第20話 Shop
僕は新しい店を探し始めた。
最もShovelheadに比べるとKnucklehead を扱うと公言している店は極端に少なくて、当時、雑誌やインターネットで調べる限り、東京には一軒しかなかった。
稲城市にあるFという店である。と言ってもVintage Harley に少し詳しい人なら丸わかりだろう。『西の船場、東のF』と言われる有名店だ。
有名店だけに休日は混んでいるんじゃないか、そう判断した僕は休暇を取った。東京の平日の混んだ道路をFLで走るのは嫌でクルマで店に向かった。
僕の目論見通り、店には他に客はいなかった。
F は初老のご夫婦で経営していて、ご主人がメカニック、奥さんが接客を担当しているようだった。
奥さんが出してくれたインスタントコーヒーを啜りながら、僕はKnucklehead を買ったはいいが乗りこなせずに持て余していること、どうすれば良いか迷っていることを率直に話した。
ご主人はあごの髭に手をやりながら、まだVintage Harley に興味があるなら例えばKnucklehead の次のモデル、Panhead の途中からハンドクラッチになっているので、そのモデルを買うか、フットクラッチのモデルを買っても現在でも販売されている社外のキットでハンドクラッチに改造が可能だとか、Sidevalve のWLA は軍用でサイドカーを付けるのが前提だったから、重いサイドカーを付けた状態で発進しやすいようクラッチレバーを追加できるようになっていると教えてくれた。
ただ、今店にはPanhead やWLA の在庫はなく、入荷の予定もないことから、良い車両が見つかるまでしばらく待ってもらうことになるとのこと。
Panhead かWLA か。それも良いかな、と僕は思った。Shovelhead に戻るのも今さらな気がしたし、Vintage Harley のスタイルやエンジンフィーリング自体は気に入っていた。
ところが、今日のところはこれで帰ることにして礼を言って立ち上がった時にご主人に思ってもみなかったことを言われた。
「フットクラッチのコツを教えてあげるよ。今度FL に乗って来て。一緒に練習しよう。」
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