第110話『新王の初決断』
ソレイ・ビ・イルリハランは、幼少の頃から将来自分が王位を受け継ぐことを聞かされ続けて来た。
安定した時代と内政から、なるとすれば半世紀後であった。
しかし何が起きるのが分からないのが人間の世界でもある。
そしてたった二人しかいない王位継承権を失うわけにもいかないため、ソレイと父リクトが同じ浮遊船に乗ることはなく、文字通り万が一を考えソレイは就学前から王室とは何か、王位とは何かなど帝王学を学んで来ていた。
イルリハラン王国は建国当時から王位は男子が継ぐとし、直系と言う制約から側室が欠かせない。だが、時代の変遷から側室制度は撤廃の流れとなり、その結果が王位継承権を持つ男子の減少だ。
異星国家日本でも同じ問題を抱えて苦慮しているらしく、人道が常に壁となる。
その対策を考えている中で起きた悲劇に、ソレイはいや応なく王としての位を背負うこととなった。
即位式はテロ事件が起きてから八時間後の夕暮れ時に行われた。
リクト王弟の逝去はすぐに分かったが、ハウアー国王の崩御の断定に時間が掛かってしまったためだ。
果たしてハウアー国王の遺体は発見はされなかったが、爆発の規模から死は間違いないと言う断定から崩御と断定。王位がリクトを越えてソレイへと引き継がれた。
イルリハラン王国には生前贈位と崩御即位の二つの王権の移譲があり、基本的には前者によって王位は引き継がれる。
そのため王位の引継ぎは代々記念すべきイベントとして国家を挙げて祭り上げられるが、今回ばかりは粛々とした行事として執り行われた。
即位式を終えたソレイは、今朝まで座っていたハウアー国王の代わりに玉座に腰を下ろす。
その瞬間、玉座の間にいる人々は全員右手を左肩に当てる敬礼の所作を取った。
王となった者に年齢や在任期間は関係ない。王と言う存在に対して全員が無条件で敬意と忠誠を誓う。
しかし、王に即位したソレイ王に、王としての執務をさせることはさすがにできなかった。
民主主義として必須である内閣、国会、裁判所がそれぞれ独立している三権分立は、王政では全て王家が仕切ってしまう。
イルリハラン王国はその常識に反するように、議院内閣制に加えて三権分立も成立させていた。よって国家権力の内、国会と裁判所の心配はないのだが、内閣だけはそうはいかなかった。
内閣の長が国王であるため、必然的にソレイ王が内閣を仕切ることになるからだ。
だが、つい数時間前まで学生だった人間が、政治の世界に放り込まれてもまともに機能させられるはずがない。帝王学を学んでいたとしてもあらゆる経験も知識も不足しているのだ。
王としてありとあらゆる決断を求められようと、覚悟も経験も知識もないソレイ王にさせるのは、仕方ないの言葉で片付けるには酷だった。
イルリハラン王国には宰相に相当する者がいない。相談役として王の決断を補助する者がいたが、その立場故に裏で暗躍していたことがあり、それが露見してからはそうした役職はいなかった。
ソレイ王には必要な役職であるが、決断力のない指導者の宰相は裏の指導者としてなりやすい傾向にある。
そのため、応急的に招集できる王室全員の協議によりソレイ王の補佐をすることとした。
野心溢れる政治家に権限を与えるより、身内である王室の人間であればまだ安心の世論を見据えての措置だ。
とはいえ、傀儡の王には違いないが。
「……疲れた」
だだっ広い王執務室。今まで使っていた学習机の十倍は広い机に、まるで父の職場に遊びに来て座らせてもらった子供のように、ソレイ王は突っ伏した。
「ソレイ、いくら誰もいないからと言って突っ伏してはダメよ。あなたは国王なのだから」
そう諭すのはソレイ王の実母であり、王太后となったラネス・ホール・イルリハランだ。
決断力の乏しいソレイを補助すべく、政治としては経験が乏しくとも外交にはまだ明るいため常に同行することとなっている。
ただ、母の言葉をそのまま言ってしまうのが子供の性であるため、政治的なことについては王室の判断にゆだねてラネス王太后の独断では答えないようにしていた。
