第5話 カスタムフリーク5

ここまで、僕が経験したカスタムの話をしてきた。今の僕はカスタムをするのは、自転車だけになっている。それは経済的な理由だったり、僕にとって魅力的なカスタムパーツが自転車界にまだ残っていることがある。


だが、大きな転換点としては、旧車に乗るようになったことだと思う。旧車に現代のパーツを付けるというのは、見た目にも機械的にも中々難しい。ちょっと前に80〜90年代のBMWやモトグッツィに現代のフロントフォークやリアサスペンション、ブレーキ、ホイールを入れるカスタムが一部で流行ったみたいだが、性能的には良いのだろうが見た目が僕の好みではなかった。


また、例えばヴェスパなどは昔からカスタムをする人はいて、魅力的な写真が資料として残っている。でも、それをなぞったカスタムをするというのは全く自由がなくて、僕の考えるカスタムではなかった。


そんな訳で、僕は旧車のカスタムにはあまり興味がない。僕のバイクはもう全部旧車なので、必然的にバイクのカスタムに興味はなくなった。


それとカスタムというのは、ノーマルの車両のバランスを崩す行為だ。昔は技術がそれほどでもなかったからパーツをアップグレードして性能が良くなるということもあっただろうが、現在のクルマやバイクはすごく技術が進んでいるので、大きなカスタムをする必要を感じないんじゃないかな。概ねカスタムをすると車両のバランスが崩れ、そのバランスを取り直そうとするとキリがなくなる。例えば、バイクのフロントブレーキを強化するとタイヤのグリップがついていけなくなったり、フロントフォークがブレーキングの時に縮み過ぎたりするようになる。


もう一つ、カスタムされた車両は飽きるということがあると思う。仲間内でバリバリにカスタムされた車両をずっと乗り続けている人は案外少ない。完成させると、別の車両でまた新しいカスタムを始める人が多いように思うのだ。つまりカスタム自体が目的であり、楽しみな訳だ。カスタムした同じ車両にずっと乗り続けている人は、コツコツとカスタムして完成させない人、完成しても定期的に再びパーツを交換して進化させる、あるいは気分転換をする人が多いと思う。


クルマに関してはバイクや自転車を積んで出かけたいということから、もう実用一点張りの軽ワンボックスに乗っていて、外観上はアルミホイールを入れて、後はレーダー探知機を付けた位だが、これってカスタムと言うのかな。その気になれば軽ワンボックスでもカスタムはできて、たまに雑誌でそういう記事も見かけるが、ちょっと趣味が合わない。


そんな訳で今の僕は、自転車のカスタムを細々とやっている。僕の小説『シングルスピード』でちょっとふれたが、Chris Kingや Phil Wood、Paul Components、 White Industriesなどアメリカの魅力的なパーツメーカーがあって、カッコいい見た目で気分を上げてくれる。性能的にはシマノやカンパニョーロ、スラムで充分だし、むしろ優れている。結局コストパフォーマンスまで考えるとシマノに勝るメーカーはないとは思う。だが、それでもこれらのカスタムパーツは所有欲を満たし、自転車に乗ることを楽しくしてくれる。


あと、自転車の部品はクルマやバイクほどその車種の専用部品がないので自転車を買い替えたくなったら、せっかく買った高価なパーツを新しい自転車に移し替えることがある程度は可能だ。


また、自転車はフレーム自体がカスタムの対象でもあって、例えばサーリーからもっとハイエンドなメーカーのフレームに入れ替えることもできる。僕もいずれRivendell やCrust Bikesなどのフレームにしてみたいと思うが、それなりの値段がするし、少量生産なので欲しいと思った時にないということもある。それは出会いとか一期一会ということなのだろう。もっと突き詰めると、ハンドメイドフレームというのもある。昔の日本はハンドメイドフレーム大国だったが、競輪が下火となり職人が高齢化して、かつての勢いはないがアメリカでは小さな工房がそれぞれ趣向を凝らしたフレームを作るようになっている。高額だがそれに見合ったステキなフレームばかりだ。いつか乗ってみたいと思うが、人生の残り時間とお金を考えるとちょっと難しいかな。


今後、僕の人生がどうなるか分からないが、細々と何かのカスタムを続けて行くのだろう。僕は多分死ぬまでカスタムフリークなのだ。


(カスタムフリーク 完)

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