下露彩利とW村の村民
私は良多郎氏に曖昧に答えておいて、逃げるように「散歩に出かけます」と外に出ました。そして、この村の人に話を聞いてみる事にしました。御座家がどういう家なのかを……。私が言っている意味、分かりますよね?
御座家がどんな家か、何をして来たのか。
しかし、私の後を先ほどの女性……下露彩利さんがついて来ました。健気に「ごいっしょします」と言って。彼女はすでに私の名前を知っていて、自己紹介をはじめました。私は怖くなりました。
どうして彼女は乗り気なのか。御座家と親戚になれるからか。それとも良多郎氏に唯々諾々と従っているだけなのか。私を監視しているのか……。
考えれば考えるほど、嫌悪感がひどくなって……。アイリさんにはそっけない態度を取ってしまいました。後悔は……少しだけしています。
とにかくアイリさんが近くにいては、村の人に迂闊な事は聞けません。どうにか彼女を引き離せないかと、私は考えていました。特にどこへ向かうでもなく、のどかな田舎道を歩きながら。
朝も早いせいか、外に人の姿はありませんでした。お盆ですから、例えば都会に出ている人が戻って来ていてもおかしくはないんですけど。そういう人も見かけませんでした。見かけなかっただけで、ちゃんといたかも知れませんが。
アイリさんは私の後をただ黙って付いて来ました。女性は男性の三歩後をついて歩くっていう、古い時代のおくゆかしい女性のつもりだったんでしょうか?
でも、私は後をつけられているようで、不気味でしかありませんでした。
正午が近くなっても、アイリさんは私の後をついて来ていました。彼女は決して自分からは声をかけようとしませんでした。私は観念して、自分から彼女に声をかける事にしました。
勿論、穏やかな話ではありません。御座家に関する話をするんですから。
私は最初に「どうして私につきまとうんですか」と尋ねました。彼女はびっくりした顔で何も答えずに俯きました。ケイにしても彼女にしても乃撫子氏にしても、どうして黙りこくるのか、私は腹立たしい気持ちになりました。それで「御座良多郎さんに言われたからなのか」と問い詰めると、彼女は小さく頷きました。
私の怒りは爆発しそうでした。それが表情に出ていたんでしょう。アイリさんは青ざめて「それだけじゃなくて」と弁解をはじめました。そして「御座家は良い家だから」とか「昔から村を仕切っている」とか「面倒見も良くて信用できる」とか、なぜか御座家の擁護をはじめるんです。
まるで明後日の方向の話をされて、私は初め困惑していましたが、またふつふつと怒りが沸いて来ました。私は堪らず「何でも御座家の言いなりか」と凄んで彼女に迫りました。
その通りだったんでしょう。彼女がまたも黙りを決めこんだので、私は彼女を無視して歩きました。もう彼女は私の後について来ませんでした。
◇
ようやく私は一人になれたので、村の人を探して、この村や御座家の事を聞く事にしました。だいたいおじいさんかおばあさんしかいなかったんですけど。まあとりあえず、そこら辺にいたおばあさんから。
それで何人かに話を聞いて分かった事は、やっぱり御座家は立派な家柄で、どうも江戸時代どころか源平合戦の頃まで遡れるらしいです。当時の公家だか武家だかの子孫だとか。当時の家来たちと、遠い異国の地に落ち延びて、そこで村を作ったのがW村のはじまりで……。
はは、嘘か本当かは分かりませんけれども。もし本当ならあんな村で暮らしてないでしょう。
財を成したのは明治以降だったようですが、政財界にも顔が利いて。名家の割に親戚は少なく、分家にはそこまで権力がないとか。良多郎氏の一人息子タクヤが、その絶大な権力をただ一人引き継ぐ事になっていたそうです。
次に私はタクヤの事を聞いてみました。彼はどういう人物なのかという事を。
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