第120話『連鎖する手掛かり』
フィルミの雰囲気が溜息を境に変わったのが分かった。
いよいよここから本番だ。
空気感からして協力的とは思えず、ここからいかに協力をさせるかがカギとなるだろう。
「いやはや、自分の詰めの甘さにはあきれ返りますな。最後まで恍けようと思えば自分でバラしてしまうとは……」
「フィルミが恍けているのは最初から分かってましたから、ボロを出すまで粘るだけでしたよ。どれだけしらを切ろうと、延々としつこく迫ればボロを出しやすくなりますからね」
「それにしてはボロを出すのが早いけどな」
「さて、これで話が前に進みますね」
「協力はしませんよ」
これで進むかと思えば、さっそくフィルミは伝家の宝刀を繰り出した。
協力を強要できない以上、フィルミはこちらの要求を拒否できる。
すでに終身で軟禁されているのだから、見返りがあるとしてもそれが協力に見合うとは限らないし、ルィルたちに思うことがあれば当然の対応だ。
「確かに私は企業秘密ですが情報を得ています。ですが、情報屋として協力を約束はしてませんよ。話を聞くとまでしか言っていませんのでな」
「フィルミの協力次第ではテロの実行犯を検挙できるかもしれないとしてでもですか?」
「もとより興味がないんですよ。事件の果てに国がどうなろうと犯人がどうなろうとね」
「どうして? このままではユーストルはバーニアンの思う壺だし、各国の標的にもなるのよ」
「それは皆さんが努力する話であって私には関係ない話です」
開き直りほど質の悪いことはない。
「協力の見返りも不要です。私はこの生活で十分ですし、なんなら情報収集違反で投獄されても構いませんよ。どんな罰を用意しようと協力する気持ちはありません」
「ふむ……何十年と国……いえ、伯父上と協力し合ってきた仲だと言うのに薄情なものですね」
状況としては良くないのに、エルマは平静な口調でフィルミを煽る。
「エルマ殿下、煽ったところで無意味ですぞ。私はもうハウアーのことは気にしてはおりませんので協力はしません」
「……フィルミ、無意識の癖と言うのは指摘されたからと言ってすぐに直せるほど簡単ではありませんよ。瞬き二回。嘘をつきましたね」
「カマかけには掛かりませんぞ」
「それだけでなくとも伯父上のことを気にしてないと言うのが嘘なのは分かってます」
そう言うとエルマは飲み終わったカップを手にする。
「この紅茶、伯父上が好んで飲んでいたのと同じなんですよね。心理的に考えて無関心の人間が好むものが重なる時は帰る傾向にあると聞いたことがあります。無関心なのに好みが同じだと関心があるとして忌避してしまうからですね。なのに飲んでると言うことはあなたはハウアー伯父上のことを忘れてはいない」
「たまたま好みが同じだっただけで決めつけは止めてもらいたい」
「それだとおかしいですね。元々フィルミはと投獄前は別の品種の紅茶を好んで飲んでいたはずなのですが」
「いち王室が一人の政府高官の好みまで知っているはずがないでしょう」
カマかけと思っているのかフィルミは話は乗っからないが、エルマは怯むことなく話し続ける。
「事実ですよ。ハウアー伯父上が以前、フィルミの紅茶の好みがわからんとぼやいていたことを覚えていましたので。王に服毒を企てて国を混乱にした挙句、ターゲットの好みの紅茶を飲むなんて普通はしませんよ」
「…………」
「悪態をついても忘れないのは、せめての懺悔ではありませんか?」
「っ!」
「あなたなりに国を想っての犯行とは言え王に服毒を計り、仲違いしたまま永遠の別れとなった。六年間相談役を続けていれば回避できたかもしれないからこそ、伯父上を想って嗜好品を飲んでるんじゃありませんか?」
「たかが紅茶一つでそこまで妄想を膨らませるとはすごいですな」
「それだけでなくてもあなたがイルリハランや日本を憎んでいないことも分かりますけどね。床を掃除するロボット掃除機は日本製ですし、このカップも紋章がついてるから宮殿職員用です。口では否定していても、内面では何一つ否定していない証左です」
さすがにロボット掃除機には気づかなくて床に目線を落とすと、部屋の片隅にあるステーションに止まっている円形のロボット掃除機があり、眼を細めて凝視すると英語名のロゴが見えた。