なので小言は礼儀作法とソレイ王の言いなり防止に努めている。
「はい」
テロ事件が起きてから四日が過ぎた。
以前として捜索活動が続けられ、犯人に繋がる物は何も見つかっていない。
どうやって爆発させたのかも不明なままだ。
テロ初日は流されるままに動かされ、翌日からは国内外の有識者や各国大使との謁見が続いた。
全員がハウアー前国王とリクト王弟の冥福を述べるもので、支援も可能な限り行うと言う定型文ばかりである。
ソレイ王にとって肉親を二人同時に亡くし、さらに身分不相応と言える王位を授かって束の間の謁見に、悲しむ暇もなければ考える余裕もない。
気づけば四日と言うほど、記憶に残ることなく時間は無情にも過ぎてしまっていた。
「母上、テロ事件はどうなってる?」
「今朝報告あったじゃない」
「もう覚えてないよ」
国王が直々に書かなければならない書類の署名に、王室主導による閣僚会議への参加。まだまだ来る国内外の有識者に大使との謁見。
十三歳でありながらの過重労働に、今朝の報告すら覚えられなくなっていた。
一般人なら児童法や労働法に抵触しても国王にまでは及ばないのだ。
「進展は今のところはないわ。爆発方法も主犯もね」
「どうして何もわからないの?」
「瓦礫が粉々過ぎて分析できないのよ。それに瓦礫はみんな地面に落ちていて、私たちには調べられないから日本に調べてもらっているの」
「予想もないの?」
「情報省は国家ぐるみじゃないかと言っているけど、日本の調査報告がないと分からないわ」
「はぁ……」
ラネス王太后もまた愛する夫を突然失った悲しみがまだ色濃く残っているが、王太后として、母親としてそれを許さず、気丈な振る舞いでソレイ王の背中を押し続ける。
「ソレイ、何度も言うけれどあなたはこの国の王なのよ。顔色一つで国が揺らぐのだからしっかりなさい」
王はその国の象徴であり鏡でもある。
暗い顔をすれば国も暗くなり、明るくなればまた明るくなる。
翻せば、国がどれだけ暗くなろうと王が明るければ国も明るくなるのだ。
今ここで王であるソレイが暗い顔をし続ければ、ただでさえ最悪のテロが襲ったこの国をさらに暗くしてしまう。
王であり子を支えるべきだからこそ、ラネス王太后は敢えて嫌われ役を買ってでてソレイ王に注意をする。
「分かってるよ」
もしソレイ王が一般市民の十三歳であれば駄々をこねていたはずだ。面倒なことはしたくない、嫌なことから逃げたいと考えていただろう。
しかし、自分は『王』である自覚があるからこそ、そうした考えは抱けなかった。
「とにかく真相は分からないと言うことか」
「調査は情報省と日本に任せて、あなたは国を守ることを考えて」
ここでの守るとは、政治をしろと言うよりは国としての顔を守れとソレイ王は分かっている。自分に政治力がないからこそ、自然とそうした考えがなる。
幸いある程度の執務は王室の皆が分担してくれるので、ソレイ王自身に掛かる負担はある程度は軽減される。
ただ、それでも権力は持っているため適当な采配は与えないといけない。
例えそれが嫌な内容であってもだ。
執務机の電話が鳴った。ソレイ王は電話のボタンを押してスピーカーモードで応答する。
「はい。な……いや、なんだ?」
敬語を使う癖が抜けず、改めて威厳を作る。
『エルマ様がお越しになられました』
「エルマ兄が?」
つい普段使っている通称を使ってしまった。
『ソレイ陛下との謁見を希望されております。アポイントがありませんが、いかがなされましょうか』
王室の中で唯一イルフォルンの外で活動しているのがエルマだ。よって王室の皆は当日中に見舞いに来てくれたが、大使をしているエルマだけはすぐに来ることが出来なかった。
「通してくれ」
『畏まりました』
そして通話は切れる。
「エルマ兄、本当に無事だったんだ」
エルマが無事だったことはテロ翌日に知らされていたが、日本の風土病に掛かっていて連絡を取ることも出来なかった。
エルマは王室の中では年齢が若い。エミリルもエルマより年下であるが女性ともあって、ソレイ王はエルマと遊んだ記憶がある。
