ロボットの長い旅

由希

目覚め

 そのロボットは、世界が冷たくない雪で覆われて、外で動く生き物がいなくなるずっと前からそのスクラップ山の頂上で眠り続けていました。

 世界にゴミが溢れて、溢れて、溢れすぎたから、壊すのを忘れてそのままにされていたのです。

 実のところ、ロボットは完全に壊れていた訳ではありません。ちょっと頭の回路が繋がり難くなっていただけでした。

 けれどもその頃の世界にはゴミ以外にもものが溢れすぎていて。ロボットは、それに気付かれずに簡単に捨てられてしまったのでした。


 今日は久しぶりの風が強い日。溶けない雪が舞い散って、辺りに吹き付けられていきます。

 ロボットの体も、風に揺られてゆらゆらと揺れます。ロボットは軽くはありませんでしたが、足場があまり良くないので強い風が吹くと足場と一緒に揺れてしまうのです。

 いつもはそれで終わりです。けれどもその日は違いました。

 どこからか大きな布が飛んできて、ロボットに覆い被さったのです。その拍子に、ロボットはいつもより大きく揺れました。


 ――ゴン、ガン、ドシャッ!


 その拍子に、ロボットはゴロゴロとスクラップの山を転がっていってしまいました。ロボットがあちこちにぶつかった拍子に、他のゴミもバラバラと落ちていきます。

 最後に頭を思い切り地面にぶつけて、やっとロボットの体は止まりました。後から落ちてきた大きなゴミが、立て続けにガン、ガンとロボットの体にぶつかります。


 この時。繋がりにくくなっていたロボットの頭の回路が、偶然にもパチッ、と繋がりました。


「……ああ、よく寝た。」


 長い時を経て、やっと目を覚ましたロボットの第一声はそんなのんきな一言でした。



 自分の上に積もったゴミをやっとこどかし、ロボットは辺りを見回しました。

 見渡す限りのゴミの山。それはロボットの記憶にあるのと、全く違う光景でした。


「はて、これはどうした事だろう。ここは一体どこなんだ?」


 腕組みして、ロボットは考えます。けれども、眠っていた間の事をいくら考えても全く検討がつきませんでした。


「とにかく、家に帰らなければ。かよちゃんが泣いてしまう。」


 結局、ロボットは考えるよりは行動する事に決めました。ロボットの脳裏には、ぐすぐすと泣いているかよちゃんの姿が浮かんでいます。

 かよちゃんは、ロボットが暮らしていた家の一人娘。ロボットの事が大好きで、ロボットが側にいないとすぐに泣いてしまう小さな女の子です。

 ロボットもまた、かよちゃんが大好きでした。かよちゃんが泣いていると思うだけで、胸がギュッと締め付けられるような気持ちになるのです。


 ロボットは、もう一度辺りを見回しました。今も溶けない雪が吹き付ける空はどんよりと曇っていて、お日様は少しも見えません。けれども遠くの方に、先っぽの折れた鉄塔があるのが見えます。

 ロボットは、その鉄塔を目印に歩き出しました。こうして、ロボットの長い長い旅が始まったのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る