カップもよくみると確かに取っ手部分に宮殿の紋章がある。
全く気付かなかった。
「さすがにこれだけ物証があって恍けるのは難しいのではありません?」
「……むしろ見つけてほしいってくらいだな」
仕草にしろ証拠にしろ、リィアの言う通り注意深く観察すれば分かる物ばかりだ。
ひょっとしたら最初から見つめてもらうために全てワザとしていたのかもしれない。
「でも融和政策に反対なのに日本製を持っているのはおかしくない?」
「フィルミは日本そのものは別に否定していないんですよ。ただ、日本にイルリハランが依存しすぎるのに反対なだけなので、日本製を使うことや利用すること自体は許容してます」
確かに反異星人派なイメージを持つも、動機や目的は日本との距離を保つことに終始している。
「まあ敢えて悪態をついて私たちを試したにしろ、本心で事件解決に興味がないにしろ、私たちにとって大事なのは協力をしてもらえるかないかです。長話をすればするほど敵は次の手を打って来るかもしれない。フィルミ、国の行く末に未練があるなら手を取り合いましょう」
状況からフィルミは敵対しているように見せているだけで、全てが演技だったとしても通る。
二転三転する会話。そろそろ終着するだろうか。
ルィルはフィルミの返答を待つ。
「……ふぅ、どうしてあなたに王位継承権がないのか不思議でなりませんな」
再びの溜息。しかし、先ほどとは違う柔らかいものだ。
「ソレイ様でなく、エルマ様がなればここまで困惑せずに軌道修正出来ましたでしょうに」
「いえ、私は今の立場だからこそやれたのだと思ってます。王位に興味はありませんが、王室としての責務は死ぬまで務める決意です」
「決意は本物のようですな。負けました。私の負けです」
「……全部が演技だったと言うこと?」
場を包む張り詰めた空気がほどけていく。
「全部ではありませんが、皆さんと敵対するつもりはもとよりありませんでしたよ」
「俺たちが信用できるか試したってところか」
「いえ、ただの八つ当たりです」
「おい」
「パラダイムシフトが起きてから六年が経ち、尚且つ万全と思われた対策を施しても親友を殺して我が国を混乱に陥れた。一番近くにいた三人が来れば悪態も付きたくなるものです」
「事件解決への熱意が乏しければ手助けをせずに終わらせたわけですね」
「私自身このテロ事件には憎しみしかありません。親友を殺され、謝罪をする機会も永遠に失われた。私の罪は消えることはないし、死ぬまで背負う覚悟でハウアーに許されるつもりもありませんでした。けれどせめて一度だけ、謝罪をしたかった」
「それが出来なくて憤りを感じたんですね。さらに側にいながらテロを許した私たちもまた憎んだ」
「転移技術が使われたなら対処は不可能でしょうがね」
「分かっていたの? 私たちが来るのを」
「まさか。いくらなんでも軟禁状態の私に頼るとは思ってはいませんよ。ただ、皆さんが来ると聞かされてから私を頼る経緯は想像できましたがね」
「フィルミ、我々は状況証拠から容疑者を割り出しています。何らかの方法でも情報収集していたのならあなたも割り出しているのではありません?」
「ええ。おそらくエルマ殿下たちと同じでしょうね」
エルマとフィルミは視線を合わせると、同時に名前を言った。
『チャリオス』
同時に言ったからこそ、誘導やミスリードはない。
この会談で一度もチャリオスの名は言ってはいないから間違いはないだろう。
ひとまず別動隊以外の肯定意見を得てホッとする。
が、その先にはやはり物証が必要だ。
「これでようやく先に進めます。出来れば会った時からお願いしたかった」
「申し訳ありません。罪人にもプライドがありましたので。ですがここからは協力させていただきます」
「では改めて。我々はチャリオスに視察を行いたいんですが、確証がなくて防務省も政府も許可が出せないんです。なにか説得できる証拠はありますか?」
「結論から申し上げると、ユーストルに因縁を持ち、尚且つ被害者から遡るように調べていったところ気になる人物が浮上したことですね。証拠に関しては法的な能力は持てないので、その方から得れば一気に進展するでしょう。少なくともシルビーみたいに法と手順に則った方法では難しいでしょうな」
「結論と言っておきながら名前を言ってないじゃない。さっさと誰なのかいいなさいよ」
