第八話 理由
まえがき
前回に続きアルとセルヴィアのイチャラブシーンです。
(嘘)
「来てくれたのね」
「来ないと正義を執行されそうだからだよ……」
ニコリと微笑むセルヴィアとは対照的に
「まずは来てくれてありがとう。大変嬉しく思うわ」
「それはどうも……」
そしてアルの目の前に立つセルヴィアは金色の髪が月明かりに照らされて輝き、神話から飛び出して来たのかと思わされる程に幻想的な雰囲気を
アルにとってはこれまでの経緯を除けば、だが。
「アルベルト君は、「不発」と呼ばれているんですって?」
セルヴィアの言葉を聞きアルがまたかと言わんばかりに小さくため息をつき、うんざりした表情になる。
「そうだけど。それを確認する為にわざわざ呼び出したのかな?」
普段から物事を穏便に済ませたいというスタンスのアルであったが、さすがに真夜中に校則違反をさせられてまで訓練場に呼び出された挙句切り出された話の内容には苛立ちを感じてしまい、語気を強めた。
「そんなに話を急がないでよ。怒らせるつもりはないの」
「急ぎたくもなるよ。僕は早く帰って寝ないと。朝が弱いからね」
取り付く島もないアルの対応に今度はセルヴィアが小さくため息をついた。
「アルベルト君は、私の事はご存じ?」
シャリ……と足元の砂を鳴らしてセルヴィアがアルに近づいてくる。
その歩き方が優雅な事からアルは不機嫌になりつつも冷静に「この子は恐らく貴族の子なんだろうなぁ」なんて事を思ってしまう。
「知らないよ。でもどこかの貴族令嬢なんじゃなかな」
歩き方が綺麗だし、と思ったがそれは口には出さない。
「そう。……自分が思っているほど私の事はそんなに広まっていないのかしら……」
口元に手を当てて目線を横に向けてセルヴィアが考え込む。
普通の生徒ならばもしかするとセルヴィアの事を噂程度で耳にした事くらいならあるのだろうが残念ながら尋ねた相手はアルである。
実技訓練以降、他の生徒との付き合いはおろか友達と呼べる親しい者もいないぼっちの為、他クラスの子の情報や噂などが入ってくる事はほぼ皆無であった。
「うん、確かにそれはそうなのだけれど……。どこから話せばいいのかしら、ね?」
「知らないよ……」
途方に暮れたセルヴィアが困り果ててアルに尋ねたが、話の筋が全く分からないアルはもっと彼方に暮れていた。
しかし今のやりとりと合わせてセルヴィアからは悪意や害意を向けられているという感じが全くしなかったので、アルは「お願い」という話だけは聞いてみるかなどと考えていた。
夜のテンションが消極的なアルを積極的にさせたのかも知れない。
「とりあえず、どこかで座って話さない?」
アルの提案にセルヴィアは「そうね」と言って頷いた。
・ ・ ・ ・ ・
「
セルヴィアからおおよその自己紹介を受けたアルはその特異な能力に驚いた。
「ええ。最初からこうやって話を出来れば良かったんだけど……。自分から先天的な障害があります、って言うのが自分を否定しているようで何だか悔しくて……」
「僕の事は「不発」って言ったけどね」
「それについては配慮不足でした、ごめんなさい」
そう言って座ったままで頭をちょこんと下げるセルヴィア。
訳も分からず呼び出されたモヤモヤを今の会話でアルは幾分か発散させた。
「で、僕を呼び出した理由って?」
「そうなのよ!」
話がやっと本題に戻った事でセルヴィアがバッと立ち上がる。
「貴方の内に眠るあの魔力! あれを見せてほ欲しいと思ったの!」
「見せる、って言っても……」
目を輝かせて期待の眼差しを向けてくるセルヴィアに、アルは俯いて口ごもった。
「あれは誰にも見せていないし……セルヴィアさんが見たのも偶然って言うか……」
「セルヴィアでいいわよ。私もアルって呼ぶから。どうして? どうして誰にも見せないの? あんな素晴らしい素養があるならドーンと見せるべきよ!」
