フーセン金魚と黒デメキン
佐野心眼
フーセン金魚と黒デメキン
プクプクポロポロ、コロロロロン…
コポコポコポポ、ポロロロロン…
水に差し込むお日様が
ゆらりゆら〜り光る幕
ひらりひら〜り美しく
水に踊るは長いヒレ
赤白キンギョと黒デメキン
水草一緒にゆれている
「ぼく達ずっと一緒だね」
「何があっても一緒だね」
ある夕暮れにポッチャンと
手の長いエビやって来た
おなかすかせたテナガエビ
黒デメキンに飛びついた
夜にまぎれてガジガジと
ヒレと片目を食べつくす
ダルマになった黒デメキン
美しいヒレ今はない
片目から見る
絶望の底、砂の底
「きみは一体どうしたの?」
「もうおしまいだ…何もかも」
「片目なくして血だるまだ」
「傷が燃えてる…ヒリヒリと…」
「ぼくが助けてあげるから」
「きみには何も…できないよ」
「どうか希望を捨てないで」
「心も
「神に約束してあげる」
「神など…ぼくは信じない」
「ぼくのためにも死なないで」
「…きみのためなら…生き抜こう」
希望の光は友のため
黒い悪魔を吹き飛ばせ
死の淵に立つ黒デメキン
強い心で乗り越えろ
小さなヒレが生えてきた
長い年月生き抜いて
ひらりひら〜り元のヒレ
「神が約束かなえたよ」
「何と約束したのかな?」
「ぼくの命を
「きみの優しさ胸しみる」
愛が無限であるのなら
移ろいゆく時の中で
踊り疲れるまで踊ろう
プクプクポロポロ、コロロロロン…
コポコポコポポ、ポロロロロン…
赤白キンギョ突然に
不治の病におかされた
お腹が大きくふくらんで
パンパンのフーセン金魚
うまく泳げず水の底
口をパクパクさせるだけ
「重くて痛い、苦しいよ」
「きっと治るよ頑張って」
「ぼくには分かる、治らない」
「最後の最後まで生きよう」
「死にたくないよ、生きたいよ」
「そうだ一緒に生きようよ」
「どうすればいい?この様で」
(…ぼくには何ができるだろう)
「張り裂けそうだ、助けてよ」
(…そばにいるしかできないよ)
「あの時の恩、忘れたの?」
「忘れやしない片時も」
「ぼくの命を返してよ」
「…きみにもらった命だよ」
「何で約束しただろう」
「ぼくのためだよ、ありがとう」
「ぼくより先に死んでくれ」
「…あとからいくよ、待っててよ」
「ぼくを殺してくれないか」
(…それは背負いきれないよ)
「一緒にいこう、怖いんだ」
「…流れに任せるしかないよ」
「ぼくは…みにくい…金魚だね」
「きみの心は美しい」
「ごめん…それから…ありがとう」
「あきらめないで、がんばって」
「もう…話せない…もう…だめだ…」
「きみは立派にがんばった」
「別れの…時が…近づ…い…た……」
「永遠の友、安らかに」
そっとフーセンほほ笑んだ
大空高く飛び立った
ぽつん、片目の黒デメキン
あふれた涙、水に溶け
一人たゆたう黒デメキン
空を見上げて何想う
風に
遠い世界でまた会おう
プクプクポロポロ、コロロロロン…
コポコポコポポ、ポロロロロン…
フーセン金魚と黒デメキン 佐野心眼 @shingan-sano
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