第2話 自宅 VS マモノ大船団

 自宅の前に立ちはだかるのは、数千体のマモノ——ホボシップ。

 これを倒さないと、私たちは魔王城にたどり着けない。

 戦いの準備は終えたし、さっそくはじめよう。


「スミカさん、さっき解放した『大和型より強い』ってスキル、使ってみて」


「分かったわ」


 新しいスキルを発動させるため、スミカさんは目を瞑って集中。


 数秒して、何やらガチャガチャとすごい音が聞こえてくる。

 まるで巨大な鉄の塊が動いているかのような音。

 同時に、自宅は影に覆われた。


 何事かとテラスに出たシェフィーは、目を丸くして叫ぶ。


「あわわ! 自宅よりも大きな大砲が出てきました!」


 そんなバカな、と私たちもテラスに出る。

 テラスから上に視線を向ければ、たしかに自宅よりも大きな鉄の塊と、そこから伸びる巨大な3本の砲身が視界を占拠した。


 海の上を浮かぶ自宅の上に、巨大な艦砲が乗っかっている。

 すごくシュールな光景。


「なんじゃこれ! バランスめちゃくちゃだよ!」


「でもでも、すごく強そ〜!」


「なに!? ミィアはこういう無骨な強さも好きなのか!? ならもっと筋トレを——」


「フフフ、私、強くなった気がするわ」


 間違いない。


 巨大な艦砲を載せた自宅が、強くないはずがない。

 見た目はおかしいけど、戦闘力は申し分ないはずだよ。

 しかも対艦ミサイルと魚雷も使えば、ホボシップにだって勝てる。


 自信を深める私たちだけど、サムイはまだスミカさんを信用しきれていないらしい。


「まおー様、勇者はホボシップの群れに、勝てる?」


「だいじょうぶ、スミカおねえちゃん、つよいから、しんじて」


「……まおー様がそこまで言うのなら」


 お手並み拝見、とでも言いたげな目でスミカさんを見つめるサムイ。

 直後、ルフナの大声がリビングに響いた。


「マモノの攻撃が来るぞ!」


 どうやら先手を取られちゃったみたい。

 海の上にずらりと並んだホボシップからは、大量の赤黒い攻撃魔法が打ち上げられる。

 攻撃魔法はそのまま自宅に殺到した。


 集中豪雨みたいな攻撃魔法は、けれどもシールドの青白い光に阻まれ、拡散する。

 もちろん自宅は無傷だ。

 ミィアとルフナは表情を明るくした。


「シールド、マモノの攻撃を弾いてるよ〜!」


「防御は完璧だな!」


 敵の攻撃が当たらないなら、もう怖いものなしだよね。

 いよいよスミカさんは動き出す。


「反撃するわよ! ええい!」


 そうしてゆっくりと動き出す艦砲。

 3本の砲身が斜めに空を向けば、それぞれ順番に火を吹く。


 この攻撃、かなり強烈らしい。

 艦砲射撃の衝撃で自宅は少し後退、海は衝撃波で波紋を描き、爆音がリビングの家具を揺らした。


 撃ち出された砲弾は弧を描き、空中で分裂し、ホボシップたちめがけて落ちていく。

 砲弾が着弾すると、ホボシップたちは爆炎に包まれ、黒い海に沈んでいった。


「攻撃、当たった! 爆発した!」


「一気に殲滅しちゃいました! 予想以上の威力です!」


 たった1回の攻撃で、10体以上のホボシップが轟沈する。

 すごすぎる戦果に私たちは開いた口がふさがらない。


 艦砲は10秒に1回くらいの連射ができるらしく、ホボシップは次々と海の藻屑に。

 ついでに大量の対艦ミサイルと魚雷をスミカさんが発射すれば、もう自宅を止められるマモノはどこにもいなかった。


 にもかかわらず、スミカさんは右往左往。


「あらら!? どうしてそっちに飛んでいっちゃうの!? あらららら? どうしてあっちに行っちゃうの!?」


 どうやらスミカさんの攻撃は狙った場所に当たってないらしい。

 ホボシップの数が多いから、偶然、攻撃が当たってるだけらしい。

 まあ、マモノの数は減ってるから結果オーライだよね。


 爆音と爆炎、揺れる自宅、沈みゆくホボシップの群れ、海を覆い尽くす紫の煙を眺めて、サムイは唖然としていた。


「い、一方的な戦い……これが勇者の力……!?」


「うん、ゆーしゃはマモノをたおすための、めがみさまの『つかい』だもん」


「それにしても、これは……」


 心なしか、サムイが震えてる気がするよ。

 ヤミノ世界してんのーでも驚くくらい強いなんて、やっぱりさすがスミカさんだね。


 私はソファにどっしり座った。


「敵が多いから時間はかかりそうだけど、これなら大丈夫そうだね。私はゲームしてよ」


 ということでゲームタイムのはじまり。

 今日はRPGで素材集めでもしよう。ちょうど欲しい武器もあるしね。


 艦砲射撃のかたわら、私はいつも通りゲームに勤しんだ。

 ゲームの最中、不思議そうな顔をしたサムイが私の隣にやってくる。


「異世界者、何をしている?」


 そのままのことを聞かれたので、私はそのまま答えた。


「ドラゴンと戦ってる」


「ん!?」


「必要な武器素材があるからね、ドラゴン狩りしないといけないんだよ」


「んん!?」


 一応、私は間違ったことは言ってない。

 テレビでは私が操作するネタ衣装を着たキャラが、ドラゴン相手に無双してるんだから。


 けれどもサムイは後退りして、声を震わせた。


「大量のマモノと戦いながら、ドラゴン狩りまで……勇者と異世界者、おそろしい……」


 ついには壁際で丸くなり、膝を抱えてぶるぶるしはじめるサムイ。


 どうしよう、とんでもない勘違いをされた気がする。

 このままだと私、『ヤミノ世界』で恐怖の対象にされちゃいそうだよ。


 なんとかサムイの勘違いを解きたいけれど、ゲームを中断したくもない。

 困った私は、とりあえずゲームを優先した。


 そのうち、スミカさんが微笑む。


「フフフ、だいぶホボシップの数が減ってきたわ」


「そろそろ強行突破できそうだな」


「ルフナちゃんが言うなら大丈夫よね。よし、突撃するわよ!」


 ホボシップを壊滅に追い込んで、スミカさんは自信満々。

 自宅は波を切り、消えたホボシップの煙が漂う海に突っ込んでいった。


 魔王城はもうすぐだ。

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