21けんめ 魔王城で戦うようで、戦わない話

第1話 あれが、魔王城か

 サムイによると、魔王城への近道は海を渡ることらしい。

 そこで自宅は、船系のスキルを駆使して『ヤミノ世界』の海を進むことに。


 黒っぽい海の上へをぷかぷかしながら、それでいて時速100キロ近くで航行する自宅。

 2時間もすれば、いよいよ目的地が見えてきた。


「ねえねえ! 大きな塔があるよ〜!」


「ホントです! もしかして、あれが魔王城でしょうか!?」


「その通り。あれが魔王城」


「まおーのおウチだよ」


 水平線の先で、天を貫くオベリスクのような黒い石造りの塔。

 ちっちゃくてかわいいまおーちゃんからは想像もできない、荘厳で冷たい印象の建物だ。

 魔王城といえば、おどろおどろしい装飾だらけの趣味の悪いやつを思い浮かべるけど、『ヤミノ世界』の魔王城はシンプルなんだね。


 これはこれでありです、はい。


 とにもかくにも、もうすぐで魔王城に到着する。

 ただし、目的地を前にスミカさんは困り顔をした。


「あらあら、レーダーが大変なことになってるわ」


「ええ? うわ、真っ赤だ」


 テレビに映してもらったレーダーなんて、見なきゃ良かったと思う。

 レーダーに映っているマモノは全体の一部だろうけど、それでも数万体はいた。

 魔王城までの海上は、完全にマモノに占領されているらしい。


 敵の多さに困り果てていると、サムイが解説してくれた。


「メトフィア、マモノを魔王城防衛に使ってる。魔王城は今、『ヤミノ世界』一番の要塞になってる。突破は困難」


 移動要塞対魔王城ってことだね。

 けど、メトフィアを倒すには魔王城に行くしかない。

 そして魔王城に行くには、マモノたちを突破するしかない。


「どんなに困難でも、泣いて馬謖を切るしかないよね。マモノたちを突破しよう。でも、あんなに大量のマモノを突破できるかな……」


「待て、この辺りの赤い反応、次々と消えていっているぞ」


 レーダーを見ていたルフナが、おもむろにそんなことを言い出した。


 たしかにルフナの言う通り、魔王城付近のマモノの反応が消えている。

 代わりに青い点が暴れ回っていた。


 まさかと思い、私は双眼鏡を使って魔王城付近をたしかめる。


 魔王城の足元では、衝撃波と砂埃があちこちから起こり、マモノたちが弾け飛んでいた。

 弾け飛ぶマモノと衝撃波の中心にいるのは、ポニーテールを揺らしながら、単純に殴る蹴るで戦い、雄叫びを上げる1人の少女。


「あれは怪獣——じゃなくてシキネだね」


「シキネさんと一緒に戦っているのは、どなたでしょうか?」


 私の隣で双眼鏡を使うシェフィーの言葉。


 シェフィーと同じ方向に双眼鏡を向ければ、オレンジ色のひらひらした衣装をなびかせ、両手や口から炎を吐き出す女の子が見えた。

 あれがクロワでないのは、ここからでも分かる。

 女の子の正体を教えてくれたのはサムイだ。


「彼女の名前、アツイ。ヤミノ世界してんのーの1人。おそらくショクの勇者に負けて、一緒に戦わされている」


「へ〜」


 2人目のしてんのー発見だね。


 ところで、シキネは突如としてアツイの足を掴み、アツイをぶんぶん振り回しはじめた。

 振り回されるアツイは炎を吐き出したまま。

 おかげでマモノたちが次々と撃破されているけど、女の子が女の子を振り回す光景は衝撃的。


 これには私もシェフィーも思わず唖然としちゃう。

 一方のミィアは、サムイの解説を聞いて無邪気な感想を言い放った。


「おお〜、シキネとアツイ、もうお友達になったんだね〜!」


「友達を振り回して武器にするなんて、聞いたことないですよ!」


「きっと、それが新しい友達のかたちなんだよ〜!」


「斬新すぎて理解できません!」


 全面的にシェフィーのツッコミに同意。

 武器として振り回されるアツイ、大丈夫なのかな……。

 そうやってアツイを心配する私だけど、ルフナは今やるべきことを口にした。


「よし! 私たちもショクの勇者に続いて、マモノたちと戦おう!」


 ルフナはそう言って、ナイトさんらしく剣を握った。下着姿だけど。

 スミカさんもルフナの言葉にうなずき、自宅は前へと進む。


 少し進んで、ようやく肉眼でもマモノの姿が確認できる位置にやってきた。

 マモノの姿を確認したシェフィーは報告する。


「海が船でいっぱいです! マモノの大船団です!」


「マモノって船に乗るんだ」


 ただの災害のくせに、意外と文明的なんだね。

 なんて思っていたけど、サムイは首を横に振って口を開いた。


「あれは、船の形をしたマモノ『ホボシップ』」


「え? そんなマモノがいるの?」


「硬い装甲、強烈な遠距離攻撃、敵に回したくない相手」


「つまり戦艦だね……」


 これは強敵の予感がするよ。


「今の自宅の装備だと、ホボシップには苦戦するかもしれない」


「あらあら、それは困ったわ」


「ということで、ちょっとスキル解放するね」


 強い敵が現れたら、まず強いスキルを解放する。

 それが基本中の基本。

 私はそそくさと『おウチスキル』を起動し、スキルツリーを眺めた。


「戦艦の知識なんてないし、いつかやったストラテジーゲームを参考にしよう」


 ゲームでは戦艦大和が最強だったはず。

 となると、大和っぽいスキルを解放するのが最善だね。

 で、大和っぽいスキルってなんだ?


 そう思っていると、すごく分かりやすい名前のスキルが目に入る。


「この『大和型より強い』とかいうスキル、絶対強いよね」


 よく分かんないけど、ポイントは貯まってるし、ともかくスキル解放。

 まだポイントは余ってるし、他はテキトーでいいや。


「あとは対艦ミサイルと魚雷系を解放して、終わり」


 準備は完了だ。

 もういつでもホボシップと戦えるはず。

 新しいスキルで、自宅は海の上でも最強になれたのかな?

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