第5話 緊急ミッション! 転移魔法陣を守れ!

 私たちは話し合った。

 もちろん、転移魔法陣をどう守るかについてをだ。

 結果、もっとも確実な防衛方法は、ギョニンもろともマモノたちを殲滅することだという答えにたどり着く。


 やることは決まり、作戦も決まれば、いよいよ行動開始。

 自宅は、別行動中のルリとイショーを除く私たちを乗せて、三角な神殿の奥に向かった。


「イショーちゃんの案内では、たしか次の通路を右よね」


「三角な神殿、迷路みた〜い!」


 やけにのんきなスミカさんとミィア。

 他方、外の様子を監視していたルフナがつぶやく。


「マモノたち、もう私たちを包囲したのか」


 早くも自宅はマモノたちに囲まれちゃったらしい。


 まあ、これは作戦のうち。

 スミカさんはのんきなまま、シールドを攻撃するマモノたちを引き連れ先を急ぐ。


 狭い通路を進んでいくと、今までで一番に広い空間が目の前に現れた。

 自宅が自由自在に泳ぎ回れるくらいの広間。

 シェフィーは辺りを見渡す。


「ここが儀式の間ですね。2000年前に大魔導師さんが仕掛けた転移魔法陣は——ありました! 広間の真ん中、結界に守られています!」


 その言葉を聞いて、私もゲームをしながら、ちらりと外の様子を眺めた。

 するとたしかに、広間の真ん中に青白い箱状の結界が張ってある。

 結界の中には、複雑な模様の魔法陣がほのかに光っていた。


「あれが防衛対象だね。絶対に守り通そう」


「……あの、ユラさん」


「なに?」


「どうして完全ゲームタイムになっちゃったんですか!? 意識のほとんど、テレビゲームに集中してますよ! コントローラーを握って、アイテム欄を整理しながら、防衛対象を絶対に守り通そうって言われても、説得力皆無です!」


「いやさ、私が戦えるのはゲームの中だけだから」


「意味がよく分からないです!」


 一通りツッコミを入れて満足したのかな。

 それ以上、シェフィーが私にツッコミを入れることはなかった。


 私は構わず次の中ボスとの戦闘準備を終わらせる。

 同じタイミングでスミカさんも戦闘準備を終わらせたらしい。


「さあ、戦闘開始よ!」


 大量のマモノを引き連れていた自宅は、スキル『水中射撃』を発動、ガトリング砲と魚雷数本を撃ち放った。

 この広間なら、少しぐらい暴れたところで神殿を壊すことはない。


 海中を悠々と進む自宅から派手に撃ち出された弾丸と魚雷数本は、シールドに群がるマモノたちに襲い掛かる。

 魚雷が命中すると、水の中には一瞬だけ炎が浮かび、衝撃派が辺りを駆け巡った。

 そして、攻撃を受けたマモノたちは紫の煙となって消えていく。


「やったわ! 命中!」


「水中でも戦えています! さすがスミカさんです!」


「さあ、どんどん行くわよ!」


 ちょっとだけテンションを上げたスミカさんは、海中を舞うように攻撃を続けた。


 一方のテレビ画面では、私の操作するキャラが暴走した古代兵器との激闘を繰り広げていた。

 殴打とビームを交互に放つ古代兵器に対し、こちらはスピードを活かして対抗する。

 私の隣に座るミィアは、まおーちゃんを抱っこしながら私を応援してくれた。


「いけいけユラユラ師匠〜! がんばれがんばれユラユラ師匠〜!」


「ここで一気に距離を詰めて、溜めておいた必殺技を——」


「当たった! 大ダメージだよ〜!」


「第一形態はこれで終わりかな」


 神殿での戦いと同じく、ゲーム内での戦いも順調だ。


 第二形態移行の隙に外を見れば、大量のマモノを倒した自宅は結界の中に逃げ込んでいた。


 結界はマモノの攻撃は通さないけれど、こちらの攻撃はすり抜けるらしい。

 転移魔法陣の前で、自宅は結界の外に弾丸とミサイルをばら撒く。


 加えてルフナとシェフィーもテラスに出た。


「不死鳥の剣! 今こそ暴れろ!」


「氷魔法でマモノの動きを鈍らせます!」


 威勢のいい掛け声とともに、テラスから炎の柱と氷の柱が飛び出す。


 炎の柱は結界の外でマモノごと水を蒸発させた。

 氷の柱は水や水蒸気を一瞬で凍らせ、生き残ったマモノたちを動けなくさせた。

 動けないマモノは、自宅から放たれた弾丸に貫かれていく。


「いいわね! 私たち、抜群の連携がとれてるわ!」


「はい! でも、マモノの数が減りませんね……」


「神殿中のマモノがこっちに集まっているんだろう。ということは、そろそろ——」


 ここまで作戦通り。

 そして、ここからも作戦通り。


 私たちを倒そうと結界に張り付いていたマモノたちが、突如としてビームに裂かれた。

 紫の煙の向こうに見えたのは、海中に浮かぶパワードスーツ。


「来ました! ルリさんとイショーさんです!」


 本命の登場だね。

 実は自宅は囮で、囮に気を取られたマモノたちをルリとイショーさんが殲滅するのが今回の作戦。

 その作戦通り、ルリとイショーさんはマモノたちに攻撃を仕掛けたんだ。


 2人は稲妻をまとった青いビームで、次々とマモノたちを倒していく。

 スミカさんは2人の戦いを眺めて驚いていた。


「イショーちゃんを〝着た〟ルリちゃん、強いわね!」


 そう、実は今、パワードスーツ状態のイショーさんをルリが〝着て〟戦っている。

 どういう仕掛けかは知らないけど、ルリがイショーさんを〝着る〟ことで、勇者パワーが増強されるらしい。

 まあ、家が動いて戦っているんだから、そのくらいの謎パワーがあってもおかしくないよね。


 ジュウの勇者とイの勇者が揃って、もうマモノたちは大混乱。

 神殿の広間、結界の周りは、海に溶ける紫の煙でいっぱいだった。


「この調子なら、マモノの殲滅もすぐに終わりそうだわ!」


「ああ。それに、不死鳥の剣も暴れ回れて満足そうだ」


「ルリさんとイショーさんとの共闘、想像以上に強力です!」


「ルリ、イショーおねえちゃん、がんばって!」


「もうすぐだよ〜! もうすぐで敵のHPが3分の1になる〜!」


「いいや、まだ油断はできない。第二形態を倒しても、最終形態が残ってる」


「なんだかユラさんとミィア様だけ見ている世界が違う気がします!」


 思いっきりツッコミを入れるシェフィー。

 ところが、あながち私の言葉は状況に合っていたらしい。


 混乱を極めていたマモノたちは、突如として統制の執れた動きで一箇所に集まる。

 マモノたちを的確に動かしたのは、広間にやってきた、上半身が魚で下半身が青いパンツを履いた人間のマジュー。


 スミカさんは息を呑む。


「あら、マモノたちの本命、来ちゃったみたいね」


「あれがギョニンですか……!」


 メトフィアの部下で、転移魔法陣を狙う、海底神殿の中ボスだね。

 災害扱いのマモノと違って、ギョニンはまおーちゃんと同じ『ヤミノ世界』からやってきた、れっきとした生物であるマジュー。

 ここからは少し厳しい戦いになるかもしれない。


 ちなみにゲームの中ボスも最終形態に移行し、こっちも難しい戦いになりそうだよ。

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