第23話 Sick
そんな訳で僕は1950FLに乗り始めた。Panhead は良いオートバイだった。Knucklehead と排気量は変わらなかったがエンジンのパワーは上がって、フロントだけとは言え油圧のサスペンションが付いたことで乗り心地も格段に良くなった。
クルマの世界で、「最新のポルシェは最良のポルシェ」という言葉があるが、新しいモデルは常に前のモデルより優れているという無邪気な言葉はこの時代辺りまでは事実だったのだろう。
このFLには僕の歴代のヴィンテージハーレーの中で一番長く乗った。気に入っていたというよりはヴィンテージのスタイルと比較的モダンな性能という取り合わせに不満がなかったからという面は否めない。
どちらかというと、この時の僕はお店に行って店長夫妻や他のお客さんとおしゃべりしたりツーリングをしたりすることが楽しかった。
革ジャンやブーツを誂えたり、目黒のCAP というお店でレザーのサドルバッグやウォレットをオーダーするなんて贅沢なこともしていた。CAP の店主の佐藤 拓さんは筋金入りのバイカーで、その生き様はカッコいいなんてもんじゃなかったね。
あ、そうそう、Fの店長はハーレーショップをする前は歌手をしていたという変わり種で、アニメでとあるキャラクターのテーマソングを歌っている。それは今でもYou tubeで見ることができる。
ところで僕には持病があって、若いうちは何とか誤魔化しがきいていたが、40過ぎた辺りからそれが本格的に進行してきて筋力の衰えや体力の低下に悩まされるようになった。
1200ccもある高圧縮のエンジンをキックでかけたり、300キロ近くある車体を取り回すことが辛くなった。そして、僕は再びFの店長夫妻に相談することになる。
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