第33話『羽熊の帰宅』



 誤解されがちだが、異地語ことマルターニ語の学習及び教本化は、羽熊が一人でしているわけではない。


 確かに羽熊の勤務時間は国が定める時間をはるかにオーバーしていて、残業時間だけで言っても二百時間を軽く超えてしまっている。



 しかし、マルターニ語の文字学習と教本化は開始当初からチームで行われていた。



 チームは羽熊以外の言語学者と文部科学省、外務省の十数人で構成され、須田駐屯地に専用の部屋まで用意されている。


 ではチームなのだから羽熊以外のチームも羽熊並に仕事をしているかと言えば違う。


 大体一日に付き二時間から三時間程度で、非番もしっかり取っているから他の企業とそう違わない。



 ならなぜ羽熊だけ群を抜いて働いているのか。それは能力差が出ていた。


 この言語チームのリーダーは東大の教授で、准教授である羽熊はその下に付く。さすがに准教授の下に教授が付くわけにはいかないので、そんな形となった。が、実質チームのリーダーは羽熊である。


 羽熊は日本人の中で初めて異星の言葉を聞き、学習した。そして天才的な早さで身に着け、一ヶ月もしない内になにも見ないで喋れるようになったのだ。


 言葉の習得にはコツがあるとはいえ、羽熊の習得の速さは従来の数倍は早かった。


 よって他の言語学者を始め、チーム全体でもなにも見ずにしゃべれる人は一人もいない。



 数字で言えば、ルィルなど普通のイルリハラン人を百とすると羽熊は七十から八十台。他の人達は十から高くても四十くらいだ。


 ただし、羽熊も喋れはしても文字は始めて間もないため、文字だけで言えば他の人と大差がない。


 それでも喋れた上で文字を学ぶのと、喋れずに文字を学ぶでは大きな隔たりがある。


 よって教本化も文字習得も羽熊が事実上のトップとなってチームを引っ張っていかねばならず、しかも外交上絶対的に必要な分野であるから短期間による作成が必要とされる。


 その結果、チームが資料を集めて羽熊が纏める作業工程が出来上がり、国が定める過労死ラインの倍以上の労働をしているのだった。



 解決策として羽熊は交流の場から離れさせればいいのではとなるが、羽熊並に会話が出来る人材が出来ていない。効率を考えると重要な交流には参加させないとならず、日本観光のような突発的な依頼も来るので、言語学習のみに専念させられない事情があった。


 行政側は羽熊の過剰労働はもちろん把握している。ここで羽熊は倒れては非常に困るので、過剰労働はしないよう話しているが、羽熊自身が勝手に仕事をしているので強くは言えなかった。



 しかし、日本のためと元来持ち合わせていなかった意識で頑張ってきた羽熊も、あの日の夜についに限界に達してしまった。


 本意ではないことをぶちまけ、差別的なことを屋外で叫んでしまったのだ。


 メディアがいないからまだしも、これが世間に広まれば状況がどうあれ炎上してここを去らねばならないだろう。


 だからか、精神衛生上これ以上の過剰労働は危険と判断されて四日間の強制休暇が言い渡された。



「――久しぶりに帰って来たな」


 バタンと駐車場に止めた車のドアを閉めながら羽熊は呟く。


 千葉県千葉市にある七階建て賃貸マンション。その五階に羽熊の部屋がある。



 周囲を見ても人は見られない。経済活動が再開しても依然と厳しく、下手にお金を使わないように外に出ない巣籠り現象が起きているようだ。


 出来る限り外に出ないで体力を温存し、お金を使わず食べる量も減らす災害時に自然に起きる社会現象。確かこの言葉が使われるようになったのは東日本大震災だったか。


 出来れば四日間分の食料を買って羽熊も巣籠りをしたかったが、二ヶ月近く離れていたから埃とか凄いだろう。最悪空き巣に入られている可能性もあるから、まずは部屋の様子を見てから決める。



