鉄塔の観測者
積み重なったゴミの山をうんせ、うんせとよじ登り、転げ落ちないように下に降り。それを繰り返すと、やっとゴミのない場所に出ました。
そこは、広々とした荒野でした。溶けない雪でも覆い尽くせない大きさの岩が、ごろごろと転がっています。
「随分と、寂しい所にいたんだなぁ。」
ロボットはそう思い、一層かよちゃんへの思いを募らせました。
雪の上に足跡を残しながら、ロボットは折れた鉄塔を目指して進んでいきます。ロボットが鉄塔を目指す事にしたのは、あの上から辺りを見下ろせば自分のいた街が見つかるかもしれない。そう思ったからでした。
ロボットは本当に、早くかよちゃんに会いたかったのです。大好きなかよちゃんが泣くところは、見たくなかったのです。
風は相変わらず強かったですが、今のロボットにはちょっと歩きにくいぐらいしか気になりません。水気のない不思議な雪も、目にかかって少し前が見えにくいぐらいです。
自分が目を覚ますきっかけになった大きな布を知らずにマント代わりにして、ロボットは鉄塔へと歩いていきます。
そうして暫く歩いて、ロボットはやっと鉄塔のふもとに辿り着きました。真下から見た鉄塔は、折れてはいてもロボットの背よりも何十倍も大きく見えます。
これならきっと街も見える。ロボットは鉄塔に掛かっていた梯子を、落ちないように気を付けながら登り始めました。
少し錆び付いた梯子は上へ、上へと続いています。ロボットは下を見ないように気を付けて、どんどん梯子を登っていきます。
そして、鉄塔の真ん中ぐらいまで登った時でした。ロボットは鉄塔の一番上に、誰かが座っているのに気が付きました。
「おや、誰だろう?」
不思議に思いながら、ロボットはやっと鉄塔の一番上まで登り切りました。疲れを知らない体のロボットでしたが、達成感についつい大きく体を伸ばします。
座っている誰かは、ロボットのマントに似たフードを深く被っていました。登ってきたロボットに気付いた様子もなく、ただジッと遠くを見つめています。その背中に、ロボットは声をかけました。
「やぁ、こんにちは。」
「おやおや、誰だい。」
フードの人が、こちらを振り返ります。その顔は随分錆び付いていて、明らかに人間のものではありません。そう、同じロボットだったのです。
「何を見ているのですか?」
「ワシか。ワシは空を見ておる。」
フードのロボットが指差す先を、ロボットは見つめます。けれどもそこには、厚い雲と舞い散る雪以外何もありませんでした。
「何もないようですが。」
「そうじゃな。だがワシは待っているのじゃよ。」
「何をですか?」
「太陽をじゃよ。」
ロボットはもう一度、空を見上げます。雲はとにかくとてもとても分厚くて、夕暮れ時かと思うくらい薄暗くて、太陽なんて欠片も見えません。
「この変な雪は、いつから降っているのですか?」
ふとロボットは気になって、そう聞いてみました。ずっと眠っていたロボットには、この雪が不思議で不思議で仕方なかったのです。
「そうさのう、あれはいつの頃じゃったかな。大きな、大きなキノコみたいな雲があちこちで沢山生まれたんじゃ。それからじゃ。太陽が姿を見せなくなったのは。」
「その雲のせいで、この雪が降り始めたのですか?」
「解らんが、多分な。」
そう口にするフードのロボットの顔は、とても寂しそうでした。フードのロボットは本当に太陽が好きなんだなぁ、と、ロボットは思いました。
「そうだ、この辺りに街はありませんか。私は住んでいた街に帰りたいのです」
「街か。ならばあっちを見てごらん。」
フードのロボットが、今度は左を指差します。ロボットがそっちを見ると、遠い遠い場所に確かに街のようなものが見えました。
「お前さんの街かは解らんが、行ってみるといい。」
「ありがとうございます。……あなたはこのままここに?」
「ああ、太陽が出たら真っ先に迎えたいからの。」
「そうですか。では、お元気で。」
「気を付けてな。」
ロボットはフードのロボットに別れを告げると、梯子を降りて街の方へと歩き出しました。
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