仮面の少女は不思議な少年たちと出会う その1

「んっ~」


 窓から入る日の光と鳥の声により、シャーロット・ウィンディアは目を覚ます。ボサボサになった肩よりも少しある真っ赤な髪をわしゃわしゃと手でかき大きなあくびをする。


「ふあぁ~」


 両手を上げて体を伸ばし全身の筋肉をほぐす、そして一気に解放すると豊かに実った二つの果実が上下に揺れる。


「もう朝か‥‥‥」


 シャーロットは一晩中温め続けた天国に後ろ髪を引かれながら出てクローゼットから着替えを取り部屋から出る、するとまるでシャーロットが起きて出て来るのを予知していたかのごとく目の前にいた執事とあいさつを交わす。


「おはよう」

「おはようございます、シャーロット様」


 その声はまるで人に話しているような温かいものではなかった。その後も洗面所を目指して広い廊下を歩いている途中で他の執事や使用人たちとも挨拶を交わす。だがまるで機械に話かけているような挨拶は変わらなかった。


 洗面所につき服を全部脱ぎシャワーを浴びる。夜にかいていた汗をしっかりと流しさっきまで感じていた眠気を一気に吹き飛ばす。あがってタオルで体を拭いたら持ってきていた学校の制服に着替えて鏡の前に座って髪を乾かす。枝毛が残らないよう櫛で丁寧に整えて先のの後ろで一本にまとめる。


 彼女はエルフである、この世の中では当たり前。この世はエルフのほかにもドラゴニュート、ドワーフ、ビースト、ヒューマンという人種に分かれている。それぞれの種族には特徴がある。


 例えばエルフであれば彼女———シャーロットにもあった尖った長い耳、それに他の人種に比べて寿命が長いということ。このようにドラゴニュートにはドラゴンの角が生えていて目には肌にしか見えない鱗があり、他の種族よりもタフである。ドワーフは肌の色がみんな褐色で背が小さく怪力。ビーストは一人一人が動物の特徴を持っている。最後にヒューマンはこの五つの種族の中で最古の種族であり、姿は人で寿命は他の種族と比べると短い、ヒューマンは多くの謎に包まれていて解明されていないことがたくさんある。


 シャーロットは洗面所を出て、また広い廊下を歩き食堂に向かう。背中をピンと伸ばし体の軸がぶれないように慎重かつ丁寧に歩き食堂の扉が見える。ドアの横には二人のメイドがいてシャーロットが来たと確認すると、シャーロットが食堂に入る絶妙なタイミングで扉を開けた。


 食堂の中は数々の美術品で壁が飾られ、何十人も座れるテーブルが真ん中に置かれ部屋の端の方ではオーケストラの人たちが優雅な音楽を奏でていた。


「シャーロット遅いぞ、二分の遅刻だ」


 優雅な音楽の中にひときわ凛とした声が響いた。テーブルの一番奥に座り朝食を食べているシャーロットの父だった。


「申し訳ございませんお父様、今日は———」

「言い訳は結構ですわ」


 今度は父とは違った声が響いた。 


「ウィンディア家に生まれながらにしてその長女ともあろう者が言い訳とは、あなたのせいで家の株が下がったらどうするおつもりなの」

「申し訳ございません」

「もういいわ、罰として今日は朝食抜きです。とっとと学校に行ってらっしゃい」

「はい、本当に申し訳ございませんでした。お父様、お母さま、それでは今日も我がウィンディア家の名に恥じないようにします。行ってまいります」


 


 この名はエルフであれば生きているうちに一度は名を聞く超有名な貴族の名だ。商業、工業、政治、経済この四つの実に三割はこのウィンディア家が裏で動かしていると言われている。その長女にして次期当主にあるのがシャーロットである。だがこの時期当主というのは表に出ている情報であって、実はシャーロットは時期当主なんかではなく、ウィンディアと言う名のに過ぎないのだ。