 車から離れながら羽熊は、ひょっとしたらいるかもしれないメディアの人間に出くわさないよう内心で祈りつつ、マンションのオートロックを通り過ぎる。


「さすがにいつ戻るか分からないから張り込みとかはしないか」


 どういうわけかメディアは個人情報を手に入れて取材先の住所に出向いてくる。だが羽熊は一般人だからその行動は公にはさらされていないし、ここから通っているわけでもないから待ち伏せも無駄なのだ。



「とりあえず家に戻ったらまず換気をして、積もっている埃を掃除だろ? 向こうに戻ったらまた当分戻ってこないから要らないものは捨てて、冷蔵庫の中も空っぽにしないと」


 家を出る前の記憶を呼び戻しながら簡易な予定を考える。


「アレ、ひょっとして羽熊サンじゃないデスか!?」


 エレベーターホールで待っていると突然声をかけられ、羽熊はビクッとする。


「……あ、もしかしてジョン?」


 振り返るとそこには一人の金髪碧眼の男性がいた。



「やっぱり羽熊サンだっ! 久しぶりデスネー!」


「久しぶり。そうか、アメリカに戻らなかったんだっけ」


 羽熊に声をかけたのはアメリカ国籍で千葉大学に留学しているジョン・ブラウン。日本が大好きで向こうの大学卒業後、来日して千葉大学に入学したのだ。


 今年で二十八になり、偶然羽熊と同じマンションともあって知り合いとなった。主に敬語を使う羽熊がタメ口で話す人でもある。


 ジョンは喜びも表情を見せ、羽熊にハグをする。



「エエ、もしアメリカが無事デモ、日本が滅んだラ生きる意味ないデスから」


「はは、ジョンは本当に日本が好きなんだね」


「そりゃもちろんデスヨ」


 ちなみにジョンが日本を好むのは、定番のホップカルチャーだけでなく、日本の国民性もあってのことだ。世界中で宗教を大義とするテロが起きているのに日本はそれがなく、他者を思いやり協調性のある空気感が好きらしい。


 なんでも安心できるとか。



「ン? デモいまは向こうにいるんジャ?」


「休みをもらって帰って来たんだよ。明後日の朝までいて、その後実家に帰るつもり」


「そうなんデスか。じゃあ色々とお話ししたいデス」


「いいけど、向こうの事は発表以外の事は話せないよ? あとルィルさんとは色恋事情は一切ないから」



 会う人会う人全員にルィルとの関係を聞かれるから、それを言われる前に釘を指しておく。


 向こうからすれば一度でも羽熊にとっては何十何百回だ。その度に否定するのだからストレスは溜まっていく。


「オー、ソウデスカー。残念です」


 そうしているうちにエレベーターが来て二人は乗り込む。


「ジョン、転移してからここらへんでなにかあったことってある?」


「犯罪とかデスか? あまり聞いてないですネー。暴動とかも見たことナイです。サスガ日本デース」


「そっか、それはよかった」



「ホント、すごいですヨ。地震とかハリケーンとかジャなくて、テレポートデスよテレポート! 国が違う星に来たノニ、いつも通りなんデスから」


 エレベーターは羽熊とジョンの部屋のある五階へと着く。


「まあ集落とか街単位じゃなくて国単位だからね。内陸に住んでる人は実感はあまりしないよ」


「その通りデス。しかも接続地域以外デハ、向こうの陸地もあまり見えないデスし。出来ればユーストルを見てミタイです」


「うーん、そればかりは政府判断だから俺からは何も言えないな」



 仮に知っていたとしても公表されていなければ話すことは出来ない。知り合いは愚か親でも未公開の情報は言えないのだ。話せないことに良心を痛ませようとも、国側で働いている以上は守秘義務は順守しなければならない。


 話しているうちに家の前に着き、羽熊は約二ヶ月ぶりにドアの鍵を開けた。


「ただいまーっと」


「オジャマしまーす」



 1DKの羽熊の部屋。入るなり羽熊は簡単な空き巣チェックをする。


 鍵はしっかり掛かり、全財産の入る通帳など貴重品は駐屯地に持っていたから万が一空き巣に入られていたとしても被害は大きくない。せいぜいデスクトップPCくらいだが、幸い入られてはいないようで、荒らされた様子も何かを盗まれた様子もなかった。


