第34話『国内問題』
「アークって外国人コミュニティの?」
「ハイ」
ネットの外国人用掲示板から発足したとされる外国人コミュニティ。自らの意思で母国に帰らず日本に留まったが、帰還が望めないことからこの地で母国の文化の保全しようとしているとか。
「……まあジョンもアメリカ国籍だからね。参加してても不思議じゃないよ」
日本に在住しているアメリカ人は少ない。文化保全の目的以外でも同じ国籍同士繋がりを持ちたいと思うのは当然だ。
「私は母国ヨリ日本のほうが好きデス。デモ大学や知り合いに同じ人はいないですカラ、やっぱり寂しいんデス」
「アウェイ感は中々なくならないよね」
仕事で海外にいく羽熊もその気持ちはわかる。同じ国の人が全くおらず、外見も違うとなれば肩身が狭く強い心細さを感じてしまうものだ。
それが超長期で続くとなると、そうしたコミュニティが生まれるのは自然なことだ。
「近所の皆さんとても良い人デス。私は大好きですし、不満はありマセん。でも……」
「分かるよ。いくら周りが味方と分かってても同族を求めるのは普通の事さ」
もし逆になったら逆に羽熊がそのコミュニティに入っていただろう。
帰化した国で結婚して永住しても、母国への気持ちは薄れはしても消えたりはしない。
どれだけ過酷な情勢だったとしてもそれは同じだ。
「それで羽熊サン、アークの活動なんですが……」
ジョンが話そうとするのを、羽熊は手のひらを出して一旦止める。
「ジョン、前もって言うけど、俺はアークの協力とか応援はしないから」
「え?」
「勘違いだったらいいんだけど、いま俺は本当に日本を存続させるために動いているんだ。異地の言葉を修了させる以外にも山ほど仕事を抱えているから、五十万から百万人の外国人のために協力する余裕はないんだよ」
羽熊は外国語の言語学者で、アメリカ国籍のジョンと大学を通じて知り合い。そしてジョンはアークに所属して、アークは全員が外国人。
義理はなくとも繋がりだけで言えば全くの無関係とは言えなかった。
しかし政治が一般人レベルである羽熊がアークに協力したところで、アリが巨像に挑むのと同じだ。
「それで、ジョンは俺にアークの手伝いをしてほしいと思ってた?」
ここでやんわりと話しては時間だけが過ぎていく。いい加減寝たいのもあって羽熊はストレートに尋ねた。
「……思ってまシタ」
ジョンも遠回りはせずあっさりと答える。
「アークの目的は各国の人達だけの自治体を作って、ソコで各国の街を作って守っていくことデス。それとミニ国連とでもいうんデスカ、外国の目線から日本のオブザーバーになれたらとも考えてマス」
「独立は考えてないんだ」
「日本が認めると思いマスか?」
首をかしげて答えるジョンに、羽熊は苦笑する。
「しないだろうね。各国の人数もバラつきがあるし」
外国人は全国にいて、その人々全員に生活基盤があるのだから理解を得て集め、国造りとするのは相当な年月を必要とするはずだ。
日本が国内で別国家として承認するなんて前例がないし、国内で国家が誕生したら近隣とのトラブルが間違いなく起きる。
「いま、アークは天空島を利用できないかと考えてマス。百万人が生活できル天空島を建造して、そコデ各国で区分けして街を作るんデス」
「それだけをする価値があるかな」
別に在日外国人は難民でも移民でもない。日本の地に生活基盤をしっかりと築いた人々だから、わざわざ集める必要があるかどうかが焦点となる。
日本円でいくらになるか分からない天空島を外国人自治体用として許可するかどうか、費用対効果を考えると疑問だ。
「なので自治体として認めてもらえなイカ、羽熊サンに手伝ってもらえないカナト。前に羽熊サンが国会図書館に行ったトキニ、アークの人が声をかけたの気づいてましタカ?」
「いや。でもやっぱり無理だね。アークの存在価値を世間に力説するほど俺は分かってないし」
分かったとしてもすることがあり過ぎて手を貸せない。
「……映画やドラマでもありますヨネ。協力しない人を無理やり手伝わされるコト。例えば家族を人質にするトカ」
「安っぽい脅しはやめろ。テロでも脅しでもそんなことをしたら全国の外国人が迫害を受けるようになるぞ」
日本もテロ事件は過去に起きている。白昼のオフィス街の爆弾テロに世界初の化学兵器テロと。しかし外国人主導によるテロは起きていない。
