御座託家について、異様な村
御座家の事は聞いてもいない事まで饒舌に語っていた村の人達でしたが、タクヤの事になると皆揃って言葉を濁しました。「悪い人じゃないんだけど……」という感じで。幼い頃から父親の厳しい教育を受けて来た影響で、ちょっと心が捻くれているだけ。本当は良い子なんだと。
つまりケイに関してはタクヤが悪いのだと私は考えました。しかし、村の人達は話の最後に必ずと言って良いほど、こう言うのです。「御座家は良い家ですよ」と。
長い物には巻かれろという事でしょうか?
ケイの事を知っているのか、ケイが何をされたのか知っているのか、よくもそんな事が言えるなと、私は心の中でW村をひどく軽蔑しました。知っていたにしろ、知らなかったにしろ、無神経ですよ。
村の人達の話の中で、あるおばあさんの話が強く心に残っています。「乃撫子さんも良多郎さんの強引さに負けて、御座家に嫁入りした」という……。「この村の者は誰でも一度は御座家のお世話になっているから、何も言えない。誰も何も言えるはずがない」って。それが御座家の伝統なんでしょうかね。
ああ、皮肉ですよ。分かっているとは思いますが。
◇
私があれこれ聞いて回っている内に午後二時を過ぎていて、さすがに腹が減って来たので、どうしようかと迷いました。
もう御座家には関わりたくないというのが本音でしたが、ケイを置いて行く訳にもいきませんし。山の中の田舎ですから、近くに軽く食事を取れるような店もありません。それで仕方なく御座家に帰ると、庭先でタクヤとアイリさんが……。
その、ええ、何と言いますか……。
いや、キスではないです。
セックスでもないです。
あー、何て言えば良いんでしょうかね……。まあ、イチャついていたんですよ。タクヤがアイリさんの体を触っていて。
愛撫とか、そんな生優しい感じではなく、割とガッツリ……こう、服の上から胸や尻を揉みしだいて。アイリさんも拒まないんです。嫌そうな顔も全然しないで、慣れているような感じで。
二人は私に気づいても動じませんでした。アイリさんの方は少しは反応しましたけど、タクヤはニヤニヤ笑うだけで全然……。
私は衝撃を受けました。人目につく所で、よくそんな事ができるなと。
怒りは……別にそこまでは。アイリさんとは会ったばっかりでしたし。いや、ケイの事はどうなるんだという、別の意味での怒りはありましたけど。だって、結婚すると言っておいて、他の女と……それはあんまりじゃないですか!
タクヤは信用できない。信用に値しない。こんな奴にケイは預けられない。それが私の結論でした。
私が二人から目を切って、御座家に上がろうとすると、後からアイリさんが声をかけて来ました。「待って」と。あんまり必死な様子ではなくて、普通に呼びかけるような感じで。
振り返ってみるとタクヤの姿はありませんでした。しかし、もう私は彼女と話をする気はありませんでした。不愉快になるだけなので。
それでも彼女が聞き捨てならない事を言ったので、私は足を止めました。アイリさんは「あれは本気じゃないの」って。「遊びであんな事をするのか」と私は堪らず声を荒らげました。それに対してアイリさんは……「私は御座家の嫁にはなれなかったから」と。
私がどういう事かと問い詰めると、タクヤは自分ではなくてケイを選んだとか何とか。だからケイは幸せだっていう風な事を……。
でも、そんなのは私の知ったことじゃないんですよ。タクヤとアイリさんがどうだったとか、そんな事を聞かされたって、何とも思いません。私やケイには何の関係もない事です。
もう私の心は固く決まっていました。こんな村にはいられない。とにかくケイを実家に連れて帰るんだと、その一心でした。
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