 代々シャーロット家は万能の一族として世の中に知られている。武力、経済力、知力、生活力、様々な面でトップ。しかしシャーロットは武力、知力以外はてんでダメ。


 料理をさせればこの世の物とは思えない謎の物質を作り出し、裁縫も時間をできた割には完成度が低く。経済を学ばせるために小さな商業団体をシャーロットに任せたところ赤字にして倒産させただけではなく。商業団体の人たちにウィンディア家を襲われるという前代未聞の大事件を起こしウィンディア家の看板に泥を塗ったのだ。これらの事からシャーロットはウィンディア家の中で『欠陥品』と呼ばれている。


 シャーロットは言われるがまま食堂を出ていき部屋から鞄を取って家を出ていくのだった。


 シャーロットは学校には歩いて登下校をする。ウィンディア家が欠陥品のために出す執事やメイドはつけるだけ無駄だと判断したためである。シャーロット自身も自分がウィンディア家にとってどれだけ荷物かわかっているから何も言わないし逆らわない。


 自分ができることは家の看板に泥をつけないこと、優等生を演じること、すれ違う人には笑顔で朝の挨拶をして困っている人がいればすぐに助けに向かう。学校にも誰よりも一番に登校して玄関と自分の教室の掃除をする、こんな大変なこと本当はやりたくない、だが逆らえば自分の居場所が住む場所がなくなるためシャーロットは自分に仮面をつけ自分の心は一切出さない仮面の少女になるのだった。


 ここはエルフの大陸シェイクス大陸、その中で一番の国土を持つヴィーネ王国。ヴィーネ王国の領土はもちろん人口も他の国と比べても圧倒的に多く、シェイクス大陸の中で一番の発展国だ。その中にシャーロットが通う学校がある。シャーロットが通う学校は超が付くほどのエリートしか入れない学校で知力や武力だけでなく容姿や身分などもエリートな生徒しかいない。


 この学校は国が管理しているもので、将来ヴィーネ王国を支えるための教育機関だ。そんな学校の教育カリキュラムはかなりスパルタと言っていい、授業は生徒などの質問は一切受け付けずひたすら先生たちの独壇場だ。その中で遅れる者がいればその者は即退学だ。授業終わりにはその日にやった授業のテストが行われその点数が悪い生徒も退学だ。


 そんな地獄のような学校の教室をシャーロットは掃除をする、先生方ですら数人しか来ていない時間帯に一人で床、黒板はもちろん窓まで丁寧にやる。掃除が終われば今日やる授業の復習や予習をしてホームルームの時間まで過ごす。自分の机に座りノートと教科書を広げる。昨日やった授業の内容は魔法の歴史と現在についてだった。


 魔法


 そんな非科学的な存在は今からはるか昔の事だった、この魔法と言う存在が今の世界を作ったのだ—————

 はるか昔この世はヒューマンしかいなかった、争いごとは起きず皆が平和に暮らしていた。しかし突如現れた神によって平和な日常は壊された。


 神は突如現れて全世界に魔法と言う特別な力を授け消えた。魔法を与えられたことによりヒューマンたちは詠唱を唱え魔力を消費すれば様々な力を使えるようになり、魔法はヒューマンだけでなく動物たちにまで渡り魔法により進化を遂げた。


 魔法を得たヒューマンたちはその力を使い今まで手を付けたことがなかった大陸に手を付け領地を拡大していった。魔法が与えられてから百年と時がたつと、突如ヒューマンの中に突然変異するものが現れた。あるものは長く鋭い耳が生えてまたある者はドラゴンの角が生えたのだ。


 これが今のエルフやドラゴニュートだ。エルフ、ドラゴニュート、ドワーフ、ビーストは元はヒューマンが進化したものだったのだ。


 最初はほんの数人しかいなかったが数年もたてば人数も増えていき、いつしか新しい種族として独立していった。独立によりヒューマンとは領土を奪い合う敵となり戦争となった。