だから日本人はそんなに外国人と出会っても恐怖心を抱かないが、人質やテロを起こして目的を成そうとすれば、全国で外国人排他運動が始まるだろう。
それこそ平時ではありえない治安維持を目的とした強制収容も考えられる。
「それに間違いなく公安が監視してると思う」
どこかの廃墟で集まって発足したなら知りようもないが、ネットで記事になるくらい大衆が認知している団体だ。当然前に騒ぎとなったテロ等準備罪もあって公安や警察が監視している。なにか過激派が行動を起こそうと思えば、その前に食い止められるはずだ。
「俺から言えるのは日本的な行動をするようにとしか言えないな」
「ハイ。私もそう思いマス。今の脅しは取り消しマス。すみませんデシタ」
「こんな時代だからね。本気じゃないのも分かってるから許すよ」
羽熊はアメリカ人ならぬ深々と頭を下げるのを見て許しの言葉を送る。
と、羽熊は逆の考えを思い付く。
「ジョン、俺はアークの手伝いは出来ないけど、アークの評判を下げさせないことは出来るかもしれない」
「どういうことデスか?」
「人が集まれば色々な考えが出る。平和的から暴力的とね。アークを守るためにも暴力的な派閥は早めに潰したほうが良いと思うんだ」
「もしかシてスパイをしろと言うんデスカ?」
「少なくとも一度でもテロ事件が起きたらもう取り返しがつかない。だからネット以外の集会でそういう考えが出たら、警察に相談したほうがいい」
「でも仲間を裏切るノハちょこっと考えます」
「そうかな。裏切るのはアークの中の過激派だ。ジョンだって知ってるだろ? ある宗教の過激派が欧米でテロを起こして、他の関係ない派閥が迫害を受けていたのを」
宗教自体は問題なくとも、宗教を大義とした身勝手な連中が聖戦と称してテロを起こし、結果宗教そのものが悪と認知されてしまう。健全に宗教を信仰している人たちにとっては迷惑以外のなにものでもない。
「ハイ」
「アーク自体は健全なコミュニティでも、一部の過激派のせいで全体が過激派と思われたら、その目的も何も出来なくなる。それを避けるためにも過激派が行動に出る前に潰すんだ」
「そう……ですネ。悪は栄えナイ。今のところソンな過激な声は聞かないデスし、聞きたくはナいですケド、出てきたらなくしたいデス」
「俺はアークには何もしないし、ジョンも仲間を思うならスパイの話しを忘れてもいい。結果的に少しでもみんなが満足して生活出来ればいいと思う」
提案はしても決めるのはジョン自身だ。羽熊は無理に推しはしない。
推してしまったらジョンの提案を断った羽熊に説得力がなくなるからだ。
「……羽熊サン疲れてますヨネ。私帰りマス。話が出来て良かったです」
ジョンは今すぐに答えは出さず、立ち上がると玄関の方へと歩き出した。
「ジョン、日本人もアメリカ人も、生き残った外国の人達も全員地球人だ。他の星に来てしまった今、国別ではなく星別で見た方がいいかもね。一緒に協力していこう」
「デスネ」
最後に笑顔を見せてジョンは部屋から出て行った。
「ミニ国連(MUN)ね。アークは外国人参政権でも狙ってるのかな」
以前なら国連や外交で『海外』の意見を日本に伝えられたが、いま日本に『海外』の意見を伝えられるのは在日外国人だけだ。
内政干渉として突っぱねるか、それとも貴重な外部意見として受け入れるか。
なんにせよ政治とは無干渉の羽熊には何もできない。
「それにしてもよかった。ただでさえ仕事が多いのにアークにまで巻き込まれたら本当に過労死しちまう」
アークの存在はネットや国内の脅威になりうる団体として国側から教えられてはいたが、まさか自分に降りかかってくるとは思いもしなかった。
無理やり専属でも兼業でもやらされたら、仕事過多で羽熊は完全につぶれてしまう。
ジョンとは親しい仲だがそれ以外の人とでは特にないのだ。そこはきっぱりと断らせてもらう。
羽熊はこれ以上考えることはやめた。
窓と玄関を閉めてベッドのある部屋に入ると、まるでスイッチを切ったかのように倒れて深い眠りへと落ちていった。
目を覚ますと次の朝だった。
*
羽熊が四連休をしている頃、首相官邸で佐々木総理は国内問題の報告を受けていた。
国土転移で来なかった沖縄に代わって転移してきた北方地域四島と、千島列島の一つである得撫島が絡む、意味合いが大きく変わった北方領土問題だ。
今現在無人島とされている得撫島を除く北方地域四島には、一万五千人のロシア人が居住し、その内四千人がロシア軍第十八機関銃・砲兵師団と国境警備隊である。
