第27話 Swamp

1938ELは良いバイクだった。WLAほど軽量ではなかったが、それでも1947FLよりはるかに取り回しは楽だったし、キックも軽かった。何より1000ccのOHVのエンジンは、1200ccより滑らかに回って、SV(サイドバルブ)より上質な味わいだった。


だが、ELとの蜜月はそんなに長く続かなかった。


1938ELに乗り始めて一年位過ぎた頃だったか、検査で目の病気が発覚した。緑内障だ。緑内障は大雑把にいうとだんだん視野が狭くなる病気で、治療法はなく目薬で進行を遅らせることしかできないという厄介な病気だ。


今にして思えば、前からバイクに乗ると目がひどく疲れるという自覚はあった。でも、それは混んだ街中や高速で走ることの緊張やヘルメットのシールドの圧迫感が原因だと思っていた。人間の目は病気や傷害で視野が欠けても、脳内で合成して補正してしまうという。それで緑内障は発見が遅れることが多いらしい。


幸い視力はまだ出ているので、免許は維持できている。


緑内障のことを知らなかった内は何も気にせずバイクに乗っていたが、いざそれを知ってしまうとバイクに乗るのが怖くなった。特にハイスピードや混んだ街中では乗りたくなくなった。


それで僕はバイクに乗る機会をできるだけ絞った方がいいと判断して、数台を残して手放すことにした。ELはFに頼んで売却した。車検があって維持費がかかるバイクをガレージの肥やしにする余裕はなかったし、何より乗ってくれる人の元にあった方が良いだろうと思った。ELだけ残すということも考えたが、結局最後までフットクラッチが好きになれず諦めた。いっそバイクから降りるという選択もあるにはあったが、まだそこまでは踏ん切りが付かなかった。


僕はHarley という沼から這い出た。


これで僕のHarley Lifeは終わりを告げた。よくもまあ、これだけ乗ったものだと自分でも呆れている。今だったらお金があってもこんなことはしないだろう。当時はまだ僕も若かった。


今、僕の手元には旧くて小さなイタリアのオートバイが3台ある。それを年に数回サーキットや田舎道でのショートツーリングのイベントでのんびり走らせるだけだ。いつかイタリアのバイクの話をする日が来るかも知れないが、それは今少し先の話となるだろう。その日が来るまで『クッチョロ!!ハイスクール編』を続けたいと思っているから、気が向いたらご一読あれ。


(沙魚人の問わず語り 第二部 完)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

沙魚人の問わず語り 沙魚人 @hazet

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