第8話 何に興味があるのかな?
お菓子作りがはじまってから数十分後。
大皿を持ったスミカさんと、満面の笑みを浮かべたアツイ、そっぽを向くメトフィアが私たちの隣にやってきた。
「はい、クッキー完成よ!」
「出来上がりなのだ!」
「…………」
テーブルに置かれた大皿の上には、いろんな動物さんの形をしたクッキーがたくさん。
クッキーの横に古代生物の化石みたいなのが並んでるのが謎だけど、とても美味しそう。
私たちはゲームを中断し、我先にとクッキーを口に運んだ。
「オオ! ユウシャノ、オカシ、スゴク、オイシイデス! アツイモ、スゴイデス!」
「おいし〜! スミカお姉ちゃんたちのお菓子は、世界一だよ〜!」
「だね。それにしても、お菓子の飾りが化石って斬新すぎる気が」
何気なく漏らした私の感想に、スミカさんとアツイの表情が強張り、メトフィアがピクッと反応した。
間を置かず、スミカさんとアツイは言う。
「それは化石じゃなくて、メトフィアさんが作ったクッキーよ」
「え?」
「メトフィアは精一杯がんばっていたのだ!」
どうしよう。
もしかして私、地雷を踏んだかもしれない。
「あの……」
「化石で悪かったですわね! そうですわよ! 妾に料理など無理ですの! フンッ!」
「なんか、ごめんなさい」
謝るしかなかった。
とはいえ、化石にしか見えないクッキーを食べる気にもならなかった。
もちろんメトフィアは機嫌を悪くし、エプロンを椅子の上に放り投げちゃう。
うう、言ってはいけないことを言っちゃったよ。
メトフィアもメトフィアでショックだったらしく、リビングの隅っこへ。
ただし、リビングの隅っこでは、カメラを手にした下着姿のルフナと、妙に薄着なイショーさんがうごめいていた。
「ハアハア……ザラザラにゲームを教えるミィア先生……いいぞ! 新しいぞ! 私もミィアにいろいろと教わって……ムフフ」
「ちっちゃなまおーちゃんとサムイに挟まれて、一緒にアニメを見るルリ——フッフーン、ルリったらお母さんみたいね。ルリお母さんとの甘い時間、過ごしてみたくなっちゃったわ」
下着姿で興奮する人と、薄着で妄想する人。
明らかにヤバそうなリビングの隅っこなのに、メトフィアは2人に尋ねた。
「あなたたちは何をしているんですの?」
すると、2人はメトフィアに駆け寄りまくし立てる。
「お! もしやメトフィア、お前もミィアという宇宙を漂いたいのか!? だったら私と一緒に、ミィアを崇め奉ろう!」
「は、はぁ?」
「フッフーン、ダ〜メ。ルリは私のだから、あなたには渡さないわ。あ、でも、たまには3人でやるのも——」
「なんなんですの!?」
「さあ! まだ見ぬ世界へ飛び込もう!」
「ほらほら、あなたも一緒に、甘い時間を過ごしましょ」
「け、結構ですわ! 失礼しますの!」
怯えた顔をして一目散に逃げ出すメトフィア。
まおーちゃんとヤミノ世界してんのー、3人の勇者と対峙しても表情ひとつ変えなかったのに、よっぽど怖かったんだね。
さて、メトフィアが逃げた先では、シェフィーとスズシイの2人がペンを走らせていた。
メトフィアは2人の後ろで足を止め、覗き込むようにして質問を投げかける。
「2人でお絵かきですの?」
その質問は、心なしか明るい口調だった。
ルフナとイショーさんのおかげで、化石の件は忘れてくれたのかな。
質問を投げかけられたシェフィーは、ニコッと笑って答えた。
「いいえ、魔法陣の製作です。と言っても、お絵かきみたいに楽しいですけどね」
「自らが描いた線が魔法となり、幻想的な現象となる。魔法陣製作とは、本当に楽しいものであるな」
「さすがスズシイさんです! スズシイさんのおっしゃる通り、魔法陣製作は奥の深い、とても楽しいものなんですよ!」
ペンを強く握り、瞳をキラキラさせたシェフィー。
対するメトフィアは、シェフィーが書いた魔法陣をじっと見つめ、首を横に振る。
「興味ありませんわ」
「そ、そうですか……でも、気が変わったら、一緒に魔法陣を作りましょうね!」
「……考えときますわ」
ちょっと名残惜しそうな顔をして、メトフィアはシェフィーたちのもとを去った。
続いてメトフィアが足を止めたのは、テレビの前。
テレビに映っているのは、ルリとまおーちゃん、サムイが見ているアニメだ。
「動く絵ですわね。興味深いですわ」
そんなつぶやきを聞いて、サムイとまおーちゃんが口を開く。
「興味深いの、絵が動くことだけじゃない。物語、演出、セリフ、声を当てる者の演技、音楽、そういったものの総和が、心に訴えかける。何もかも、興味深い」
「メトフィア、これはアニメっていうんだよ。たのしいよ」
「フンッ、趣味じゃありませんわ」
どうやらアニメはメトフィアの趣味じゃないらしい。
と思ったのだけど、趣味じゃないのはアニメじゃなくて、アニメのジャンルなんじゃ?
オタクの心が私にそう告げている。
同じオタクの心を持つルリもそう思ったらしく、ルリはおもむろに立ち上がった。
「……きっと、メトフィアの趣味なら……」
そうしてルリはリビングを出ていく。
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