日本側にとっての一番の懸念は、ロシア本国から切り離され補給路が完全に断たれた北方地域自治体とロシア軍が、独自の判断で行動し持てる武力を行使することにあった。
北方地域の主な産業は漁業である。林業や畜産もあるが、全体で言えば漁業が多い。その漁業をするのに必要な漁船の燃料は本国からの供給なので、本土と切り離された現在、北方地域は全面的に燃料不足なのだ。
しかも日本と違って異星に国土転移した事実すら知りようがなく、北方地域からユーストル境界線まで五十海里以上ある。
基本的にこのロシア軍は敵侵攻を食い止め、本国からの増援が来るまでの時間稼ぎを中心としていている。よって航空機の類は以前はあったが撤退し、空からの情報収集も出来ない。
そして傾斜問題によって北側の境界線は断崖絶壁で、海から異地を確認することも出来なかった。
そういう事情からロシア軍がリーアンに危害を加える可能性は考えられず、心配は北海道方面へと向けられる。
燃料や食糧不足から北海道に侵攻する可能性だ。
それを避けるため日本政府は転移した当初から、外務省の日露共同経済活動推進室より職員を国後島へ派遣した。
派遣の主な目的は、共に転移したロシア人の生命の保護。無秩序の行動による混乱の抑止。ロシア軍の武装解除の三つである。事実上の日本の施政下に置くことを意味する。
一つ目は食料等の供給による飢えの抑止で、二つ目は情報提供による混乱を防ぎ、三つ目は日イ双方に向けて不要な武力衝突をさせないためだ。
いくら北方領土を不当に実効支配していようと、地球人には変わらないし共に国土転移に巻き込まれた軍人を含む無辜の民だ。無下に死なせていい命ではないし、知って見逃がしたでは日本と言う国家の恥に繋がる。
人道的観点と未来展望から北方地域を日本の施政下に置くことは、ユーストル防衛戦の前に閣議決定した。そのことで野党から謎の反対攻撃を受けるが、政府与党は華麗にスルーしている。
そして海上保安庁第一管区の巡視船〝つがる〟他三隻によって職員は北方地域の行政府のある国後島へと向かったのだった。
すると出てくるのが、歯舞群島に常駐して北海道から来る漁船を監視するロシア国境警備隊だ。
レヴィアン問題で本国に行く人もいれば最期まで仕事を全うしようとする人もいる。
ロシア国境警備隊やロシア陸軍は終末であっても日本の国防軍と同じく仕事を続けており、海保巡視船四隻に向けて警備艇を出してきた。
が、状況が変われば向こうの出方も変わる。何が起きたのか一切の情報がないことから、警備隊は警告の前に状況提供を要求してきたのだった。
日本側は答える代わりに行政府首長への対面を条件として出した。それを拒否するのであれば今後一切接触はしないと言う、情報と資源を引き換えにした一択に近い選択をさせる。
燃料がないことは日本側は予想していたので、住民を守る意味合いとしては飲むしかない。
案の定指揮系統が乱れた国境警備は単独での政治的判断を余儀なくされ、日本側の提案を飲んだ。
戦勝国と敗戦国、実効支配国と領土主張国の立場が逆転した瞬間であった。
いかに戦勝国であってもそれは本国があってのことだ。ロシア連邦政府は消失。北方領土が含まれるサハリン州のサハリンも消失。情報も海路も絶たれ、たった一万七千人が取り残されては、正規のロシアとして主権を主張することは難しい。
日本は北方地域を実効支配するサハリン州南クリル管区の行政府へと出向き、現首長と対面を果たして日本側の主張を訴えた。
無論一度でいい返事を貰うことは出来るはずがない。
向こうから言えば、主権明け渡せと言っているようなものだ。どんな形にせよ七十年以上固持してきた主権を渡すようなことは、ロシア人として即断は決して出来ないだろう。
しかし日本側も提案した三つが守られないのであれば、情報提供も食料・資源供給の協力はしない。日本側の排他的経済、領海内での漁業はさせないと突き付けた。
なにせ北方地域はロシアとして活動すると日本からは何もできないのだ。日本の施政下になるのなら、日本の責任として住民の生命と財産の保護に尽力するも、ロシアと言う国で動くなら輸出入の手続きをしなければならない。
だが北方地域は日本領の認識なので、『外交』をするとロシアの主権を認めることになってしまう。そう言う観点から日本は転移以前の対応をするしかないのだ。
