沈黙する閨

 良多郎氏はすぐには答えず、難しい顔をしていました。それを見て、やはり裏があるのかと私は思いました。何も問題ないなら、迷うことなんかないはずですから。

 しかし、タクヤが良多郎氏に小声で「親父」と言うと、良多郎氏は決意して認めました。そして良多郎氏と乃撫子氏は去りましたが、タクヤは残りました。

 私は「タクヤさんも」と言いましたが、彼は「どうか結婚を認めてください」と私に頭を下げて。「認める認めないはケイの話を聞いてからです」と私が返すと、彼は少し未練がある様子でしたが、それ以上は粘らずに退室しました。


 やっとケイと二人だけになれ、私はケイに尋ねました。「ゴールデンウィークから今日まで何があったのか、正直に話して欲しい」と。ケイは何も言わず、ずっと黙って俯いていました。

 何もなかったはずはないんです。そりゃあ私も大人になって、両親やケイとは何年も年に数回会うだけになっていましたが、ケイの辛そうな顔は初めて見ました。私の知るケイはもっと明るくて、元気で、生意気で……。

 私が「ずっとここにいたのか」と問うと、ケイは小さく頷きました。でも、「いっしょに家に帰ろう」と言っても、ケイは無言で首を横に振って。「とにかく一旦帰って、父さんと母さんを安心させよう」と言ったんですが……。頷いてはもらえませんでした。

 私は諦めずに何度もケイを説得しました。両親も私もどんなに心配していたか、警察にも捜索願を出した事を伝えて。それでも何も言わないものですから、この家にいなければならない理由があるのかと問いかけました。しかし、結局一時間以上経っても、ケイは何も言いませんでした。

 あの時、ケイが何か一言でも自分の意思を口にしていたら……。私には何も分からないまま、悪い想像だけが膨らんでいきました。



 やがて夕方になり、私はこのままケイが何も言わないなら、無理やりにでも実家に連れて帰るつもりでした。夜遅くまで知らない家にいる訳にはいきませんし、だからと言ってケイを放って帰る訳にもいきませんから。

 しかし、その前に乃撫子氏から提案がありました。彼女は恐る恐るという風に私とケイがいる客室に入ってきて、言いました。「もう夜になります。今晩は泊まっていってください」と。

 私は嫌な予感がしましたが、お盆休みは今週いっぱいで、まだ日数には余裕がありますし、まだ御座家に非があると完全に決まった訳でもないので、ここでケイを無理やり連れ帰って事を荒立てるのは良くないと思い、乃撫子氏のお言葉に甘えることにしました。穏便に解決する方法があるなら、そうしたかったのです。

 私は両親に電話をして、今日は帰らないと断りを入れました。その判断が間違いの元だったのですが。

 いや、もしかしたら、どういう選択をしても結局は同じだったのかも知れません。

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