とはいえ軍務についているエルマと遊ぶ機会は年間を通しても数回しかなかったが、歳が近いこともあって慕っていた。
五分ほど待つと執務室のドアが開き、正装に身を包んだエルマが入って来た。
「ソレイ陛下、先の非道なる事件により心身ともにお疲れではありましょうが、こうして謁見できることを感謝します」
普段とは違う厳格なあいさつに、ソレイ王はさらに自分の立場を痛感する。
「王室の一員として、僅かでも陛下の負担を軽減できますよう誠心誠意勤めさせていただきます」
「あ、ああ。頼む」
いつもは兄として扱ってもらっているばかりに、どう反応すればいいのか分からなくなる。
額から冷や汗が一筋流れ出たところで、自分は王なのだからと言い聞かせて発言をした。
「エルマ、ここには身内しかいない。立場として守らなければならない礼儀はあるやもしれないが、普段通りにしてもらえると助かる」
「陛下がそうおっしゃるのであれば」
エルマは一呼吸置き、今度は普段の口調で話し出す。
「ソレイ、大変だったな」
「うん。でもエルマ兄も無事でよかった」
「素直に喜べないのが悲しくて悔しいよ。ラネス叔母様、恥ずかしながら自分一人生き残り戻ってきました」
「何を言うの。どんな形であれ無事だったことを喜びなさい。それに悪いのは卑劣なテロを起こした実行犯よ。あなたは何も悪くないわ」
「僕も同じ。父上と叔父上は悲しいけど、エルマ兄が生きてたのは本当にうれしかった」
「ありがとう」
「それでエルマ兄、わざわざユーストルから来てくれたのは……」
言いかけて口を閉ざした。形式的なことであればショックを受けてしまうからだ。
「もちろんソレイを心配してだよ。当然じゃないか」
そう言われて内心安堵する。
いつものエルマ兄だ。
「ラネス叔母様、少しの間二人っきりで話をしてもよろしいですか? 男同士話したいこともあるので」
「……いいでしょう。けど公務が立て込んでいるので十五分だけにしてちょうだい」
「分かりました」
ラネス王太后はため息交じりの表情を見せると王執務室を出ていき、エルマと二人っきりとなる。
「……エルマ兄」
「ごめんな。何も出来なくて」
「そんなことないよ。エルマ兄は病気になって入院してたんだから。誰だって、爆破テロが起きるなんて考えてないよ」
「だとしてもさ。そうしたテロを未然に防ぐのが仕事なのに、誰一人気づかれずにされてしまったんだから」
「……エルマ兄、この先ずっと僕は国王をしないといけないの?」
「やりたくない気持ちは分かるよ。出来るなら代わりにやってあげたいけど、四百年の歴史を今ここで壊すことは出来ない。史上最悪の事態だからこそ、自分たちが守らないといけないんだ。ソレイ、君はまさにこの国千年後に続く歴史の分岐点なんだよ」
建国から約四百年。イルリハラン家は一度も男子直系を揺らぐことなく守り続け、国を支え続けて来た。日本はそれを二千四百年以上続けているとあまりにも短いが、フィリア社会にとっては長い方だ。
自国としての誇りを、歴史をここで破断させるわけにはいかない。それでは守る続けて来た先祖に示しがつかないからだ。
他の職業であれば逃げることは出来ても、王室は安定した未来を約束される代わりに逃げ道がない。最初から定められた道を進まされ、後戻りも脇道にそれることも許されなかった。
「ソレイ、もし携帯電話を持ってるなら電源を落としてくれないか?」
エルマは突然そう切り出し、机にある電話の電話線とコンセントを抜いた。
「あ、うん」
素直に従ってソレイ王は携帯電話を取り出して電源を落とす。
と、エルマはため息をついた。
「ソレイ、言うことを聞いてくれるのはうれしいけど、警戒はしたほうがいいぞ」
「え?」
「もし俺がテロの実行犯で、ソレイの首を狙ってたらどうする。警護を呼ぶことも出来ずにやられるぞ」
一瞬なにを言っているのか分からず、その後言っている意味に気付いて机の裏にある非常ボタンに手を伸ばそうとする。
「あー、待って待って。テロの実行犯じゃないし連絡させないために電源落としたわけじゃないから」