客観的に見れば相手の弱みに付け込んだ脅し以外にないのだが、転移以前から連綿と続く政治情勢を踏まえるとこうなってしまう。
もちろん北方地域を日本の施政下に置こうと、四島に対して特別何かをすると言うことはしない。実効支配以前の住民の移動の自由化はしても、住人を追い出すようなことはしないとはっきり伝えていた。
ロシア側は考える時間が欲しいと日露共同経済活動推進室の職員に告げる。向こうも向こうでなんとかロシアのまま燃料や食糧を手に入れられないか考えたいのだろう。
聞くと備蓄は食料で三ヶ月分はあるらしく、日本側は二ヶ月は待つとした。
一週間や一ヶ月では議論する時間が無く、三ヶ月全部使うと食料供給が間に合わないためだ。
そしてその判断を今日、佐々木総理は受けた。
「ロシア陸軍と国境警備隊は武装の全面解除に同意する意向を示したか」
外務省、日露共同経済活動推進室から上がって来た報告書を読みながら佐々木総理は呟く。
「はい。ロシア陸軍は最後まで武装解除には反対の意向を示しておりましたが、燃料は枯渇、食料があと一ヶ月を切ったことで、行政府と住民の説得で同意したとのことです」
同じ資料を持つ飯田外務大臣は補足説明をする。
「南クリル管区行政府は人命保護を絶対とする条件で解散。北方地域は本日より日本の施政下に入ります」
もし日本が北方領土をロシア領と認めていたら併合の手続きをするのだが、元々日本領なのでそう言った手続きはしない。ただ元々の自分の国の領土となるだけだ。
「七十年以上苦心し続けた領土問題が、こんな形で解決するとはな」
ロシアに実効支配されてから七十年以上。全島返還や二島返還と提案が出て、しかし軍港化や武装化と不穏な流れを生みつつ、国土転移によって国土返還を成してしまった。
奪われた領土を取り返したのだから喜ぶべきなのだが、こんな形で返還が達成できてもどこか喜べないところがある。
「今日の夕方には会見を開いて、このことを公表する。準備をしてくれ」
「分かりました。ですがこの行政府解散により、北方地域に住む住民は在日外国人と同じく無国籍となり、無国籍問題が出てきます」
日本の国籍法では、国籍を有しない人は日本国籍へ帰化することを認めていない。
北方地域に住むロシア人は、自治体レベルとはいえ行政府があったためロシア人としていたが、その行政府がなくなったことで日本側は無国籍として扱わなければならない。
例外的に配偶者が日本国籍を有しているのであれば、法務大臣は帰化を許可することができる。だが国家消失による無国籍の規定は想定していないので、現行法だけでは在日外国人に日本国籍を与えることは出来ないのだ。
とはいえ各国大使館も各国政府も存在しない今では、外国籍がある前提で役所も仕事は出来ないのだった。
在日外国人たちが日本国内で活動するのであれば、何かしらの国籍を与えなければならない。
「国籍法を改正して帰化申請できるようにするべきですが、問題が出てきます」
「参政権か」
「はい。百万人が日本国籍を有せば、法的には年齢を除いて議員への立候補が出来ることになります。それでは国政のあり方に乱れが生まれます。特に野党は多大に利用するでしょう」
どこの党かは特には言わない。
「さらに国内には不法入国者もおりますので、無条件での帰化は予期せぬ混乱を生む恐れもあります」
「だからと言って準日本国籍のようなワンランク低い国籍を作ったところで差別と言われてしまう」
国土転移から二ヶ月。未だに在日外国人の国籍問題の解決が出来ないのはこういうところにある。
しかし考えていないわけではない。
居合わせる亀村総務大臣が、暫定的解決法を提示する。
「いま総務省としましては、国籍の併記が出来ないかを考えています」
「国籍を併記するのか?」
「はい。限定的日本国籍とでも言いましょうか。書類上は日本国籍ですが、合わせて元々の国籍も併記します。そして国籍が併記されている方は本質的には外国籍として扱います。帰化しない限り母国の併記が外れないとすれば選挙権などは得られず、彼らのアイデンティティは壊さないので一応の解決にはなると思われます」
言ってしまえば車のオートマ限定のようなものだ。免許としては健全と機能しても運転できる種類に制限がある。万全に機能させるには限定解除をする必要があり、それを帰化と言う形で成そうと言うことだ。
