第24話 Sidevalve
「サイドバルブのWLAに乗り換えたい。」
僕はFの店長夫妻に言った。最初に店に行って相談した時、Panhead かWLAが良いんじゃないかと店長に言われたのを覚えていたのである。WLA
は750cc のサイドバルブのエンジンを搭載していて車体もナックルヘッドやパンヘッドに比べるとずっと小さく軽かった。そして軍用のWLAならサイドカーを付けている時の発進用にハンドクラッチが付けられるようになっていた。パワーの少ないWLA でミリタリーブーツで半クラッチをするのは難しかったのだろう。
ちなみにサイドバルブというのはエンジンの進化の過程において、OHV(Over Head Valve)の前に主流だった方式で、シリンダーの横にバルブが配置されていたのが名前の由来となっている。
Harleyのサイドバルブはいくつかモデルがあって、陸王の基になったVL、Big twinのサイドバルブ版UL、スポーツスターの最初のモデルと言われているKなどがある。
ところが、店長はあまり良い顔をしなかった。サイドバルブは非力過ぎてPanheadの後では満足できないのではないか? というのが理由だった。確かにFの他のお客さんで、サイドバルブに乗っているお客さんは何人かいたが、ソロで走る人が多く、店のツーリングに参加する人はあまりいなかった。特に高速道路ではKnucklehead やPanhead について行くのは難しかった。
店長としては、Shovelheadに戻ったらという感じだったが、僕としては体調面からいわゆるHarleyのBig twin を取り回すことが辛くなっていたから、それは選択肢になかった。
結局、店長の奥さんが、沙魚人さんがそう言っているんだから、と話を引き取ってWLAを探してくれることになった。しかし意外にもWLAは中々見つからなかった。WLAは玉数の多いモデルではあったが、当時WLAは人気が出てきて値段が上がってきていたのと為替が今ほどじゃないが円安傾向だったので、海外から輸入するのは僕の予算では難しかったのである。ただ為替が円高に振れる見込みは当分なさそうで、国内でもめぼしい車両が見つからず僕とFは手詰まり状態になった。
ある日、いつものようにインスタントコーヒーを啜りながら経過を聞いていると、店長の奥さんが言った。
「もう船場さんにお願いするしかない。」
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