしょう?』


「………………えっ!?」


 まさか、とルルは気づく。






「乗り込め、ってこと……!?」






          ***

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