ただ日本と各国の国籍を併記するだけだし、帰化しない限り国名が取れることはないから明確な差別とは言えないだろう。
「ならその方法で進めてみよう」
二重国籍ではなく旧国籍の併記とは世界的に見ても前例がない。それでも解決の一つになるのなら進めるべきだ。この時代、最早前例がないは当たり前だ。
「分かりました。より良い案が出るまではこの案で進めていきます」
「そうしてくれ。と、ところで話は変わるが地質調査はいつ始まるんだったかな?」
「地質調査ですか。確かフィリア暦で十月二一日だったかと」
ちなみに今日は十月十五日である。
佐々木総理は書類の山から地質関係のを見つけて目を通す。
現在の日イの関係はこの地に結晶フォロンがある前提で動いている。それを確定しないことには本腰を入れて活動することは叶わず、大地を怯えるリーアンが率先して調査をすることも出来ない。
よって地を恐れない日本がその有無を確認することになった。
調査する場所は日イ境界線上で三十ヶ所。最初の調査場所は東京新潟を結ぶ延長線上の境界線で、イルリハラン軍の立会いの下で行われる。
その中でもしフォロンの大鉱脈が発見された場合、推定埋蔵量から流通についての取り決めを開始する。少なくとも日本側にも結晶フォロンを渡すことは口約束レベルだが貰っていた。
そして採掘は数倍から十倍と技術も効率も高い日本が請け負う。
何対何で結晶フォロンを得られるかは交渉次第だが、間違いなく国土転移並みかそれ以上の情勢の変化が起きるだろう。
「あの巨大な天空島を浮かすような物質。あればいいが」
レヴィニウムも十分超物質でも、結晶フォロンはさらに上を行く超物質だ。映画の中でしか存在しなかった物が実在して、あわよくば手に入るかもしれない。
そう思うと男として不謹慎かも知れないがワクワクしてくる。
「イルリハランの言葉を信じれば、日本の工業力で十分天空島や飛行艦、飛行車に至らずバスタトリア砲すら建造可能だそうです。レヴィロン機関自体には核反応のような危険な反応はないので、重大な事故は起きないそうです」
バスタトリア砲はレヴィロン機関の応用だが、機関そのものでは出来ないのでそれまた安心らしい。
「……結晶フォロンを研究し尽くせば宇宙戦艦のアレは撃てる方法は出るかな?」
「あ、アレですか? 今の状況を考えるとありえないとは言えませんが」
「もし実用可能ならば、搭載も視野に計画を練れるな」
笑いを誘いそうな呟きだったが、佐々木総理は真面目なトーンで考える。
砲弾を秒速三百から三千キロで撃ち出すバスタトリア砲は、アルタランの憲章によって所有制限が掛けられている。おそらく異星国家である日本はアルタランに加盟しても、特例とされて一門も持つことは認められないだろう。
日本としては防衛力のみと主張しても信用されるだけの実績がないからだ。
ならばバスタトリア砲とは違う砲門を開発できれば、その憲章の枠に当てはめずに搭載は可能だ。逆にアルタランに加盟していないことを利用してバスタトリア砲を大量に製造することも出来る。
「しかしそれは軍拡と見られませんか? 野党はともかく国民の理解は得ませんと」
「それはまあおいおいだが、アメリカからの援護が来ない以上、日本もある程度の抑止力の保持は致し方なしだ。それにこの状況なら世論も認めるさ」
「……根回しは始めます」
「そうしてくれ。それとは別に予算が通れば大規模な更新が始まるからな。国民の理解は得たい」
さらにいくつかの国内問題の報告を受けて終わり、総理執務室に静寂が訪れる。
「ふぅ……」
数多ある国内問題のうち、一つ大きかった北方領土問題が大体片付いたのは朗報だ。
傾斜問題。不純妊娠問題。経済問題。寒冷不作問題。海洋生物問題と大きい問題はあり、全てを解決するには何年掛かるか目途も立たない。
任期も長くなく、延長出来るよう党規約の改正にも動いているが、何が理由で辞任をするか想像もできない。
分かるのが、中途半端で辞任してしまったら本当にこの国は終わる。
トップが簡単に入れ替わっても機能するのがこの国の長所でも、せめて軌道に乗るまでは頑張らねばその長所も役には立つまい。
「さて、どうしていくか」
佐々木総理は常に十年、二十年後の日本の姿を思い描く。
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