「本当?」
「本当だよ。でも心配なら少し離れるし、ボタンの側にいていいよ」
自分から言い出した以上は安全もまた自分で言い、エルマはソレイ王から三メートル以上離れた。ソレイ王もすぐにボタンを押せるようにした状態で話を聞く。
「それでエルマ兄、母上まで追い出してなにか僕……いや、王に話したいことがあるの?」
流れからエルマは『ソレイ』としてではなく『イルリハラン国王』に話しがあると見て改めて尋ねた。
ただのお悔やみの言葉を述べるためにわざわざユーストルから来るのは、王室の一員であっても立場から考えれば非効率だ。それなら電話でもテレビでも済む。
「流石に分かりますか。はい、ここからは甥としてではなく、ソレイ陛下として話をします」
エルマ大使の顔つきが変わり、ソレイ王は生唾を飲み込んだ。
「陛下に一つお願いがあります。結論から述べますと、私に一つ捜査班の総括権限を与えてもらいたいのです」
「捜査班の権限を? けど捜査は情報省と日本がもうしていると聞いているけど?」
「陛下の安全のため詳細は言えませんが、少数精鋭で別動隊を作りたいのです。正規のチームとは独立した捜査班を作り、正規のチームに邪魔をされずに捜査を行いたいのです」
「詳細を言えないのはどうして? 国王にも言えない情報はないはずだけど」
「知れば陛下の命に関わるかもしれないからです。この事件には私ともう一人だけが知るある仮説があり、その仮説を立証するために非正規での捜査班が必要なのです」
「仮説……」
「日本でも、その仮説が総理大臣に伝えられていると思われます」
「……待て。日本の首脳は仮説を知って、僕は知ることは出来ないのか?」
「それも仮説からです。解決した時にはご説明できるのですが、今、陛下が知るのは大変危険なのです。無知は死を呼ぶと言われますが、今は無知は生を呼ぶと言えます」
「それだと僕はエルマが何をしているのか知ることも出来ず、けど何をしてもいいと言う許可出すということか? だとしたらエルマは捜査だけなら王と同等の権限を与えると言うことじゃないのか?」
詐欺師であってもそのような要求をしないことを、人生短くともソレイでも分かっている。
「こればかりは私を……エルマ・イラ・イルリハランを信じてもらうしかありません」
「ついさっき、エルマは自分がテロ実行犯だったらって言ったけど、実行犯だったら生き残るのは確実に出来たよね。だとしたらその権限欲しさにしたとも言えなくない?」
言いたくはないが、そうした解釈も出来てしまう。そしてエルマなら無理難題のテロの実行も不可能ではないと考えられてしまった。
その疑念がある以上、敬愛していても素直に「分かった」とは言えない。
「当然の反応です。身内とはいえ、詳細を話さずにそんな要求を言えば疑って当然です」
「けど、エルマは許可を求めてる」
「なぜ詳細を言えないのかは、あのテロで亡くなった人の中に言えない理由を知っている人達が含まれ、今知っているのは私ともう一人だけなのです。なので、いつ私が狙われるか分からない状態でもあります」
「なら今ここでも狙われるかもしれないと?」
「理由を知ればソレイ陛下も狙われてしまいます。なので言えず、正規捜査チームと共有することも出来ないのです」
「……じゃあ世界中で爆破テロが起きたのは」
エルマはソレイ王を見るだけで何も答えない。それが答えだ。
「ソレイ陛下、出来れば納得出来るだけ話をしたいところではありますが、時間がありません。ラネス王太后の耳に入るとややこしくなるので、私と陛下だけの話として、いま決断してください」
ラネス王太后が知れば、確かに横から色々と言われて話が進まなくなるし、こうした話は知る人間は少ない方がいいのも分かる。
しかし、具体的な説明も根拠もなく、ただエルマを信じて大権を与えるべきか。
「考える時間を与えないのは詐欺師の常とう手段です。出来ればもう少し時間が欲しい所ですが、今を逃すとその仮説の立証も出来なくなります。王室の一員として、同じ男として、私を信じては頂けないでしょうか」
