第7話 陽と陰

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 村は、朝早くから活気であふれていた。

 道の両脇のたくさんの屋台には、食べ物や衣類などの生活必需品、あるいは骨董品のようなインテリア雑貨などがそれぞれ並べられている。

 その店一つ一つから、商品を売り込む威勢の良い声が響く。



 「らっしゃいィ、らっしゃいィ!」



 「どうですかー! うちの商品、見ていきませんかー!」



 「あらァん、イイオ・ト・コ、ねェ。ちょっとだけアタシと遊ばなァい? あドン・ドンっ、はいってきてェ~ん!」



 最後のはちょっと違うだろ……。


 真っ赤なドレスが今にもはちきれそうな厚化粧の女が、どこから出しているのかも分からない声で呼び込みをしている。

 あ、如何にも断れなさそうな弱弱しい男の子達が捕まった。屋台の裏の細い路地に連れ込まれていく……。

 ……ああ、ああ悲鳴が……。くッ……健闘を祈る……。



 ライプ村は比較的小さな村で、商店街はここ一か所しかないらしい。所謂、“田舎”である。

 見た限り、住人は皆モモと同じ“ケモノ”のようだ。

 村全体を面積的に見ると、住宅地と農地が三対七くらい。

 モモの住む家もそうだが、村の建物は全て木製で、そのほとんどが住宅である。

 残りは食料などを保管しておく倉庫と、今僕たちが向かっている、集会所である。

 


 「ハルカさん、どうですか? なかなか元気な村でしょう?」



 隣を歩くモモが、陽気に話しかけてきた。

 今日は余所行きなのか、いつもは肩にかかるくらいの長さの髪をハーフアップにして、洋服は水色のワンピースを着ている。

 心なしか、うっすらとメイクをしているような。唇が昨日よりも艶やかで透明感がある。


 「そうで……そうだね。平和で、とても良い所だと思う」


 に暮らしていた街とは違う賑やかさが、ここ最近の目まぐるしい展開を抜けた安心感を七海に与える。

 その反動か、彼は普段なら気にもならない、女子の、つまりモモの少し気合の入ったようなその様子が気になった。ただこんなに小さな村の集会所に行くくらいであれば、いつも通りの格好で良いはずなのだが。


 七海はそれとなく聞いてみる。



 「その……、モモ。今日は特別な用事でもあるの? 可愛くおめかししちゃってさ」


 「な、ななななっ――――」



 桃色のチークが薄く塗られたモモの頬がみるみる熟れていく。

 そして間もなく完熟した彼女は、自慢の尻尾を乱暴に振り回し始めた。



 「なんでもないですっ!!! 何が天才ですかっ!!! バカ! ……あ、アホ! …………まっ、魔法使いーっ!」


 「痛いいたいイタイッ!!! ゴメンてごめ……遺体ッ!!!」



 ぽかぽかぽかぽかぽかっ。

 

 雑な乱れうちのはずが、一撃とも外さず七海にヒットする。


 コミカルな効果音で誤魔化さないで欲しい。

 痛すぎて最後死んじゃってたし。

 ずっと惚れていたあの尻尾に初めて触るのが、こんな形だなんて……、思ってたのと違うんですけど。

 というか罵倒のボキャブラリ―が貧し過ぎて、怒ったことないのバッレバレだから。

 最後なんか取り方によっては褒め言葉だから……。


 ようやく収まった爆撃に、七海はホッと胸を撫で下ろす。

 それを仕掛けた当の本人は、口を尖がらせてぼそぼそと何か呟いている。



 「初めての……、デートなのに……」



 「ん? 何て?」



 「な、何でもないですっ。んもう! 行きますよ!」



 そう言ってモモはぷんすかしながら先を行ってしまった。

 後を追うように、慌てて七海も歩き出す。


 

 ご機嫌斜めのモモと歩くこと数分、二人は商店街を抜け、閑静な住宅地へと入った。

 もう少しすれば、目的とする集会所だ。


 

 ――しかし、店も何もないとは言え、異常なほどに静かだった。



 「……モモ、ここは本当に人が住んでいるのですか?」



 あまりの違和感に、険悪な雰囲気も忘れて七海は尋ねる。


 するとモモは、明らかに顔を曇らせた。

 いつもに増して可憐な唇を、ぎゅっと噛み締めている。



 「モモ?」



 「……いえ、……ちょっと。それより……、集会所、もうすぐですから」



 ぶつ切りの言葉で先を促すモモ。


 この静けさの事も、彼女が俯いた理由も教えて貰えなかったが、その二つは一つなのだと、七海は勘付いた。

 そしてそれらはこの先の集会所で、明らかになるであろうということも。

 

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