第一章:発進!ビルドバスターボーン!!

SOL.1:穂乃村ルル中尉の災難

 開拓歴60年、火星標準ダリアン歴3月1日


 日系居住区「新成子坂市」、第4普通科高校







 あおーげばー、とおーとしー





 日系人ならば誰もが聞く卒業ソングが鳴り響き、卒業証書が授与されていく。

 普通科、夜間科、そして通信教育科の皆に卒業証書が手渡されていく。



「穂乃村 ルル!」


「はい!!」



 通信教育科は、何らかの理由で学校へ通えない人間のための学科であり、今現在徴兵年齢が15からと大幅に引き下げられた今では軍の制服を纏って卒業式に臨む人間は珍しくはない。


 だが、彼女はその中でも一際異彩を放っている。


 なにせ、モデルと見まごうばかりの良スタイルの美少女だ。

 手足も長く、出るところは出て決して太くない。

 長い髪をツインテールに纏めているのも、幼いだとかそう言う印象を与えないほど似合ってしまっている。


 同じく普通科に通う読者モデルや現役アイドルの生徒ですら見惚れている。


 だが驚くべきは、そんな彼女の軍属の証の制服。


 普通科に通うミリタリーオタク達は、思わず気持ち悪い笑みや声を出しかけてしまう。


 肩の階級章。それの示す階級は『中尉』。

 基本的にBBパイロットは最低でも曹長以上であり、それらの補充のための徴兵年齢引き下げのため、10代士官がいないわけではない。


 だが『中尉』となると話は別で、よほどの戦果かエリートでなければ無理だ。

 ミリオタ達は、一目で彼女は『余程の戦果』の類と分かった。




 制服越しでも主張の激しい大きな胸の、


 左胸辺りに付けられた大量の略章の数だ。


 詳しい内訳は分からないが、分からない数勲章を受けたと言うこと。


 おそらく、『エウロパ帰り』────ッ!!


 たった1、2分の彼女の登場で、一部界隈はその空気をヒートアップさせた。


 そして彼女は、静かに卒業証書を貰って降りていく……



         ***


「あ、お婆ちゃん?うん、終わった所……うん、うん大丈夫……え?いいよ、これでも結構お金あるし……うん、じゃあね、また」


 ピッ、と携帯電話端末を切り、一息つくルル。


「…………ちゃんと卒業できたな〜……ふふっ」


 そして手に持った卒業証書を見ながら、ほっこりとした顔でベンチに深く腰掛ける。


 ここは、街の中の憩いのベンチ。

 遥か遠くの地球は、日本からわざわざ植樹し、今ではこのテラフォーミングされた火星に咲く桜が見える綺麗な場所。





(うん、


 軍やめよう)





 そうして彼女はそういつも心に決めている言葉を反芻する。


(お父さんもお母さんも死んじゃって、お婆ちゃんも足腰が悪いし、ってお金の心配の少ない軍に入ったけど、もういいよねっ!


 高卒資格ありなら、後はどこかの会社に就職して平和に過ごそう……!!)


 穂乃村ルルは、軍を辞めたかった。


 というより、最初から出来れば後方勤務がいいなとすら思っていた。


 ただ、なぜか今では、わずか数年でBBパイロット界隈にその名を轟かす『レディーエース』。

 恐らく異星人シュバルツとの戦いから数年たった今でも、最も撃墜数の多い人間達の一人だとしても、その意思は変わらなかった。


(広報だかの目的で、とっくに前線から戻って新兵教練の教官をやる稼働時間になっても下げてもらえなかった生活とも終わりだー……!!

 どうせしばらくは相手もやってこないから……その間に辞めるチャンス!)


 今、シュバルツ側はその軍規模の総数約3割を壊滅に追い込んだ目算になっている。


 とりわけ、彼女ことルル達、宇宙域で活躍したBB部隊は、徹底して補給線を叩き、電撃的な速度で補給基地を破壊するべく太陽系を奔走した。


 相手側も、軍団として全滅の状態で、木星圏より内部のここまではやっては来ない。


 これがSSDF全体の見解だった。




「これでもう、前線からお婆ちゃんの心配している声を聞かなくて済むよね…………」



 ほ、と一息ついて、空を見る。



 すっかり、大気も密度が高くなり、赤い星だった場所も青空が広がる。


 チカッ


「ん?」




 閃光、そして背後で起こる爆音。

 染み付いた反射行動で伏せていた彼女の背後、薬局のあった場所が爆発して吹き飛ぶ。


「…………」


 物凄く見覚えのある現象だった。

 シースルーウェポン。

 いわゆる敵のビーム兵器。

 名前の由来は、発振器部が水晶のように半透明だから。

 そして、あらゆる装甲が『透けているシースルー』かの如く撃ち抜く代物だったから。







「どうしてシュバルツが来てるのぉ!?!??」






 直後、空からビームの雨が降り注ぎ、一瞬で街は戦場と化した。


 平和は、長く続かなかった。





「どうしてぇ!?!絶対にコレ私が呼び戻されるじゃんんんんんんんん!!!!!!!!!」






       ***

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