「…………」
「陛下」
「この命令は勅令? それとも王命?」
「王命です。秘密裏ではありますが、違法行為ではありません」
「……分かった。条件として僕とエルマでホットラインを繋いでほしい。相談したいのも含めて、どんな状況でも連絡を出来るようにしてほしい」
「分かりました。捜査内容は教えられませんが、政治的相談なら喜んでお受けします」
「エルマ兄ちゃん、信じていいんだよね?」
「それは行動で示すよ。それをソレイ自身が見て判断してほしい」
ここで信じると言われても懸念は残り続ける。なら行動で悟るしかない。
元軍人であり、大使として政治にも深くかかわっているからこそ安易な言葉に意味がないことを知っている。
「分かった。それで、王命を出すのはいいけどどう出せばいい?」
「書類を持って来たから、署名と王璽を押してほしい」
エルマはカバンから二枚の書類を差し出した。
「権限はあくまで二十人未満の捜査班の総指揮で、軍を動かすような権限は盛り込んではない。解釈でもそうならないようにしてあるし、それでも反逆行為をするようなら逮捕に動いてもらって構わない」
広げられた二枚は同じ内容で、一枚はソレイ王自身が持つ控えだろう。
タイムリミットまで時間がないので急いで読むも、エルマの言う通りで捜査班の総指揮を認めると言う内容だ。
要約すると総指揮権を除いて六つの内容に分かれる。
①人数は十人を上限で勧誘はエルマに一任。
②勧誘する人の業種は日本交流に参加したイルリハラン軍に限り、武器の使用は一軍人の装備までは認めるが対物兵器は認めない。
③期間は犯人を確保するまでで、確保後は速やかに班を解散する。
④捜査本部は駐日イルリハラン大使館用浮遊島の一部を使う予定。
⑤原則としてこの非正規捜査班が獲得した情報は公表せず、しかし正規捜査班の非公開情報は入手可能の権限を保有出来る。
⑥捜査権限は情報省特別捜査官相当とする。
捜査の一点に於いて最上級の特権を与える内容に、ソレイは少し考えた。
ただ、捜査権限が捜査官相当であるため違法な捜査はしないとなる。すれば王命違反だから即解散だ。
それだけでなく王の命令での結成だから、逆に王の命令で強制的に解散も出来る。
読む限りでは正規の捜査班に対しては横暴でも、非正規の捜査班だからこそ仕方ないのかもしれない。
ソレイ王はこの決断が正しいを信じ、同時にエルマを信じて署名と王璽を押した。
これでエルマは王直属にして独立した秘密裏の捜査班を持つことが許されたことになる。
「もし民間の人に危害を加えたりしたら、テロ組織として捕まえるから」
「陛下の判断が正しかったことを、犯人を逮捕することで証明してみせます」
あまりに時間の無い、誰かに相談も出来ない決断に手が震える。
「……ソレイ、ごめん。まだ王として不安なのに、いきなりこんなことをさせて」
手の震えに気付いてエルマは声をかけた。
「こんな、相談できない決断をこれから沢山するんだね」
「それが王の義務だよ」
「エルマ兄、どんな秘密を知ってるのか知らないけど、死なないで」
「約束は出来ないけど、やれるだけやるよ」
ここで虚勢でも約束しないあたり、本当に危険なのだろう。
二人は王命の書類をそれぞれしまう。
合わせてドアが開いた。
「時間よ。エルマ、話は済んだ?」
「はい。今しがた終わりました。それでは陛下、私は再び業務に戻るべくユーストルへと向かいます」
「あ、ああ。がんばってくれ」
エルマは大使としてソレイ王に敬礼をし、ラネス王太后に会釈をして退室していった。
「ソレイ、エルマと何の話を?」
当然母として聞いてくる。
「男同士の話だよ」
決して話すことのできない内容に、ソレイ王はそれっぽい言い訳で煙に巻いた。
男同士の話とあっては母親とて無理強いで聞くことは出来ない。
「そう」
「それで、次の仕事はなに?」
ソレイ王は王として動く。
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