 本当に日本らしいと言えてホッとし、コンタクトレンズから少しフレームの大きい眼鏡へと変えてジョンを待たせているダイニングへと向かう。



「大丈夫デシた?」


「問題なし。まあお金はみんな向こうに持って行ってたから空き巣に遭ってても我慢できたよ」


「さすがに長いコト閉めてタからデスかね、埃っぽいデース」


「そのために換気するんだよ」



 二ヶ月も放置すれば埃も積もる。羽熊は玄関と全ての窓を開けて空気の総入れ替えを行う。


 十数℃のやや肌寒い空気が部屋へと流れ込み、淀んだ空気が外へと出されていく。



「羽熊サン、今フィリアの暦ハ九月の下旬デスよね? 地球より一ヶ月長いとしてもなんでこんなに寒イんですカ?」


「気象庁の発表だと、太陽と地球と比べて太陽とフィリアの距離が少し離れているから寒いんだって」



 星系に於ける生命が生存可能な宇宙領域をハビタブルゾーンと呼び、恒星の光度によってその領域は変わる。そのため太陽と地球間の一億五千万キロがそのまま当てはまることはなく、観測してみるとこの星系の太陽とフィリアの距離は一億五千万以上あるらしい。


 その差が今の気温を作っている。



「日本が転移したユーストルは赤道付近だから、年間を通して十四℃から十五℃だろうね」


 これはイルリハラン側から教わり、気象庁が発表している話せる情報だ。


 ちなみに北極と南極も距離が離れているため、平均温度は地球より二十℃以上寒いらしい。



「そうだ、何か飲む? と言っても水道水しか出せないけど」


「大丈夫デスよ。少し話をしたら帰りマスから」


「ならいいけど。そう言えばいまジョンはなにしてるんだい? 大学はまだ休校中だと思うんだけど」


 社会人と違って未成年だから安全面を考えて、全国の学校は経済再始動より時間を空けての再開となる予定だ。


「バイトをしてマス。近くのバーでス。さっきは集会から帰ってきまシタ」


「へぇ、近くにバーがあるんだ。落ち着いたら行ってみようかな」


「でも給料ハすヅめの涙です」


「雀の涙ね。まあ仕方ないっちゃ仕方ないさ。お酒を飲みたくても出すお金がないんだ」



 物価は相変わらずトンデモな金額で、配給は日本人の平均摂取カロリーより一割ほど少ない量。酒などし好品は配給対象外で買わないとならないから、気軽に買うことも飲むことも出来ないのだ。


 事実、国防軍のPXで酒類を買うときは何倍にも金額が上がっている。


「そう言えば転移後に自殺した人が結構発見されたって聞くけど、ここら辺でも自殺した人は出た?」



「出まシタ。四人くらい死んだみたいデス」


「四人も出たんだ」


 いま分かっているだけで転移前で三万人。転移後で四千人の自殺者を全国で確認されている。


「ハイ。遺書も見つかっタみたいデスけど」



「そう。でも自分で死ぬなんてバカなことだよ」


 腕を組んだ羽熊は不満を表しながらきっぱりと言う。


「未来なんてどう転ぶか分からないし、どう足掻こうが死ぬときは死ぬんだ。だったら死ぬまで生きるのが生き物としての義務ってものじゃないかな?」


 死ぬまで生きる。単純だが大事な言葉だ。



「実際あの日、日本は滅んでた。なのに今生きていて、異星国家と交流しているんだから未来は誰にも分からないよ」


「ハイ。もし羽熊サンが隕石が落ちる前に自殺をしてたら、ひょっとしたら日本とイルリハランは戦争してたかもしれないデス。逆にもっと良かったカモしれマセンが、最後まで生きようとしたカラ〝今〟があるんですよネ」



