第4話 はじめましての距離じゃないよ

 イショーさんは戦い方もスティールマンと同じだった。

 足に装備したジェットで海中を自由自在に移動し、手の平からオレンジ色のビームを放つ。


 もちろん、その強さもスティールマンと同じ。

 ビームに焼かれたマモノたちは次々と紫の煙に姿を変え、消えていく。


 そうして出来上がった道を、潜水自宅が慎重に進んでいった。


「すごいわ! イショーちゃんのおかげで、苦労なく海底神殿を進めてる!」


「やはり勇者の力は凄まじいなぁ」


 感心するばかりのスミカさんとルフナ。


 しばらく神殿内を移動すれば、私たちは広間にやってきた。

 広間の入り口には、自宅のバリアとそっくりな光の幕が張ってある。


「これ、マモノを寄せ付けない結界魔法です! これだけ強い結界魔法、このおウチのシールド以外で目にするのははじめてです!」


 魔法への興味が爆発して、シェフィーは目をキラキラさせていた。

 光の幕をくぐり結界の中に入ると、自宅はどしゃりと床の上に落ちる。


「おっとっと! びっくりしたわ!」


「結界の中、水がないよ〜!」


 ミィアの言う通り、結界の中は水のない空間になっていた。


 自宅はすぐに潜水モードをやめて脚を生やし、床の上に立ち上がる。

 マモノたちは結界の中には入れず、広間の入り口から私たちを睨むのが精一杯。


 私はソファにどっしりと座り、ホッと一息ついた。


「ふ〜、助かった……」


 一方のルリとまおーちゃんは窓を開ける。

 すると、テラスにパワードスーツ姿のイショーさんが降り立った。


「ちょっと待ってて、すぐ着替えるから」


 落ち着いたイショーさんの声と同時、パワードスーツは光に包まれる。


 光が収まると、セミロングの髪につばの広いハットをかぶった、ちょっと濃いめのお化粧でイタズラっぽく笑う、オシャレな格好の女性がテラスに立っていた。

 同い年くらいのこの女性こそ、パワードスーツを着ていたイショーさん、イの勇者だ。


 イショーさんは着替え終えるなり、ルリに抱きつく。


「2人とも、ただいま」


「イショーおねえちゃん!」


「……元気そうで、良かった……」


「フッフーン、ルリったら、寂しかったよ〜って顔してるっ」


「……当たり前……」


 うつむくルリ。

 そんなルリの頬に手を当てたイショーさんは、顔をグッと近づけた。

 2人の唇は今にも触れてしまいそう。


「……ダメ、まおーちゃんが、見てる……」


「分かってるって、続きは後でね」


 なんだろう、すごく大人な雰囲気が漂う会話だよ。


 イタズラっぽい笑みを優しい笑みに変えたイショーさんは、ルリから離れることなく、今度はまおーちゃんを抱っこした。


「まおーちゃんはいい子にしてた?」


「うん!」


「さっすがまおーちゃん!」


 そしてギュッとまおーちゃんを抱きしめるイショーさん。

 3人とも再会できたことが本当に嬉しいみたいで、いつまでもそうして抱き合っていた。


 少しして、ついにイショーさんの興味が私たちに移ったらしい。


「あなたたちがジュウの勇者一行ね。移動要塞と氷の女王のウワサは聞いてる」


「はじめまして、イショーちゃん。私の名前はスミカ=ホームで——」


「待って、みんな水着なのに、私だけ普段着っていうのも寂しい」


 口を尖らせたイショーさんは、次の瞬間には水着姿に。

 極端に布の少ないマイクロビキニ姿のイショーさんは、ちょっと目のやり場に困る。


 スミカさんは普段通り、優しい声で自己紹介をはじめた。


「あらためまして、私の名前はスミカ=ホームよ。本体はこのおウチで、今の人間の姿は仮の姿——」


 そうして続く自己紹介タイム。

 私たちの紹介が終わると、イショーさんは腰に手を当て言った。


「みんな、よろしく。私はイショー=アパレル、イの勇者。私もスミカさんと同じで衣装が本体、この人間の姿は仮の姿なの」


 となると、ほとんど布のないマイクロビキニがイショーさんの本体ってことになるね。

 イの勇者が、ほとんど布をまとってないなんて、どういうこと?