「嫌だよ……。今でさえ魔法が飛ばない事で毎日蔑まれて……、一部の先生でさえも冷遇してくるんだよ……? 変に目をつけられてますますひどい扱いを受けるぐらいなら僕はこのまま静かに耐えるよ」
まるで自分の事であるかのように熱く、それが正しい事だと言わんばかりにセルヴィアが力説するが、対するアルは自分の事であるにも関わらず反対に冷めたように言葉を吐いた。
そんなアルの両肩を掴み、真正面から大きくて愛らしい瞳を真っ直ぐに向けるセルヴィア。
その勢いでサラリと金髪がなびいた事でアルの鼻にフワリと甘くていい香りが入ってくる。
「言わせたい奴には言わせておけばいい! 貴方の力は凄かった! 私は目を奪われたもの!」
「凄くなんてないよ」
「そんな事ない! 貴方の魔力量は凄かったわ! 貴方の魔力量を私に貸し与えてくれるなら……! 私は誰よりも繊細に、そして大胆に貴方の魔法を発動させて、貴方の……アルの力は凄いんだぞって
「僕は……」
真っ直ぐセルヴィアを見つめ返す事が出来ずにアルが目を背ける。
「僕は君みたいな崇高な目的もないし……強くはなれないよ……」
「可能性を、諦めるの?」
「…………」
アルは何も答えずに目を
「……分かったわ」
そっと肩から手を離してセルヴィアは体を起こした。
「貴方となら同じ不遇な扱いを受けている者同士、分かり合えると思って……。貴方の気持ちを考えずに色々話してしまって……。ごめんなさい」
ゆっくりと頭を下げたセルヴィアに、アルは慌てて立ち上がった。
「そんな、やめてよ! セルヴィアは何も悪くないんだ!」
「ううん、これは私自身のけじめなの。私は前に立って領民を……、抗う力の無い者を魔物や悪意を持つ存在から守りたかった。でも、今の私にはそれが出来なくて……焦りから貴方の協力を求めてしまった……」
「これから、どうするの……?」
儚げに笑うセルヴィアに胸が痛んだアルが、静かに尋ねる。
「そうね……これまで通り他の人から魔力供給を受けながら魔法構築を少しでも早くしたり、漏れ出ている魔力が少しでも漏れにくくならないかの可能性を追い求め続ける……かしらね」
「そう……なんだ」
自分とは違う前向きな考えのセルヴィア。
アルは彼女の折れない信念が心底羨ましかった。
一瞬二人の間に重苦しい雰囲気が漂ったが、すぐにセルヴィアがパッと顔を上げた。
「ねね。さっき偶然と言ったけれど、あの火力は絶対に出せないものなの?」
「え、いや……」
出せないよ。
そう嘘をついてしまえばセルヴィアとの話はそこでおしまい。
今後も変わらない学院生活を続け事が出来たのだが、アル自身目立ちたくないという気持ちがある反面自身と同じ魔法に関するハンデを背負ったセルヴィアとの交流を終わらせたくないという感情も芽生え始めていた。
何より、自分の考えや想いを真っ直ぐぶつけてきたセルヴィアに対して嘘を付きたくなかったというのが一番の理由だったのだが。
「その……出せるには出せるけど、痛みを伴うからあんまり出したくないって言うか……」
「魔法を出すのに痛みを伴う? どういう事?」
「それは……」
アルはセルヴィアに、自身の魔法の発動には直接対象に触れないといけない事と殴った強さによって魔法の強弱も変化する事を伝えた。
「うん……分かったわ」
セルヴィアがアルの手を握った。
セルヴィアの手が。
女の子の手が思いの外柔らかすぎてアルの胸が高鳴る。
「アル。私の最後のお願いを聞いて欲しいの」
「最後の? え……な、何……?」
アルの手を握るセルヴィアの手に力が入る。
「私を……魔力を籠めて思い切り殴って下さい!」
「え……? ええええええっ!?」
アルの悲鳴に近い叫び声が周囲に響き渡った。
あとがき
ここまでお読み下さりありがとうございました。
お待たせしました!
ついに誕生。殴られ系ヒロインの登場です。
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