第14話 我輩、再開する。

ここはバーガンディーマウンテンの高山地帯。

なんだかんだありながらも、我輩達はずいぶんと標高の高いところまで来てしまったようだ。

下を覗いて見ても、今いる場所が高すぎて地上がよく見えない。


我輩達はすでに森を抜けだしており、周りに見えるのはゴツゴツした岩や石ばかりである。

しかしその中でも目を引く物があった。


それは無数の大きな穴だ。

割と大きな穴が岩の間などにたくさん見られる。


「……せやぁっ! はぁっ!」


そんな中、有り余る力で岩の間に隠れているゴブリンなどを雑草の如く刈り取っているのは、デカい受付嬢だ。

彼女のマジックアイテムの効果なのか、剣舞に使っていた剣はいつのまにか巨大な大鎌へと変貌を遂げている。

確かに今の彼女なら、バーガンディードラゴンでもやすやすと倒せるだろう。


しかし、彼女は巨大化と共にシンボルマークであった長い耳をどこかへと置いてきてしまっていた。

残念なことにエルフの受付嬢はもうどこにもいないのだ。


そんな風に哀愁を漂わせながら、我輩は彼女の戦闘を見つめる。

横ではアマリリス殿がアイン君に話しかけていた。


「ねぇ、あなたあのミラさんと面識があるんでしょ? なのに何で弓で射られそうになってたわけ?」


なかなか良いことを聞いてくれたな、アマリリス殿よ。

我輩も聞きたかった事だ。


「あぁ〜、そりゃたぶん、俺が依頼の失敗ばかりするから怒ってんだと思うぜ〜。実力がねぇヤツには厳しいからなぁ、あの人」


我輩は二人の会話に割り込んだ。


「なぜアイン君が依頼に失敗すると、デカい受付嬢が怒るんだ? 君達は師弟関係か何かなのか?」


戦闘を終えたデカい受付嬢が会話を聞いていたのか、答える。


「やめてよぉ、こんなのが弟子だなんて冗談じゃないわ。でもその理由はねぇ、この私がS級冒険者であると同時に、冒険者組合長であるからにほかならないわ!」


デカい受付嬢は胸筋を見せびらかすように胸を張って言った。

ムキムキかっこいい。


だが、冒険者組合長と聞いて我輩は驚くが、アマリリス殿は全く動じていない。


「ふ〜ん。その割にはこの山に対して全然知識はないのね」


小馬鹿にしたように言うアマリリス殿にデカい受付嬢はイラッとしたように答えた。


「うるさいわねぇ、“アマリリスドノ”さん。胸と同じように器も小さいなんて冒険者としての格が知れたもんよぉ?」


デカい受付嬢は大きくなった胸筋をさらに誇示するように胸を張る。

彼女はその立派な胸筋が自慢なようだ。


前から思っていたが、この二人の仲はそれほどよろしくないようである。

最初はアマリリス殿が子供みたいに突っかかっていただけかと思っていたがどうやらそうではないらしい。

デカい受付嬢も彼女に対して刺々しいのだ。

“アマリリスドノ”と冒険者カードに書いたのもわざとに違いない。


額に青筋を立てたアマリリリス殿は毒を吐く。


「冒険者の格なんて、どちらがどれだけの獲物を討伐したかで決まる。私はバーガンディードラゴンを討伐したわ。でもあなたは? ただ一晩中踊っていただけじゃないの? 全くご苦労様なことだわ」


アマリリス殿の口撃は異世界でも快調なようだ……。

それみろ……デカい受付嬢の顔がみるみる赤くなっている。

だがな、アマリリス殿よ、ドラゴンを倒したのは両方我輩だぞ。

恐いから言わないが。


「今なら! この状態なら絶対負けないわ、この小娘ぇ! アレよ! あのヘビみたいなモンスターで勝負よぉ!」


デカい受付嬢は口をプルプルさせながら指差した。

彼女が示した方向には、穴の中からヘビの尻尾のようなものが見える。

あの尻尾の大きさから察するにかなりの大蛇だろう。

こちらに背を向けているので、今がチャンスだ。


「いいわ、乗った! 一番槍は私が頂くわ!」


そう言って、アマリリス殿は素早く移動し、その茶色くテカるヘビの尻尾の付け根部分にガシッと抱きつく。

そのまま引きづり出すつもりのようだ。

だが、デカい受付嬢も負けてはいない。


「うぉらっ!」


勇ましい掛け声を上げて同じように尻尾を掴んでいる。

アマリリス殿とデカい受付嬢がお互いに大蛇のようなモンスターを引っ張り出す形となった。

そのモンスターは、二人の強大な力に屈し、あっさりとその全貌を晒す。


「「……へっ?」」


その全貌を見た二人が間抜けな声を出す。

それもそのはず、大蛇と思われていたモンスターは、大蛇などではなく、大きな翼と鋭い爪を持ったドラゴンだったのだから。


ドラゴンもこの事態を予想していなかったのか、心なしかキョトンとしているように見えた。


慌てて女性二人は距離を取り、様子を伺う。


しばし沈黙が辺りを包むが、そのドラゴンと我輩の視線が交錯した。

その瞬間、ドラゴンが縮み上がって叫ぶ。


「ギ、ギャー!! な、なんでこんな所に伯爵殿下様がいるでやんすか!?」


「……やっぱりお前か」


アイン君とデカい受付嬢は目をパチクリしていた。

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