第7話 楽しいこと探し

 メトフィアを自宅にご招待。

 ついでにヤミノ世界してんのーのみんなも自宅にご招待。

 さらにさらにルリとイショーさん、まおーちゃんも自宅にやってきた。


 自宅にいないのは、魔王城を探検しに行っちゃったシキネとクロワの2人だけだね。

 さすがにリビングが狭いよ。


 リビングにぎゅうぎゅう詰めになっているヤミノ世界してんのー一行は、目を丸くしていた。


「これが異世界の建物、か」


「見たことないものばかりなのだ!」


「未知のものに囲まれる、これも悪くない」


「オナカ、スキマシタ」


 4人とも勝手な感想を口にしている。

 一方のメトフィアは、首をかしげたままだった。


「どういうつもりですの? なぜ妾をここに連れてきましたの?」


「そ、そそ、それは——シェフィーお願い!」


「え!? ええと、その、あの——」


 人見知りを発動し、私は全てをシェフィーにぶん投げる。

 ところが、シェフィーもまた人見知りを発動した。

 おかげで私たちは、メトフィアの前であたふたとするだけ。


 ここに飛び込んできたのはミィアだ。


「ユラユラはね、メトメトに楽しいことを見つけてほしいんだよ!」


「楽しいことを見つける、ですの?」


「そだよ! とりあえずミィアたちは普通に過ごしてるから、気になったものがあったら言ってね!」


「……意味が分かりませんわ」


 さらにメトフィアは首をかしげる。

 まあ、当然の反応かな。


 でもミィアは私が言いたかったことを完璧に伝えてくれた。


 とにもかくにも、私たちは普段通りに楽しいことをする。

 その中からメトフィア自身が楽しいと思えることを見つけてもらう。

 楽しいことを見つけてもらえば、自宅ののんびり空間に浸らせ、メトフィアを二度と〝暇な時間〟を過ごせないようにする。


 これが私の狙いなんだ。


 ということで、ヤミノ世界してんのーも一緒に、私たちは好き勝手な時間を過ごしはじめた。


「ユラユラ〜、パソコンでゲームしよ〜!」


「うん。ザラザラは?」


「ヤリタイデス」


 さっそく私はパソコンを起動。

 パソコン画面には、シェフィーそっくりの自キャラが巨大殺虫剤を持って立っていた。

 このシュールな光景に、メトフィアが興味を持ったらしい。


「それはなんですの?」


 冷たさの残る口調だけど、私は一生懸命答えようとする。


「こ、こここ、これはゲームって、い、いうんだけど……説明が難しいかな」


「ねえねえメトメト、一緒にゲームやろうよ〜!」


 コミュ力チート持ちのミィアのおかげで、メトフィアと一緒にゲームをする流れに。


 ゲーム初心者のメトフィアのため、私は簡単なステージを用意した。

 そしてコントローラーを渡し、いろいろと教えながらプレイ開始。


 数秒後、パソコン画面に『ゲームオーバー』の文字が浮かんだ。

 気を取り直して再プレイ。


 数秒後、またも『ゲームオーバー』の文字が。

 こんなことを何十回か続けて、ついにメトフィアがコントローラーを投げる。


「ダメですわ! また死にましたの!」


「う〜ん、難易度最低の、最初のボスなんだけどな……」


「メトフィア、ヨワイ?」


「大丈夫だよ! もっと練習すれば、きっとうまくなる——」


「フンッ! 妾にゲームは向いていませんわ!」


 さっさと席を立ち、メトフィアはゲームに背を向けてしまった。

 そんなメトフィアをミィアは止めようとする。


「でもでも——」


「ミィア、ゲームは自分の楽しみを増幅してくれるからうまくなれるのであって、元々楽しいと思えなければ、いくらやってもうまくはなれないんだよ。だから、泣いて馬謖を切ろう」


「おお〜! たしかにそうだね〜! ユラユラ師匠の言葉、ふか〜い!」


「ゾウフク? バショク? シラナイ、コトバガ、イッパイ。アワワワワ」


 メトフィアは残念ながら、ゲーム好きにはなれないみたいだね。


 ところで、知らない言葉が多すぎたせいか、ザラザラがプチパニックに陥った。

 プチパニックの結果、ある答えにたどり着いた。


「オナカ、スキマシタ」


 その言葉を聞いて飛んできたのは、スミカさんだ。


「ザラザラちゃん! 今からお菓子を作ってあげるわ! ちょっと待っててちょうだい!」


「ヤッタ! アリガトウゴザイマス!」


 リボンを揺らし、手足をバタバタさせて喜ぶザラザラ。

 スミカさんはお菓子作りのため、アツイを連れてキッチンに向かう。


 一方、肝心のメトフィアはキッチンを凝視していた。

 それに気づいたスミカさんは、メトフィアに声をかける。


「フフフ、メトフィアさんも一緒にお料理、どうかしら? アツイちゃんも手伝ってくれるみたいだし」


「そうなのだ! 大人数でお料理も楽しいのだ!」


「……いえ、断りますわ」


「あら? でもお料理したいって目をしてるわよ?」


「……フンッ! 仕方ないですわね! そこまで言うなら、やってやりますわ!」


 腕を組み口を尖らせながら、でも目元は嬉しそうに、メトフィアはそう答えた。


 そうしてエプロンを身につけ、はじまった3人のお菓子作り。

 キッチンには優しい声と、楽しそうな声と、困惑するような声が響く。

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