 これも最初はエルフしかいなかったが種族がどんどん増えていくことにより戦争が増えていき死者も増えていった。戦争では魔法が多く使われ、他にもその種族ならではの特製が戦争に大きく響いた。


 エルフは他種族と比べ魔力が多く戦争の時には遠くから魔法を撃ちまくり圧勝する戦法を取ることができた。ドラゴニュートは魔法のほかに魔力とは全然関係なく皆ブレスを吐くことができた、しかも炎だけでなくその属性は様々。ドワーフは他種族に比べ手先がとても器用な種族で他の種族には揃えられないような武器や防具を作り他の種族を圧倒した。ビーストは種族だけが使える動物の特徴をその身に宿すことができるという魔法を開発した。そうしてヒューマンだけが他種族にどんどんと差をつけられていったのだった。


 魔法が与えられて平和な世界は一気に絶望する世界へと変えられこれだけでも十分影響したが、魔法の影響はまだ止まらなかった。戦争が始まってから今度は生まれつき不思議な力を持つ武器を持ちながら生まれる子供が誕生するようになった。その武器は魔力を込めると力が倍以上に上がったり透明になるなど様々な力があり、この武器誕生により戦争はより苛烈をました。のちにこの武器を魔法武器

アームズ

と呼ぶようになった。


 戦争の苛烈は収まることを知らず、この強力な魔法武器

アームズ

をドワーフが開発することに成功しそのことに他種族はドワーフに終戦を申し付けアームズの輸入を依頼することになり。ドワーフは武力ではなく商業的な面で他種族を圧倒した。


 人口の魔法武器

アームズ

が完成してから約十年、全種族が人口低下の問題に悩んでいた、その年に生まれる子供よりも死者の数の方が多いからだ、この危機的な問題を解決するべくして全種族が停戦を申し込み初めて全種族の首脳会談が行われた。


 首脳会議は三日間行われその中では今後の戦争の事や人工減少の問題、物資の問題と様々なことが話された、そして各首脳陣が出した結論は終戦だった。


 しかし終戦と言われても領土問題は残ったままである、そこで首脳会議で決められたのはそれぞれの種族が代表を一人出して、それらを戦わせてその順位で領土を決めると言うことだった。こうして終戦から一世紀がたち今に至る。


「ふぅ~」


 シャーロットはノートと教科書を閉じて一息ついた、この学校に入学してからまだ半年しかたっていないが、毎日こんなことをしている。


「おはようございます」

「おはよ~、シャーロットさん」


 教室に入ってくる生徒一人一人に挨拶をして優等生を演じる、完璧で完全でまるでロボットのような人間を・・・。


 残りの時間は他の生徒と過ごしてホームルームの時間となり自分の席に着き担任の先生が入ってきた。


「おはよう」

「「「おはようございます」」」

「今日もみんな元気そうだな、欠席者は‥‥‥いないな。ならいいみんな聞いてくれ」


 担任の先生はとても低い声で明らかにテンションを下げてどこか怒っているような声で言った。


「急な話だが今日からこのクラスに編入生がやってくる」


 担任がそういうとクラス全体がざわざわと騒ぎだした。


「おい編入生だってよ」

「誰かな~?」

「女子だったらいいな~」

「おい、変な期待すんなって」

「こんな時期に編入って変だよね」

「前の学校で何かあったのかな?」

「紹介しよう、ヒューマンの白鉄しろがね聖也せいやだ」


 扉が開く機械音だけがよく響いた。そんな沈黙から入ってきたのは、この世では珍しい真っ黒な髪、そしてそれとはまったくの反対色の白い瞳。ついシャーロットはその少年から目が離せなくなった。


「どうも、ヒューマンの白銀聖也と言います。これからクラスメイトとしてよろしくお願いします」


 笑顔でそう言って聖也は頭を下げた。クラスは沈黙で満たされていた。そんな空気を担任の先生は破り空気を換えた。


「んんっ! あーと言うわけで我が学校にヒューマンが入ってきたわけだがこれは仕方がないことだとみんなもわかっていると思う。だからまあこれからあと半年問題を起こすなよ。それから白鉄の席は空いているところに適当に座ってくれ」