これ以上の焦らしをさせたくなく、ルィルは歳がいなく問う。
「前レーゲン大統領のウィスラーですよ」
「ウィスラー?」
「ええ、ウィスラーとチャリオスは内容までは分かりませんが役員と接点がありました。それも四年前から何度も接触もしていたそうです」
「四年……大統領の任期が終わった年ですね」
「どうしてそんなことを知ってるの? 大統領なら詳細な日程が公表されても、辞任したら公表はされないはずよ」
「大統領を退任すると同時にユースメミニアスの会長職についていて公職には変わりありません。そして無数の人が築き上げたビッグデータが使えました。大手企業のソーシャルメディアサイトだけでなく、個人ブログなど通常検索ですらヒットしないマクロサイトを含めてですね。それらを総括してウィスラー前大統領の痕跡を洗い出しました。さすがに日本人は追跡できませんでしたがね」
「それでビッグデータからウィスラーに関する情報を些細なことから集めて照査したところ、チャリオスと接点が見られたわけですね」
「そうです。これはあらかじめ狙いを決めて遡らなければ触れ合わないので、通常の手順では見逃されてしまいます」
「捜査本部ではチャリオスに容疑すら掛けていないので、ウィスラーの行動を追跡しても気にも留められなかったでしょうね」
「仮にチャリオスを意識していたとしても、最後に会っていたのがテロから三年前です。直近の行動は探っても過去三年まで遡ることはしません」
「私たちはそうした常識は無視しますからね。三年前でも会っているなら調べる価値は十分あります」
他の者なら通常の商談としてスルーしてしまっても、ウィスラーならそれだけで理由になる。
考えられる可能性は三つ。ウィスラーがバーニアンであることを知っていたか。ユースメミニアス会長だから誘致の誘いか。一切前提の無い個人的な繋がりがあったかだ。
この状況下ではバーニアンと知っての接触が濃厚と言えよう。
「しかしな、チャリオスはまだしもなぜウィスラーをピンポイントで調べたんだ? 被害者は何百人といたんだ。他の被害者とも接点があったかもしれないんだぞ」
リィアの言う通り、ウィスラーをピンポイントで探るのは不自然だ。チャリオスは転移技術のエネルギー量からバスタトリア砲を疑い、試射日と追跡で憶測を立てられるが、被害者を特定することは出来ない。
ハーフのバーニアンを知っている人物に絞れば三十数人となるが、その前提がなければ被害者全員の過去を探るから個人での捜査は困難だろう。
「ええ、さすがに私一人で被害者全員の過去を洗うことは出来ませんでした。なのでチャリオスの行動から被害者と接点がないかを探りました」
膨大な数の犠牲者からでなく、一つの容疑者から絞り込んだらしい。
それでも世界的企業だから範囲はとてつもなく広い。いくらネットの海にあるビッグデータとはいえ、二つの点を引っ張り出すとは並みのシステムやプログラムでは出来ないだろう。
「その結果、内容が不透明な会合をしているのはウィスラーのみだったわけです」
「それを軟禁状態のあなたがその『企業秘密』で調べ上げたの?」
「さほど難しいことではありませんよ。やり方次第なので、方法を知れば皆さんでも調べられますよ」
「次に行くのはウィスラーの私邸か。故人とはいえ私邸への立ち入り許可下りるか? それ以前にエルマもウィスラーと面識はないからまず許可下りないぞ」
「そうですね。そもそも今のレーゲンとは過去最大級に悪いですしね」
日本とユーストルを巡っての会議を経てからはレーゲンとの関係はわずかながらに良くなったが、次期大統領は絵に書いたような反異思想とユーストル奪還派がなった。断交こそしていないが、大使を互いに帰国させるほどに劣悪な関係となっている。
そんな中で捜査目的でも入国に加えて被害者の私邸の家宅捜査を許すとは思えない。
「それでしたら別邸に行かれた方が何かしら情報があると思います」
「別邸? ここみたいな?」
「二年前にユーストル外縁レーゲン領の巨木林に別邸を建設しています。浮遊都市や巨木都市ではなく、屋敷が単独でです」
「ということはインフラ設備は整ってない?」
「上下水道もなければガスもありません。電気はレヴィニウム発電で問題ありませんが、生活するには不便しかありませんね」
