第13話 我輩、驚く。
「うわぁぁ〜!! やっぱりもう敵がいないぃぃ〜!!」
そう言って地面にへたり込んだのはエルフの受付嬢だ。
アイン君は半日とか言っていたが、結局舞が終わったのは次の日の朝だった。
どうやら舞の終わる時間にはムラがあるらしい。
アイン君や我輩、アマリリス殿はそんな打ちひしがれる彼女の様子を見上げていた。
そんな中、皆を代表して我輩は彼女に労いの言葉をかける。
「ご苦労だった。流石はS級冒険者。その名にふさわしい踊りであったぞ」
しかし、立ち上がって彼女は叫ぶ。
「褒め言葉ありがとうねぇ! でもあのドラゴンを一撃で倒すって、あんた一体どんだけでたらめなのよぉ! なんで殴っただけでドラゴンが分解するわけ!?」
我輩は鷹揚に答える。
「君はゆで卵を壁に投げつけたらどうなるかわかるか? そう、ぐちゃぐちゃに割れるのだ」
エルフの受付嬢は口を大きく開けている。
「……全然意味がわからない……。このヘルム野郎は一体何を言っているというの?」
すかさず淡々とアマリリス殿が補足した。
「ジンさんはバーガンディードラゴンはゆで卵ぐらいの硬さで、トロールのような豆腐野郎よりは倒しがいはあったと仰っているのです」
アマリリス殿よ、我輩は一言もそんなこと言ってないぞ。
アイン君とエルフの受付嬢の目が点になっている。
だがそのエルフの受付嬢の様子がさっきからおかしい。
「そんなことよりも……。なんかエルフの受付嬢がデカくみえるのだが気のせいか?」
立ち上がった彼女からは有り余る迫力を感じる。まるで身長が伸び、かなりゴツくなったように見える…………って
「うぉっ! めっちゃデカくなっておるぞ! これが剣舞<凍土の剣聖>の効果だというのか!?」
彼女は少し恥ずかしそうに言った。
「仕方ないでしょ! あのドラゴンを前にして決死の覚悟を抱かないヤツなんてあんた達くらいだわ! 出せる技を惜しみなく使うのは当然の事よぉ!」
我輩は彼女を見上げた。
彼女の身長は木を優に超えており、森から頭がはみ出している。
なんか面白い。
「これならば確かに必殺技と呼べるのも頷ける。いつまでその状態が続くんだ?」
そう言うと彼女は絶望した表情を浮かべて言った。
「うわぁぁ〜!! 思い出させないでぇぇ〜!! 今日一日中はこのままよぉぉ〜!! 眠いけど眠く無いぃ! ねむハッスル……」
ねむハッスルとは……! 言い得て妙だな。
そう我輩が感心していると何か気付いた様子のアマリリス殿が慌てて言った。
「ああ! ジンさん見て! 彼女が森を超える程大きくなって、さらには筋肉モリモリになったから気付いたけど、今の彼女は耳が長くないわ!」
アマリリス殿はエルフの受付嬢の大きさをやたらと強調して言った。
アマリリス殿は自分の冒険者カードに“アマリリスドノ”と書かかれた事を根に持っているのだろうか。
いや、これは確実にエルフの受付嬢に対して仕返ししている。子供か!
だが、我輩は受付嬢の耳を見て愕然とした……エルフ……さん……がいない!?
「ど、どういうことだ!? エルフの受付嬢がただの受付嬢にクラスチェンジしただと!? そ、そうかエルフはその巨大な体には似合わないから引っ込めただけだな?」
エルフの受付嬢、もといデカい受付嬢の目は鋭い。
とても怒っているようだ。
「こ・れ・は! もともと! あの時は付け耳してただけ! 大体エルフってなんなのよぉ! そんなの聞いたことないわ! それにこの体の事は何も言わないでぇ! これ以上言ったらぶっ飛ばすからなぁ?」
ちょっと恐かったのでもう何も言わないでおく。
そんなことよりもこのデカい受付嬢は今重大な事をポロリと漏らしたぞ!
「エルフを知らない……? どういうことだ? 君はエルフに擬態していたんだろ?」
デカい受付嬢は我輩を睨みながら言った。
「いやぁ、まぁそうだけど……この世界にエルフなんて種族はいないわ。あたしはやれって言われただけ。あんたともあろう御仁がこんなにころっと騙されるなんてねぇ。ちょっとスッキリしたわぁ!」
デカい受付嬢がからからと笑う。
なんだと……! この世界にファンタジーの代名詞のエルフがいない……!? 何の為にこんなところまでやってきたと思っているんだ“神隠し”めぇ!
いやまて……! このデカい受付嬢にエルフの格好をしろと言ったヤツがいるはずだ! ということはそいつに聞けばエルフの居場所を知っているに違いない! 我輩達が異世界から来ていることを知っていてわざとカマをかけたなんてことがあるはずがない!
我輩はまだ異世界の神秘を諦めないぞ……!
「エルフの耳をつけるように指示したのはどこのどいつだ……!? 教えてくれ!」
だが、デカい受付嬢は急に笑みを引っ込め冷徹に言った。
「それは言えないわねぇ。冒険者ともあろう者が秘密も守れないんじゃあ、冒険者失格だからねぇ。どうしても知りたいんならなんとかして聞き出して見せなさいな、冒険者らしくねぇ」
それを聞いて我輩は笑う。
そうだとも、我輩はもうスペシャルニートではないのだ。
誇りの高き冒険者、いくらエルフの秘密を知るためだと言ってもそれを簡単に曲げるわけにはいかない。
冒険者らしさとは己の器の大きさを示し合い、認めさせ相手を屈服させる事。
それはまさしく我輩が目指すべき道であるのだから。
「ふっ、いいだろう。いつか貴様の口から言わせてやる。覚悟しておけ」
我輩は獰猛に笑った。
「おぉ、恐い恐い! この姿の私に喧嘩を売ってくるヤツなんて初めてみたねぇ! ぞくぞくするわぁ!」
我輩とデカい受付嬢はお互いに好戦的に笑い合うが、それを見て呆れた様子のアマリリス殿が割り込んできた。
「それにしても、どうしてバーガンディードラゴンは丁度ここに現れたの?」
アイン君もすかさず同意した。
「そうだよなぁ。今までなら俺達がこの山に進入した瞬間にバーガンディードラゴンがやってくるはずなんだが……」
デカい受付嬢も首を捻る。
「そうだわねぇ。何か良くない事が起こりそうね。でもB級以下の冒険者はとっくにこの山の攻略を諦めて帰り始めているわよ」
我輩は山の頂上を見上げる。
いるな、確実に何かが。
黒い渦巻くものを感じる……。
我輩は笑みを隠さず告げた。
「とりあえず、霧も晴れていることだし山の頂上目指して出発するとしようか。
皆の者、我輩に続けぇい!」
「おー!」
乗ってきてくれたのはアマリリス殿だけだった。
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