第13話 二人目の
「え……、あ、あにがとうございます!!」
断られると思っていた七海は、彼女が応じてくれたことに動揺しながらお礼を言った。
兄が十人いるみたいな感じになったじゃないか。
そうして何故か白けた目をしているモモを含めた三人は、女性に導かれるがままに適当な席に座った。
向かいに座った女性は背筋をしっかりと伸ばし、テーブルの上に両手を重ねる。
凛とした彼女の行動一つ一つに、七海も身が締まる。
「突然声を掛けてしまって申し訳ありませんでした。いかにも“魔法使い”といった格好をしていたもので……、つい」
そう言って七海は、改めて彼女を舐めるように眺めた。
ファーストインパクトこそ脚に持っていかれたが、
ジャイアントと称するには少し小さいかな。あ、新世紀の某ロボアニメの話ね。
「ハルカさん? 何を見ているんですか? 私も気になるので
「ぶひっ」
――めりめりめりめり。
陰にある彼の手を、モモが力一杯につねっている。
「そうね。本題をほっぽり出してしまうくらい重大なモノなら、是非私も……ふんッッ、知りたいわ」
「あへっ」
――バキッ。
見えない彼の脛を、尖った何かが一蹴する。
痛いです。
穏やかじゃない空気だが、逃げちゃダメだ。
とあるパイロットにそう教わった。
「それは……、モモにはないあの豊かなおっぱ――ングフっっっ」
指をさしながらの丁寧な説明を聞き届ける前に、彼の顎にモモのアッパーが炸裂した。
一瞬のうちに景色が天井に一変する。
言えっていうから言ったんじゃないか……。
「本当に言う人いますか?」
「信じられないわね、こんな人が魔法を使えるなんて。もしかしてだけど――」
「「あなた、バカ」ですか?」
タイプの違う声がぴったりと揃った。
いつもの二倍の暴言が七海を襲う。冷ややかな目線も二倍。
やはりこの世界の女性は分からない。論理じゃないから……。
「バカではないです。それはそうとして……、お名前は何と?」
「潔さもここまでくると気持ち悪いわね……」
呆れた顔をしている女性二人に対して、持ち前のタフさでいち早く切り替えた七海が始めた。
名前を聞かれた彼女は嫌そうにしていたが、もう一度身を整えて話す。
「でも忙しいし……、早く終わらせましょう。私の名前はアリア・ディヴァージです。好きなように呼んでください」
「アリア・ディヴぁ……、じゃあアリアさん、で。 僕は七海遥といいます。ナナミで構いません」
「そうですか、ではバカと呼ぶことにします」
間髪入れない速いテンポで、七海の呼称が決まる。
バカじゃねぇから。大学生のコスプレした性欲猿と一緒にすんなこの野郎ゥ……!!
怒りに震える拳を押さえながら、笑顔で彼は続ける。
「あの……、アリアさんってお耳が弱いんですか? 耳鼻科探すの手伝いますよ。そうでなければ脳外科にでも……」
「余計なお世話ね。あなたこそ、魔法のことより女の子と沢山話せるお店でも教えてあげましょうか? 質の保証はしませんが」
七海の脳裏に、ライプ村の商店街での一幕が甦る。
貧弱そうな青年が、赤いドレスの
全身の力が奪われ、硬かったはずの握りも自然と緩くなっていく。
あんな地獄だけは勘弁してくれ。
「すいませんでした……。二度と盾つくようなことはしませんので、どうか魔法の方だけお願いします……」
「あなた……、既に何か悪いモノでも見たのね……。まぁいいわ。それで、何が知りたいの?」
「お手数掛けるようで申し訳ないのですが、一から全て教えて頂きたいのです。私も最近知ったんですけど……、この人、お分かりの通りバカですので」
アリアの質問に、モモが淡々と答える。
降り続ける暴言の雨に、流石の七海も虚勢すら張れなくなっていた。
ただ静かに次を待つのみである。
「それなら仕方ないですね。まず、魔法には五つの属性が存在します。“火”、“水”、“風”、“土”、“雷”。一人の魔法使いが使える属性は一つです。ごく稀に、例外はありますが。」
「例外というのは……、どういった方がなるんですか?」
期待を込めて、七海は尋ねた。
――それだけ貴重な存在であれば、この世界でいう“天才”であると言えよう。
そして
「どういった方が、ですか。知識のないあなたでも一番分かり易いのは、私ですかね」
「は?」
「え?」
さりげないカミングアウトに、七海は勿論、(文面的にも)息を潜め気味のモモの驚きが漏れる。
モモ、薄いのは胸だけで十分だぞ。
「……ハルカさん、帰ったら少しお話が。それでアリアさん、あなたが『マルチ・ウィザード』って、本当ですか?」
話の流れ的に今のは別にスルーでいいしょう……。
散々僕にはボロクソ言う癖に、どうして僕だけこんな目に……。
消沈した彼を構わずにアリアは応じる。
「ええ。複数の属性の魔法が使える、マルチ・ウィザードよ。私の場合、
――――ちょっと待て。
“天才”そんなに要らないから。
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