「保養や休養目的ではなさそうね」
「その別邸の資料はありますか?」
「建前上情報収集は出来ないとなってますのでな。紙も電子もありません」
そうフィルミは言うとエルマが用意したテロ事件の資料の紙を裏返し、空白部分に数字を書きこんだ。
「この座標にウィスラーの別邸がございます。また私が仕掛けた罠とも疑えますので、十分裏を取って動いてください」
エルマはリィアを見ると携帯電話を取り出して座標を打ち込む。
「……ユーストルの東南。外縁から十五キロの地点にある巨木の森だな」
見せてもらった画面には巨木林の森が延々と続く密林となっており、円形山脈からほど近い所にマーカーがついていた。
「その別邸は公職を退き、尚且つ私財で建てられたものなので警護はいません。不動産なので登録義務はあり、おそらく家宅捜査もされたでしょうが何かしらの痕跡を残しているでしょう。あくまで情報を残してくれていたら、という前提がありますが」
「元軍人であれば被害者の家宅捜索程度では見つからない場所に資料を持っているなら隠すでしょうね。接触していたのならテロ組織が来てる可能性もあるし」
「ただなぁ、それってウィスラーが俺たちの味方っていう前提の話だろ? ひょっとしたらテロ組織バーニアンに属していて、利用するだけ利用してテロで処分したとも考えられる。無駄に終わることもあり得る」
「そうですね。そもそも何もない可能性の方が高い。けれど確認する前から諦める選択肢を私たちが取る理由はありません。無駄だったと知るためにも行きましょう」
「……行くのはいいけれど入国はどうするの? 入国自体は出来るでしょうけど監視は絶対に付くわよ」
この社会で他国に入国するには、ロケットかジェット旅客機で空港間で移動し、入国手続きを経てその国で自由に移動できる。
空に立つからこそ、国境線を超えることは造作でもないが、密入国がバレると重い刑罰が下されるのだ。
刑罰は国々によって異なるが、とある国では密入国が分かり次第裁判なしの射殺まである。さすがにそこまでの国は少数なものの、難民など理由が説明できない犯罪以外ではハイリスクハイリターンだ。
「なら方法は一つしかありません」
「虎穴に入らずんば虎子を得ずね」
「日本のことわざですね」
「フィリア的に言えば、ムルートに近づかなければムルートに触れられない、かしら」
ムルートは世界に五羽しかいない巨鳥であり聖獣だ。非干渉監視目標に世界的に定められて近づくことを禁じられている。危険だが成果を得るために敢えて近づくなら適した表現だろう。
「密入国して別邸に行くしかない、か。ハイリスクハイリターンだな。もしバレれば二度とイルリハランには戻れないぞ」
「フィルミ、他にビッグデータから得た情報はありますか?」
「そこは法的に深くまで調べられるエルマ様たちの方が早いでしょう。私が話したことが正しかったかの裏付けも出来ます」
フィルミが提示したのは調べ方だ。ビッグデータは文字通り膨大なデータで、漠然と探しては例え記録があったとしても見落としてしまう。
しかもチャリオスは盲点な上に何年も前のことだから見つけることが出来なかった。それを前提に数多の点と点が交わるところを何年も前に遡って調べれば新たな発見があるかもしれない。
さすがにチャリオスとウィスラーの絡みはルィル達ではまず発想すらなかっただろう。
そこは能力の違いか。
ただ、フィルミが話していることが真実ならばの話だ。
「手がかりに近づくとまた手がかり。おそらく次もまた手がかりがあるかでしょうが、今は前に進み続けましょう。フィルミ、前に進む手助けをしていただいてありがとうございます」
「礼には及びません。自己都合でかき乱してしまいましたので」
少なくとも瞬きによる嘘発見には引っかからない。ひょっとしたらそれ自体が欺く演技と言えてしまうが、人の心など分かりようがないのだ。どこかで線引きをしなければならない。
「ひとまずユーストルに戻りましょう。確認して次は密入国です」
王室の一員が堂々と密入国。
いよいよ戦争クラスの国際問題となりそうだ。
ともあれ、一応の成果は得られた。
「フィルミ、見返りの件ですけど」
成果を得たため、エルマも筋を通す。
「相談役に復職する気持ちはありますか?」
!?
