第3話 カスタムフリーク3
色々あってバイクから心が離れていた時期がある。要はクルマの方に夢中になっていた訳だ。でも、バイクから完全に降りるのももったいない気がして一台だけ残すことにした。
もうあまり乗る気もなかったから、安くて小さくて邪魔にならない程度のバイクがよくて、ホンダモンキーを選んだ。モンキーならカスタムパーツもいっぱいあるから、床の間バイクとして置いておけばいいやと思ってたんだね。
今は程度のいいキャブ時代のモンキーの中古はすごく高いらしいが、当時も別に安くなかった。正直、新車を買った方が割安だと思ったが、とにかくお金をかけたくなかった僕は6V電装で自動遠心クラッチの三段ミッションのモンキーを中古で買った。
買ってちょっと乗ってみたが、別に面白くも何ともなかったな。とにかくパワーがなくて、公道で乗るには怖いくらい遅かった。繰り返しになるけど、あまり乗る気はなかったから、まあ文句もなくてこんなものかと思ってた。
クルマの購入や整備の支払いがひと段落して、少し余裕ができると僕はモンキーのカスタムを始めた。まずはマフラーを社外のアップマフラー(メーカーは憶えていない)にして、次にホイールを10インチ《とういんち》にしたくて、まずスイングアームをSP武川のアルミの8センチロングとカヤバのロングサスに換えた。で、ちょっとしてSPパーツ武川のテレスコピックフォークとPOSHのアルミホイールで10インチ化した。モンキーのノーマルサスはただのバネだからダンパー入りのサスになって多少は良くなったような気がした。この辺の作業は自分でやった。
それで、シートを換えたり、キャリアレスキットを入れたりして、やることがだんだんなくなってきた頃、僕はエンジンに手を入れたくなった。当時一般的だったSP武川やキタコのボアアップキットとビッグキャブのカスタムに興味があったんだね。乗らないんだから別にそんなことをする必要はなかったんだが、好奇心が勝ってしまった訳だ。結局バイク屋さんで、キタコの85ccボアアップキットとケイヒンのPC20というキャブを組んでもらった。
85ccになったモンキーはとても速くなった。でも寒くなるとエンジンがすごくかかりにくくなったり、渋滞とかでゆっくり走っているとプラグがかぶったりして、ちょっと不安定な感じだった。それにブレーキはノーマルのドラムのままだったのでストッピングパワーが足りなかった。まあ元々あまり乗らなかったが、そんな感じなんでますます乗らなくなった。
そんなある日、転機が訪れる。『モンキークルージン』というムックで純正流用のカスタムというのを知ったのだ。ご存知の方も多いだろうが、純正流用というのはバイクのメーカーが製造している系列車種や他車種の部品を流用してするカスタムだ。メーカーが製造しているだけに品質が保証され、耐久性に優れる、とされる。
僕は川口にあった専門店に行ってみた、もちろんクルマで。それでお店にあった純正流用で97ccにカスタムされたモンキーに試乗させてもらって目からウロコが落ちた。ホンダが97ccのモンキーを出しているかのような乗りやすさがあった。サスもブレーキもノーマルなのに何の不足もなかった(これも純正流用でカスタムされていたのは後で知った)。よく見ると外装もノーマルとは少し違っていた。輸出仕様や4Lタンク時代のモンキー、他車種の部品を使っていると店主が教えてくれた。
僕はすぐに12Vのゴリラを買って、このお店で97ccにカスタムしてもらった。お店はよくツーリングをしていたので、僕も参加させてもらった。モンキーやゴリラ、カブとかで、日光や河口湖、秩父や佐久、鬼怒川まで行った。疲れはするが、とても楽しかった。このゴリラは僕がバイクに戻るきっかけになった。あまりに面白いんで調子に乗って、エイプやドリーム50まで買ってカスタムしてもらった。
このお店との付き合いは10年くらい続いただろうか?だが純正流用というのは使えると思って買った部品がいざ合わせてみると駄目だったりという試行錯誤の連続で、経営は大変だったらしい。ある日、店をたたんでしまい連絡も取れなくなった。
そして、モンキーがモデルチェンジしてインジェクション化されるとモンキーカスタム全体が下火になっていったように思う。僕も膝の曲がりが辛くなってきて、僕のモンキーやゴリラは友人達にもらわれていった。僕が一番バイクに乗っていた頃の楽しくて、ちょっと苦い思い出の話である。
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