第52話
「懐かしいね」
「はい」
僕は今、鈴奈先生と駅にいる。
静養所の最寄り駅。
ここに来るのは、最初に降り立った時以来だ。
「ねえ、義一くん」
名前で呼ばれたのは、いつ以来だろう。
「なんですか?鈴奈先生」
「鈴奈でいいよ。もう・・・」
「もう?」
鈴奈は、微笑む。
「義一くんの、ご両親はどこにいるんだっけ?」
「イギリスです」
「ああ、グレートブリテン及び北部アイルランド連合億国ね」
だから、素直にイギリスと言ってください。
親と言いどうなっているんだ?
「いつ帰ってくるの?」
「一年間の予定でしたから、そろそろですね」
「そっか・・・寒しくなるな・・・」
「そうですね。卒業となると静養所から、お別れですから僕も、寂しいです」
「そういう事でなくて・・・」
どうしたんだろう?
いつになく真面目だな。
「私たちが、あの静養所の卒業生というのは話したよね?」
「ええ。確か恩返しの意味で、教師になったと」
「私たちは、義一くんに教えらる事は全て教えたわ」
「高校生が習う事ではないですけどね」
鈴奈は、首を横にふる。
「私たちが、君に教えたかったのは、勉強でも運動でもないの」
「えっ?それは、どういう・・・」
「わからない?」
「はい」
素直に答えた。
「君も気が付いていると思うけど、外部との接触がなかったでしょ?」
「ええ。時々食料の配達が来るとき以外は?」
「変だとは思わない?」
「何がですか?」
鈴奈を見つめる。
「じゃあ、ここへ来てから君は私たち以外の人間と会った?」
そういえば、ない。
「いかにスマホの圏外のど田舎とはいえ、誰とも会わないなんておかしいよね?」
そういえば、家とかは建っているが、住人には会っていない。
まさか、夢落ちなんてことはないよね?
「大丈夫。君の経験した一年間は全て現実よ」
「現実・・・ですね。そうでないと困ります」
鈴奈は一点を見つめている。
すると、他の先生方もやってきた。
「あっ、そろったね。では本題に入るね」
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