第21話 Panhead
日曜日の午前中。僕はFのご主人と店から15分ほど離れた車通りのない道にいた。
ガレージから店までFLに乗って来て、ぐったりしている僕の足元を見て、ご主人は
「ロッカークラッチはスニーカーの方がいいね。」と言った。
僕はHarley に乗る時はWHITE’SのSmoke Jumper という編み上げのブーツかWESCOのBoss というエンジニアブーツを履く事が多かった。この二足はすごく履き心地が良くて、僕のお気に入りだった。言われてみれば、その通りで分厚い革で作られたブーツはいくら履き心地が良くても足首を自由に動かせる訳ではなかったから、僕は翌週にNew Balance のスニーカーを買った。ちなみにご主人はCONVERSE のAll STAR を履いていた。
練習というのは、アイドリングのままロッカークラッチをゆっくり繋げていって半クラッチの状態になってエンジンの回転が変わったところで止める。それを繰り返して足に半クラッチの位置を覚えさせるというものだった。
そうして発進を繰り返した。
そんな練習に3回ほど付き合ってもらっただろうか。
だが、そもそもガレージから店までは乗って行ってる訳だから、8割はうまく発進できているものの店に辿り着くまで2、3回エンストさせてしまって再始動させるのに苦労しているというのが、僕の悩みだった。
特に右折待ちや登り坂でエンストさせてしまうとその場でエンジンをかける事もできず、もう涙目になりながら後ろのクルマに謝ってFL を路肩まで押していた(笑)。
結局、一度染みついた苦手意識を振り払うことはできず、僕の心がFL に戻ることはなかった。
その後、しばらくは別に乗っていたエヴォリューションのFXDやHonda のMonkey で店に行って、お茶を飲みながら世間話をしたり、一緒にお昼を食べたりしていた。
そんな、ある日。接客担当の奥さんが言った。
「沙魚人さん、来月Panhead が入荷しますよ。」
初めてFに行ってから、半年が過ぎていた。
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