 至極単純な疑問を浮かべていると、イショーさんは私に微笑みかけた。

 そしてイショーさんは、顔をグッと近づけてくる。


「どうしたの? 私の体が気になるの?」


「え? あ、いや、あの、えっと——」


「シェフィーちゃんもユラさんと同じ顔してる」


「はわ!? えっと、あの——」


「じゃあ2人には、じっくり〝自己紹介〟してあ・げ・る」


「はわわわわわ」

「あばばばばば」


 パレオから出た私の足と、緊張したシェフィーの足に触れ、耳元でささやくイショーさんに、私たちは焦りに焦った。

 甘い匂いと吐息に、私の顔は熱くなるばかり。

 私たち、これからどうなっちゃうの?


 胸のドキドキを抑えるのに必死になっていると、ミィアがイショーの脇腹を突いた


「えい!」


「はうっ!」


「イタズラはそこまでだよ〜!」


「フッフーン、ごめんなさい。ユラさんとシェフィーちゃん、反応が面白くて、つい」


 イタズラっぽく笑ったまま、イショーさんは私とシェフィーから離れた。

 どうやら私たち、百合が咲く前にミィアに助けられたらしい。


 にしても、なんでミィアはイショーさんの大人な雰囲気に呑まれないんだろう。

 王女様補正なのか、それとも隠れ小悪魔属性があるのか。


 イショーさんはミィアをじっと眺め、そのミィアが駆け寄ったルフナにド直球の質問を投げかけた。


「ところでルフナさんは、私の体に興味なし?」


 これに対して、ルフナはクールな表情をし、答えた。


「当たり前だ。私はナイトだぞ。ミィア以外の誘惑に屈しはしない」


「それはナイト関係あるんでしょうか!?」


「一途な恋心——いい! それに、ミィアちゃんがお相手なら納得!」


 なぜかイショーさんは納得してるけど、私はシェフィーのツッコミに同意だよ。

 もう、なんかいろいろ分からなくなってきた。


 分からなくなったところで、イショーさんが口を開く。


「ルリが妬いちゃうし、イタズラはここまで。ちょっと真面目な話をしましょうか」


 そうしてイショーさんは、淡々と説明をはじめた。


「私が何をしていたかは、みんな知ってるはず。だから簡単な戦況報告を。メトフィアの部下である『ギョニン』は、ゾクゾクするほどのマモノを従えて、この海底神殿のありとあらゆるところに布陣してる。ただし転移魔法陣の結界は破れてないから、まだ私たちは負けてない」


 強い自信に裏づけされた言葉は、途切れることなく続く。


「私はギョニンを倒すため、この数日間ずっと頑張ってたのだけど、ちょっと敵が多すぎた。勝てないとは思わなかったけど、危ないかもとは思っていた。そんな中に現れたのが、あなたたち。2人の勇者が揃えば、これはもう勝ったも同然」


 じっとスミカさんを見つめたイショーさん。

 見つめられたスミカさんは、優しい笑みを返す。

 優しい笑みに安心した様子のイショーさんは、続けてルリとまおーちゃんに言った。


「スミカさんたちを連れてきてくれて、ありがと」


「イショーおねえちゃんのためだもん! まおー、がんばる!」


「……もう、置いてけぼりに、しないでね……まおーちゃんも、悲しむ、から……」


 寂しそうな顔をして、ルリはイショーさんの手を強く握った。

 やっぱりあの2人、友達以上の関係なのかな。


 まおーちゃんは元気を取り戻し、2人によく懐いてる。

 となれば、ルリたちは仲良し3人家族ということになるね。

 うん、家族がバラバラになるのは悲しいことだから、3人が再会できて本当に良かったよ。

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