第3話 ジュウの勇者とイの勇者
自宅は水中でも時速35キロで移動できる。
これにスキル『水中速度アップ・レベル3』と『カジキ気分』の効果を合わせれば、瞬間的には時速80キロでの移動も可能に。
おかげで三角な神殿に到着するのはあっという間だった。
目前にそびえる巨大な神殿を見上げて、私たちは表情を強張らせる。
「神殿自体は大きいけど、自宅が通れそうな通路は少ないかもね。あっても、すごく狭いかもしれない」
「水の中だと炎魔法や炎攻撃が使えません。ルフナさん、不死鳥の剣は活躍できますか?」
「こいつがフルパワーを出せば、水なんて蒸発させるから問題ないだろうなぁ。ただ、それを狭い通路でやれば、私たちも危ないし、イの勇者を巻き込むかもしれない」
「う〜ん、じゃあ戦力にカウントするのは難しいかな……」
意外と難しい戦場を前に、私たちは頭を悩ませる。
一方のミィアとスミカさんは楽観的だった。
「ねえねえルリ! イショーちゃんって、すごく強いんでしょ〜?」
「……うん、とっても……」
「なら大丈夫だよ! とっても強いスミカお姉ちゃん、とっても強いルフナ、とっても強いイショーちゃん、とっても頼りになるユラユラがいれば大丈夫!」
「フフフ、そう言われると、なんだか大丈夫な気がしてきたわ。私たち、ユラちゃんの心と繋がった最強のシールドにも守られているしね」
たしかに、2人の言う通りな気もする。
うん、いくら悩んでも答えは出そうにないし、突っ込むしかないのかもしれない。
当たっても砕けないこの家なら、多少の無理も問題ないだろうし。
「今は泣いて馬謖を切るときかもね」
「……ユラ、それ意味が違う、気がする……街亭は関係、ない……」
「よし! イショーさんも待ってるだろうし、行っちゃおう!」
「フフフ、それじゃあ、神殿に突撃よ!」
これといった作戦も立てず、自宅は神殿内に踏み込んでいった。
神殿の内部は、2000年も海の底にあっただけあってボロボロ。
装飾みたいなのは完全に剥げていて、壁や柱は海藻とフジツボ、ヒトデでいっぱいだ。
石造りじゃなかったら、この神殿はとっくの昔に崩れていたかもしれない。
通路の広さは想像通り。
唯一自宅が通れそうなメイン通路ですら、家の出っ張った部分がぶつかるくらいギリギリ。
「まずいね。自宅が通れる通路がほとんどないよ」
「自宅が通れる通路がほとんどないのが普通だと思います」
いつものようにシェフィーにツッコミを入れられたけど、いつものように知らない。
狭い通路を慎重に進んでいくうち、スミカさんの表情が曇った。
「あら、ちょっと大変なことになっちゃったかもしれないわ」
「どうかしたの?」
「レーダーが真っ赤なのよ。私たち、いつの間に囲まれちゃったみたい」
「ええ!?」
いくらなんでも突然すぎる。
三角な神殿を外から眺めたとき、マモノらしい姿はどこにもなかった。
それなのに、いつの間にマモノに囲まれたということは——
「まさか私たち、メトフィアの部下の罠にハマった?」
「罠!? ど、どういうことですか!?」
「きっとメトフィアの部下とマモノたちは、もう三角な神殿に到着してたんだよ。それで、私たちが近づいてくるのを先に察知した。三角な神殿につながる道はさっきの洞窟だけだから、監視もしやすいだろうしね」
「なるほど、私たちを先に見つけ、広い場所での戦闘は不利と判断、狭い場所に誘導したということだな」
「ルフナの言う通りだと思う」
「……メトフィアの部下、優秀……」
今までマモノなんて敵じゃなかったから、油断しすぎたのかもしれない。
これはちょっとまずい状況だ。
スミカさんは焦ったように叫ぶ。
「動き出したわ! マモノさんたち、一斉に襲いかかってくるみたいよ!」
「げ、迎撃しないとですね!」
「待って! この狭い場所で派手に暴れたら、たぶん神殿が崩れる!」
「今はユラの言葉が正しい!」
「そんな……」
「シールドで耐えるしかない、ってことかしらね」
覚悟を決めたのか、スミカさんは一切の抵抗をやめた。
自宅は狭い通路に鎮座し、マモノの接近を待ち構えるだけ。
数秒もすれば、通路の先に大量の赤い光が浮き上がった。
サメやイカ、ウミヘビのような海系のマモノたちが、一斉に襲いかかってきたんだ。
もちろんマモノたちはシールドにぶつかり、自宅に触れることはできない。
ただ、こちらも手が出せないから、自宅はマモノに囲まれたままに。
状況が好転しない戦場を眺め、王女様の余裕を見せつけるミィアは言う。
「どうするの〜? 撤退する〜?」
「それが最適解かな。でも、イショーさんを見捨てるわけには——」
これ以上、まおーちゃんに残念な思いをさせたくない。
どうせシールドがあるんだから、無理やりイショーさん探しを続けちゃおうか。
いろいろ考え、でも答えが出ないでいると、またもスミカさんが声を張り上げた。
「大変よ! レーダーにまた新しい反応があったわ! それも、今までより速いのよ!」
そんな言葉の直後、マモノの群れの隙間からまばゆい光が輝く。
光は明らかに、ものすごい勢いで私たちに近づいていた。
もしやマモノたちのボスの登場か。
思わず私たちは身構えたけれど、どうにも様子がおかしい。
まばゆい光からはオレンジ色のビームが撃ち出され、マモノたちを切り刻んでいた。
ここでスミカさんが気づく。
「あら? この反応、赤色反応じゃなくて、青色反応だわ」
「ということは、味方ですね!」
「イショーおねえちゃんだ!」
まおーちゃんがそう叫ぶと、自宅の目の前に、パワードスーツを着た人物が現れた。
そのパワードスーツを着た人物こそ、まばゆい光の正体であり、私たちが探していたイショーさんだ。
空を飛ぶように海中に浮かんだ、ロボットのようなイショーさんを見て、私は驚く。
「ス、スティールマン!?」
「おお〜! ユラユラの世界の映画に出てきたヒーローだ〜!」
あの最強ヒーロが現れたんだから、もう大丈夫。
そんな謎の安心感を持った私たちに対し、外にいるイショーさんは手招きした。
手招きしたのと同時に、ビームでマモノたちを退け、道を切り開く。
まおーちゃんはスミカさんに伝えた。
「イショーおねえちゃん、ついてきてっていってる」
「分かったわ」
マモノを蹴散らすイショーさんを追って、自宅も動き出す。
ついにジュウの勇者とイの勇者が出会ったんだ。
ちょっとしたマモノの包囲ぐらい、簡単に突破できちゃうよね。
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