 担任の先生はそう言って教室を出て行った。そして聖也は空いている席———シャーロットの隣に座った。

「今日からよろしくね、さっきも挨拶したけど僕は白鉄聖也。いろいろわからないことが多いから教えてもらうと嬉しいかな」


 聖也はシャーロットに握手をお求めそう言った。それをシャーロットは完璧な笑顔で避けた。


「ええ、こちらこそよろしくお願いします。わからないことがあれば何でも聞いてください」

「授業を始めるぞー」


 タイミング良く一時間目の授業の先生が教室に入ってきた。聖也は出した手を引っ込めて席に座ったのだった。


 一時間目の授業は朝復習した。魔法の歴史についてだった。


「それでは昨日の話の続きだ、終戦後首脳陣は領土問題を解決するために各種族から一人一人代表をだし領土を決めると言ったな。この大会は今もなお続いていて順位は昔から一つも変わっていない。一位は我々エルフ二位はドラゴニュート三位のドワーフこれだけは順位を確定している四位がビーストそして最下位がヒューマンだ」


 先生はすらすらと黒板に今のことを書き出し、その中で重要だと思ったことをシャーロット達はノートに書く、これは的確な判断能力と聞く力を鍛えるためである。


「この順位はさっき変わっていないと言ったがその理由が分かるものはいるかな? それでは当てるとしよう。そうだな今日編入したっていう編入生がいたな‥‥‥白鉄、答えてみろ。」


 先生はそう言って聖也を指差した。


「はい、そうですねただ実力がそうだったとしか言いようがありませんね」

「その通り、この順位は実力を示している! つまり我々エルフはこの世の種族の中で一番尊き存在にあると言うことだ!」


 黒板に書くのをやめ生徒たちの方を向き、熱を入れながら話し出した。


「我々は神に選ばれた種族なのである、この世界のルールを作り、この世界をしっかりと導くことこそが我々エルフの役目である! そのほかの種族は皆我々の駒でしかない! 特にヒューマンなんかの種族はもはや駒だとも我々は思わない!」


 机をバンッ!っと叩き聖也の方をきっと睨みつけた。


「白鉄、お前がこの学校に編入することは認めてやる、だが! お前みたいなゴミがこの学校に入ったと言うことは、それ相応の実力がなければならないという事! この先質問は全部お前に答えてもらう。それでもし間違えた答えやわからないようなことがあれば即退学だ! わかったか!」


 先生の声が教室全体に響き渡り、聖也以外の生徒たちはニヤニヤと聖也の反応を楽しんでいる。ヒューマンとは劣った種族である、これはこの世界の常識である。だからシャーロット達・・・・いや、ヒューマン以外の全種族は生まれてからこう教えられる。ヒューマンには触れるな、近寄るな、さもなくば汚れると。だからさっき握手を求められたシャーロットは聖也の握手を避けたのだった。


 先生が言ったことが本当だとすると、それはもの凄く難易度がと言うか不可能だ。授業では教科書以外の知識も教えられるので例え聖也がどれほど予習や復習をしてきても、退学はほぼ確定だ。シャーロットは自分がエルフとして生まれてきたことを心の中で嬉しく思った。だがそんな絶望の中で聖也は笑っていた。そして驚きの答えを返した。


「いいですよ。つまりですし。」

「‥‥‥本気?」


 シャーロットはついつい仮面をはずした素の自分を出して呟いてしまった。シャーロットだけではない、他の生徒も先生もみんな聖也の言葉に唖然としていた。


「ははっ、それじゃあ質問してやる! とっとと退学してしまえ!」


 その後のことは一言で言えば圧巻の二文字だった。先生の質問には全て満点以上の回答をして、さらに先生が間違っているところを指摘し、補足までしたのだ。シャーロットは隣にいる人物が本当にヒューマンなのか不思議に思った。


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