この提案には全員が驚きの表情を見せた。
「もちろん私の権限で復職自体は出来ません。その提案をソレイとラネス叔母上にした上で、あなたが二人を説得してください。その機会は私が約束します」
「それは事実上不可能ではないですかな?」
「あなたの相談役としての技能は、今の弱体化した政府には必要不可欠です。ハウアー伯父上は王としての資質を十分あったからこそ、あなたを切ってもやれました。ですが、政府上層部が吹っ飛んだ今ではあなたの力が必要です」
「そ、それは嬉しいお誘いですが、私は前王に毒を盛った首謀者ですぞ。技能があるとはいえ犯罪者を雇えば国の信用に関わります」
「その心配はありませんよ。あなたが犯罪者であることは国民は誰も知りませんし、隠居生活をしていたところこのテロで復職すると言うシナリオは通りやすい。ただ、ソレイとラネス叔母上には話すしかないので、話術をもって口説き落としてください」
「それはリスクありすぎない? もしまたやったら……」
「日本との友好関係が根強くなった今、政府高官の暗躍程度ではもう切り離すことは出来ません。それにソレイに手を出せば四百年続いた国が滅びます。フィルミ、あなたは類稀なる愛国者であることを知っています。あの暴挙も愛国心ゆえでしょうが、国を終わらすつもりはないと信じています」
「そう言って貰えるのは嬉しいですが……」
「私はあくまで機会を設けるだけです。それを無視するのも、復権を勝ち取るのもあなたの自由です。とはいえ機会を設けるのはウィスラーの別邸で進展があった時ですが」
「見返りの件に関しては特に求めるつもりはありませんよ。無償と私は思っております。あとはエルマ様の善意にお任せします」
こうして大犯罪者との会談は終わった。
真偽はどうあれ、立ち止まることなく前には進める。
「では一度ユーストルに戻るとしましょう」
「もう?」
「次の手がかりは得ましたからね。フィルミの言っていることの裏を取る必要もありますから」
見えない敵を追いかけるためにも時間が惜しい。
エルマは立ち上がり、ルィルとリィアも合わせて立ち上がった。
「お見送りしましょう」
フィルミの案内で家屋の玄関まで向かう。
「エルマ様」
「はい」
「相手は国家に匹敵する企業。十分気を付けてください」
「貴方が言うと重みが違いますね」
「ハウアーの敵を取ってください」
こうして大犯罪者との会合は終了し、三人は浮遊艇に乗り込んだ。
「手がかりの次にまた手がかり。いつになったら本命に触れられるのかしら」
「見えない敵を相手にしてるからな。ウィスラー邸でなにかしらの資料があればいいが、敵側にいた可能性だってある。安心は出来ない」
「敵か味方かを知るだけでも価値はありますよ。なんであれ手がかりがこれしかないんですから行くしかありません」
「ウィスラーの罠って可能性もあるけどね」
終始ウィスラーの演技で、敢えて敵対することで信用させて罠情報を送り付ける。手間はかかるが罠には掛かりやすく、手遅れになるまで気づくこともないだろう。
「エルマはどれくらいフィルミのことを信用してるの?」
「いえ、信用はしてませんよ」
「……はっきり言うな」
「敵味方が分からないのに信用するのは愚か者がすることですよ」
「ならどうして復職のことを? 万が一敵側だったら大変では?」
「フィルミの能力がソレイに必要なのは事実ですし、情報が本当なら当面の信用はできます」
「ハイリスクね。信用を植え付けるための演技もありえるわ」
「だから信用していないんですよ。まあ、フィルミとテロ首謀者も、捜査機関が秘密裏に軟禁している犯罪者から情報収集するなんてイレギュラーな動きは想定しないでしょう」
冷静に考えると確かに特殊な情報収集だ。
フィルミ自身自分に捜査依頼が来るとは想定はしていないだろう。フィルミも仲間に抱き込むなら種を広範囲にばらまく必要があるから事前に情報が漏れやすい。
事前にテロが察知できなかったことを考えると、フィルミを抱き込むことは考えにくい。
ここはリスクを負っても信用をするべきか。
「このままユーストル経由でレーゲンに行きましょう」
「っ! このまま!?」
唐突の提案にルィルもリィアも驚きを見せる。
防務省から視察の不許可を貰い、そのままフィルミ邸に来てのレーゲン共和国への不法入国だ。すでに時間は夕刻をさしており、空も薄暗くなっていた。
マリュスから直接レーゲン領に不法入国しようと、ユーストルを経由しようと到着は深夜となろう。
善は急げとあるが、不眠不休で情報収集に努めるつもりか。
「一応聞くけど、急ぐ理由は?」
「フィルミが敵側にいた場合、ウィスラー邸は罠の巣窟になります。敢えてフィルミに裏を取ると言ったのはその時間差を作るためです」
「ま、普通は翌日に準備を整えて向かうわな」
「ひょっとしたらこの考えは読まれているかもしれませんが、ここは速攻で行きます」
「……まあ行くのはいいけど、一度コンビニに寄らせてくれ。トイレに行きたいし、何か食べ物を買った方がいい」
ルィルたちは朝食から何も食べていなかった。
夜通しの弾丸旅行をするなら何か食べなければ空に立つ体力すらなくなってしまう。
「そうですね。ここで軽食を買ってユーストルに戻りましょう」
そうして浮遊艇は一路コンビニへと向かい、身支度を整えてユーストルへと戻ることにした。
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