第502戦技教導隊コマンドワルキューレ

来賀 玲

プロローグ

 開拓暦56年


 海王星までの進出を完了した地球人類は、コードネーム『シュバルツ』と呼ばれる太陽系外生命体と交戦を開始。


 半年と経たず火星圏までの撤退を余儀なくされた。


 しかし、敵の宇宙戦闘艇を多く鹵獲した『太陽系防衛機構軍SSDF』は、当時宇宙域での船外作業用に広く普及していた『ボーン』という人型作業重機の生産ラインを流用し、対抗する兵器を開発。


 『バスターボーンBB』は、性能と量産性によりあらゆる場所で活躍、木星圏までの生存圏を確保することに成功した。




 開拓歴60年、地球換算1月の事であった。




        ***



 1月、エウロパ奪還作戦フェーズ3



 宇宙開拓にとって必要不可欠な資源である『水』

 木星より外を探索するならば、それが豊富にある木星の衛星エウロパとガニメデの奪還は急務だった。


 『BB-08 スノーウィング』によって構成された『第34無重力機動兵中隊』は、

 この段階でシュバルツが導入し始めた同人型兵器群と、最も最初に交戦した部隊である。


『あいつ硬いぞ!!正面からじゃあダメだ!!』


『パクリ野郎が!!本家本元を見せてやるよ!!』


 スノーウィングは、BBの中でも背後のフレキシブルスラスターのおかげで、1G下でも良質な機動性を保ちつつ、無重力下でも最も動ける傑作汎用BBだった。


 当初は、敵の新型に圧倒されつつも、次第に敵背後に回り込み、AHI 03レールガンの弾を的確にスラスターに叩き込む。


 しかし、ある兵士の悪態は、敵の技術でこの無重力下でもレールガンの反動をかき消しているのだから、疑わしいものではある。


 宇宙戦闘艦艇の高出力ビーム───もちろん敵の技術───で煌びやかに花火のように照らされる暗い宇宙で、敵の新型をあまりにも物ともしない動きで戦う彼ら地球圏の人間も、流石だった。





 とりわけ、一機。


 凄まじい軌道で、一瞬で3機撃墜を果たす機体がいる。





『来たか!!『レディーエース』!!』


『いいぜ、お嬢!!一瞬で俺の記録を抜きやがった!!』





 通信に答えず、両腕にレールガンを構え、ひたすら一撃で背後を取って打ち込む白い影が進んでいく。





『無駄口叩いている暇はない……!!』




 弾切れした左ライフルを、迫る紫の水晶で出来たような人型兵器にぶつけて隙を作る。




『とっとと戦いを終わらせて……!!』



 左手を腰のアーマーへ回し、突起のように生えていたものを掴み、抜く。

 直後、伸びた特殊素材の透明な管を、レーザーが循環し刃を作る。







『高校の卒業単位を、取る!!』






 スパァン!!



 元々、岩盤を切るための機械だったそれは、硬かったはずの敵の不気味な装甲を、頭から真っ二つに両断。


 無音の爆発と、爆風を背後に、白い機体は照り出される。


 異星人が、兵器越しに見てわかるほど動揺する中、再びそのスノーウィングが進む。






『邪魔はさせない……誰にも!!!』






       ***



 俗に、『エウロパ解放戦』と呼ばれた戦いは、

 人類の大勝利に終わり、謎の異星人『シュバルツ』達は太陽系の外、冥王星付近まで撤退をした。

 それまでの犠牲は大きく、人口ピラミッドの崩壊もある。

 だが、太陽系の生存圏を大きく取り戻すことができた。


 そして…………





『これより、卒業証書授与式を行います』






         ***

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