 未来なんて誰も分からない。分からないのなら自ら道を閉ざす必要もない。


 よく映画などで自己犠牲して死を選んで仲間を活かすシーンがあるが、羽熊はあまりその心境が理解できない。なぜなら視聴者としてならその後の展開を知ることは出来ても、犠牲になった人は知りようがないのだ。霊となって漂えるならまだしも、死んで終わりであれば死んだ意味があったのかどうか知りようがないのだから、可能な限り生き続けて先を見たい。


 死は逃げにならないのだ。死んだら何も分からない。今後の世界も分からないし、新しい創作物を見ることも出来ない。画期的なシステムや機械が生まれるかもしれない。



 生き続ければそれを知る機会はあれ、死んでしまえば何もわからないのだ。


 借金や不治の病で未来も命も絶望であっても、生きていれば何かを知ることは出来る。


 知らずに死ぬのと知って死ぬのは大きすぎる違いだ。


 レヴィアン落下前に死を選んだ三万人は日本が国土転移をしたことを知らず、逆に転移後に死んだ人々は日本が生き延びたことを知っている。


 もし落下前に死を選ばなければ、その三万人のうち何割かは今も生きている可能性があった。転移後に死を選んだ人も、ひょっとしたらこれから第二次高度経済成長期で大富豪になる可能性もあった。


