第3話 友情のかたちは人それぞれ

 砲弾とミサイル、魚雷をばら撒きながら、自宅は黒い海を進んでいく。


 海を支配していたホボシップの大船団は壊滅し、散り散りになっていた。

 おかげで自宅は、敵の攻撃を一切受け付けないシールドも相まって、簡単に魔王城の足元までやってくる。


 魔王城は、目の前にそびえる、黒い海に突き出した崖の上だ。


「ホボシップの大船団を突破したわ!」


「魔王城がすぐそこです! ついにここまで来ました!」


 嬉しそうなスミカさんとシェフィー。

 テラスに出たまおーちゃんは、天を貫く魔王城を見上げながら、にっこり笑顔で言った。


「まおーのおウチ、ひさしぶり」


「おお〜! まおーちゃんのおウチ、大きいね〜!」


「うん、ごせんぞさまがつくった、おおきくて、じまんのおウチ」


 誇らしげに魔王城を見つめるまおーちゃん。

 どうやらまおーちゃんも自宅が大好きらしい。

 ずっと表情に混ざり込んでいた不安そうな感情も、魔王城を前にしてだいぶ減ってるしね。


 うん、その気持ち、すごい分かる。


 けれども、安心するにはまだ早いみたい。

 リビングにサムイのクールな口調が駆け巡る。


「まだ油断、できない。マモノが多い」


「ああ、その通りだ。メトフィアは、まだ私たちを休ませてくれないらしい」


 サムイに続き、イケメンな表情でかっこいいことを言うルフナ。下着姿だけど。


 今は2人が正しい。

 メトフィアを倒し、まおーちゃんが魔王城を取り戻す戦いはまだ終わっていないんだ。

 私はすぐにスミカさんに言った。


「まずはシキネとクロワと合流しようか」


「そうね! そうしましょう!」


 スミカさんは勢いよくうなずいて、自宅を動かした。

 と言っても、まずは目の前にそびえる崖を越えないといけない。


 まあ、これは超ジャンプ1回で問題解決だね。

 崖の3倍くらいの高さまでジャンプして、自宅は暗い大地に足をついた。


 魔王城の足元、マモノが敷き詰められた広場を、シェフィーは眺める。


「これは魔王城を囲む壁——あっ、危ないです!」


「おっとっと」


 突如として飛んできたマモノの群れを、自宅はひょいと避けた。


 飛んできたマモノは、別に自宅を攻撃しようとしたわけじゃない。

 彼らはシキネに吹き飛ばされただけ。

 つまり私たちは、シキネにマモノを投げつけられたということ。


 私はため息をついちゃう。


「見境なしだね」


「しばらくシキネには近づけないな」


 ということで、私たちは近場のマモノ退治を開始する。

 少しして、ミィアが外を指さした。


「クロワが来たよ〜!」


 ミィアの言う通り、クロワは勇者らしく堂々と戦場を歩き、自宅の前までやってきた。

 自宅の前までやってきて、クロワは言い放つ。


「シキネが気づくまで、スミカにはちょっと待ってほしいんじゃい」


「分かったわ」


 どうやらシキネは、まだ私たちに気づいてないらしい。

 スミカさんはマモノ退治をしながら、大人しくシキネの反応を待った。


 反応を待つ間、暇な私とシェフィーはシキネを観察する。

 今のシキネは、ヤミノ世界してんのーの1人であるアツイを振り回して戦っている最中だ。


「あんな武器みたいに振り回されて、アツイさんは大丈夫なんでしょうか?」


「う〜ん、どうなんだろう。ちょっと楽しそうだけどね」


「はい、アツイさんはずっと笑顔ですよね」


 そこが不思議なんだよ。

 足を掴まれて、炎を吐く武器みたいに振り回されてるアツイは、でも太陽みたいな笑顔。

 アツイのよく分からない感情に、私とシェフィーは首をかしげちゃう。


 そうしているうち、ついにシキネが私たちに気がついた。


「お? おお? ジュウの勇者!? お前らも魔王城に来たのか!?」


——当然だよね。


 言いたいことはいろいろあるけど、人見知りだから言えない。

 何も言えないでいると、シキネはまくし立てた。


「よし! ここで会ったが100万円! アタシと勝負だ! 勝負の内容は、どっちが多くのマモノを倒したかだ!」


「はぁ……シキネはホントにブレないね」


 むしろ、もうちょっとブレてほしいくらいだよ。

 私たちがシキネに勝負を仕掛けられている間、サムイはヤミノ世界してんのーの1人であるアツイに声をかけた。


「アツイ、大丈夫?」


「その声はサムイなのだ! わたしは大丈——ぶええええええええ!!!」


 ぷにっとした明るい笑顔がかわいいアツイの言葉は、さっそくマモノ退治を再開したシキネに振り回され、途切れちゃった。


 数十秒後、アツイはシキネに投げ飛ばされる。

 凄まじい勢いで宙を舞い、たくさんのマモノを巻き込み撃破して、アツイは地面に落ちた。


「ぼべは!」


「アツイ、大丈夫には見えない」


「そんなことないのだ! シキネに振り回されるのは楽しいのだ! 何より、マモノがたくさん倒せて最高——うええええええええええ!!!」


 すぐにシキネに拾われて、また振り回されて。

 どう見てもひどい光景だけど、やっぱりシキネとアツイは楽しそう。


「ぐげぼ!」


「おいアツイ! 次はあいつらを倒すぞ!」


「了解したのだ!」


「アハハ! アツイと一緒に戦うの、楽しいな!」


「わたしも楽し——いええええええええ!!!」


 全体的にめちゃくちゃだけど、2人の勢いはすごいの一言。

 シキネの腕力にアツイの炎攻撃が合わさって、もう誰も2人に近づけない。


 そんな2人を見て、クロワはおかしそうに笑う。


「シキネとアツイ、相性バッチリなんじゃい」


「どういう相性なんだろ、あれ……」


 よく分からないけど、でも、たしかにクロワの言っていることは正しいのかも。

 ぽかんとしていたシェフィーは、どこか納得した様子だった。


「ミィア様のおっしゃる通りでしたね」


「う〜ん? なんのこと〜?」


「あれはミィア様のおっしゃった、新しい友達のかたちなんでしょう」


「おお〜! そっかそっか〜!」


「斬新すぎて理解できませんけど」


 新しい惑星を探すみたいに遠い目をしたシェフィー。

 たぶん私も同じ目をしてるかも。


 マモノを吹き飛ばすシキネは、スミカさんを見据えて叫んだ。


「おいジュウの勇者! 魔王城に突撃だ!」


「分かったわ! 一緒に突撃ね!」


 勝負はどこに行ったんだろう。

 スミカさんとシキネは、仲良く魔王城へと向かった。

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