 未来は未知数で選択肢は無限だから、例え未来に絶望しかなくても死ぬまでは生きるべきだ。



「私モ、生きれるナラ生きたいデス。だって、生きることに意味ガあるんだから、生かされたことに必ず理由があるはずデス」


 日本はどちらかと言うと偶然とはいえ超自然的に生き残ったと考えるのだが、外人だと生き残ったのは神秘的理由があると別の見解を示す。


 アメリカではいまだに神が世界を創造したと信じる人が大勢いるから無理もない。


 他の宗教を否定するつもりはない。ただそういう考え方もあるのかと認識しているだけだ。



 言語学者として海外に出向くことは多々あり、現地で話を聞くと日本とは違う考えを持つ民族や種族は当たり前のようにある。


 宗教は地域の歴史であり価値観だから、否定すると言うことは自分も否定するのと同じだ。


 それだけは絶対にしない。宗教を蔑ろにしてしまうと必ずしっぺ返しが来る。



「神様がいるとしたら、日本だけを一時的に避難させて、また戻して新たな世界を作らせようとしているのかな」


「日本なら納得デス。この星で技術を身に着けて、戻って復興の手助けをスル。それが神ガ選んだ選択かも知れマセン」


「じゃあレヴィアンを落としたのも神様の仕業で、落とさなかったら色々とマズイから手を打ったってことか」


 なぜ数多の神が住まう日本に絶対神に見定められるか不明だが、そういうものとしておく。


「さすがにアリエナイと思いますけど」


 ジョンは苦笑する。口ではそう言っても本心はそう思っていないようだ。



 羽熊は欠伸を一つする。


「羽熊サン、眠たそうでスネ」


「昨日の朝急に休みをもらってね。引継ぎをするのに時間が掛かって三時間くらいしか寝てないんだ」


「三時間ですか。向こうの仕事は大変なんデスね」


「まあね。何度も休むように言われてるんだけど、ついつい働いちゃうんだ。で、見かねて無理やり四日間休まされた」


「無理やり休まされるのは変デスネ」


「そこも日本人らしさだよ」



 そこに爽やかな涼しい風が部屋に流れ込んでくる。


「……そうだジョン、転移してから今日までで琴乃は戻って来た?」


「いえ、戻ってきてはないと思いマス。テレビ局の人は来てましたケド」


「そっか。じゃああいつはもう戻ってくる気は無いか……」


 付き合って今年で七年。六年目だった去年に結婚をしようと思ったのに、それを切り出す前に別れてしまった。



 レヴィアンが落下する前に実家に戻るか考え、ひょっとしたら戻ってくるんではないかと最期を実家ではなくここを選んだのだが、結局帰っては来なかった。


 転移してから二ヶ月経っても音沙汰内ところからして、どこか知らないところで暮らしているか実家に帰ったかだろう。男と遊び過ぎて子供を身ごもってしまったかもしれない。


 なんにせよ、今更戻って来たところで復縁の可能性はないし捜すつもりもない。



「駐屯地でイイ人はいないんでスカ?」


「あまり女性の人とは話さないね。一人はよく話すけど仕事仲間としてだし」


「そデスか。あ、でも時の人なんデスから女には困らないデスね」


「そういう人は大抵表面しか見てないミーハーだから嫌いなんだよ」


「少しは貪欲になる方が人らしいデスよ?」


「人それぞれさ」



 出来れば表面ではなく内面から好きになってほしいし、好きになっていきたい。


「それじゃやっぱりあの女イルリハラン人のことになりまスヨ?」


「ないない。そりゃ今は映画の中のような状況だけど、映画じゃなくて現実なんだ。彼女とは仕事として接してるだけで恋愛感情はないよ」


「仕事としてって、それはちょっと薄情じゃないデスカ? 今日までずっと会ってたんでしょ? 恋愛はともかく仕事で区切るのは可哀そうデスよ?」



「情も何も彼女のプライベート何も聞いてないし、向こうも俺の事は何一つ聞いてこないんだ。確認はしてないけど、向こうも同じ考えだと思う」


 ジョンは腕を組んで体を揺らして考えるしぐさをする。


「うーん。差別になるかもしれませんケド、二本脚と一本脚じゃ違い過ぎますシネ。天地生活圏でしたっケ? 文字通り天と地で生活基盤が違うんだから無理もないデスカ」


 例え空に浮かず二本脚で歩行していたとしても、異星人との恋愛は考えられない。


 異星人を差別するのではなく、単に好みの問題だ。誰かを好きになるならやはり日本人がいい。


「そもそも子供は作れるのんデスカ?」


「さぁ?」



 これは本当に知らないので両手を軽く上げて分からない仕草をする。


「遺伝的に出来たとしても、一本脚なのか二本脚なのか、空は飛べるのかどうか、髪は光るのかどうかも分からないから難しいね。命の冒涜になるから実験的なことも出来ないし」


 自由恋愛で出来たならまだしも、科学的実証のために異星間交配は倫理的に認められないだろう。


 映画でもそこの部分は省く場合が多い。たった二時間足らずでは恋愛が成就しても、その結果である子供までは後日談的なシーンを挟まなければまず出てこない。


 フィクションであるがゆえに省くか、ご都合的に問題なかったり薬が出たりする。現実はそうはいかないのだ。


 人種レベルではなく星レベルで違うのだから、出来る方が不自然だ。


 言ってしまえば人間とチンパンジーの間で子供が出来るようなものである。



「最終的に結婚は同性婚のような形になるんじゃないかな」


「国際結婚ならぬ異星結婚デスか。国土転移もデスけど史上初なことばかりですネ」


「ホント、史上初のオンパレードだよ」


 もう史上初が多発しすぎて、初であっても意識しなくなってきたほどだ。


 こういうのを感覚がマヒしてきていると言うのだろう。



 もう一度欠伸が出た。


「ジョン、悪いけどひと眠りしたいからそろそろお開きしていいかな?」


「そうですネ。私も一度部屋に戻りマス」


 さすがに眠気がひどくなってきた。住み慣れた家に帰ってきて気が緩んだのだろう。


「……そう言えばさっき集会に行ってたとか言ってたけど、自治会でなにかあったの?」


 この時期で集会と言えば自治会が思い浮かぶ。


 もし治安が思っている以上に悪化しているのであれば自警団を結成して、近所を見回りをしたりする。しかしそこまで悪化しているようには見えないから自警団ではない。


 状況を考えたら協力して生活改善しようと自治会主導でしようとしているのだろうと当たりをつける。


 と、ジョンの顔が陽気なのから真剣な顔になっていることに気づいた。



「羽熊さん」


 まっすぐな目でジョンは羽熊の目を見る。


「……私、いまアークと言うところに所属してます」


 その言葉を聞いて、羽熊は眼鏡の位置を正した。

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