16けんめ はじめてダンジョンに潜ってみる話

第1話 ダンジョン!? ダンジョンって言った!?

 あくびをしながら、私はパソコンの前へ。

 時計の針は、昼の12時30分を指している。

 起きたばかりだけど、リビングに行く前に、オンラインゲームでいい素材が売っていないかだけは確認しないとね。


「あ、魔法の盾が売ってる。ちょっと高いけど、進化素材だから買っておこう」


 買い物を済ませれば、次はソシャゲの遠征確認だ。

 遠征から帰ってきたキャラたちの活躍を見て、私は満足。


 そしてようやく私はリビングに向かう。

 リビングでは、ミードンが元気に飛び跳ねていた。


「あ、荷物届いてたんだ」


「ユラさん、こんにちは。荷物はそこにありますよ」


「アニメのブルーレイボックス特典付き……これを待ってた!」


 箱を開けて、届いた荷物に心を踊らせる。


 背後では、ミードンが尻尾をフリフリしながら、モッチュのぬいぐるみで遊んでいた。

 それをとろけた笑みで見つめるのは、シェフィーとミィアだ。


 ルフナは必死でミィアの姿を撮影中。もちろん下着姿で。


 どこからともなく現れたスミカさんは、私に紅茶を差し出しながら言った。


「お昼、できてるわよ」


「ありがと」


「今日のお昼は、ミードンちゃんが届けてくれたフライパンで作ったの。新しいフライパンで作るお料理は、なんだか新鮮ね」


 にこにこスミカさんは幸せそう。


 なんだか、すごくいつも通りの朝――じゃなく昼だよ。

 お昼ご飯のパエリアも美味しいし、このままダラダラと過ごしたいかも。

 よし、今日はせっかく届いたアニメを一気見しよう。


 と思った矢先のことだった。

 テラスに2人の女の子が登ってくる。


「ククク、ククハハハハ! 闇が光を凌駕する時が来た! ここを開けよ!」


「こんにちは、なのです」


 魔法学校からの帰りなのか、カバンを持ったシュゼとチルの登場だ。


 窓を開ければ、2人はどしどしとリビングの中にやってくる。

 ソファにちょこんと座った2人に、私は尋ねた。


「学校は? 早退?」


「太陽が空の頂点に達した時、この私の力はそれに反発し強大になる。それを魔法学校が恐れたのだ」


「ああ、午前授業で終わりだったんだね」


「シュゼの言葉を一瞬で理解したんですか!?」


「氷の女王は特殊な能力の持ち主なのです」


 やけにシェフィーとチルが驚いている。


 シュゼは、なぜかじっと私を見つめはじめた。

 一切目を離さず、たまにまばたきをするだけで、徐々に近づいてくるシュゼ。


 あんまり近づいてくるから、私は数歩後退り。

 後退りしても距離は縮み、ついに私は壁際に追い込まれちゃう。


「ど、どど、どうしたの?」


 聞いたところで答えは無言。

 困った私は、目を逸らすことしかできなかった。


 その時、ちらりと何かが光ったのが見えた。


 よく見ればそれは、シュゼが首にかけたネックレスの光だ。

 緑色に透き通った綺麗な石の飾りがついたネックレスは、以前にシュゼが私にくれたものと同じ。

 思いがけずお揃いのネックレスを見つけて、少しだけ頬が緩む。


 一方で、シュゼに迫られた謎の状況に触れることなく、ミィアとルフナが言った。


「ねえねえ! ミードン、お散歩したいって言ってるよ~!」


「ああ、そのようだな。ミードン、散歩に行きたいんだな」


「ふ~ん?」


「ほら、やっぱりお散歩行きたいって!」


「あの……今ミードン、首をかしげていたように見えたのですが……」


「首をかしげながら散歩に行きたいって言うこともあるだろ」


「あるでしょうか……?」


「よ~し! みんなでお散歩、行こうよ~! ほら、シェフィーも一緒に!」


「え? あ、はい! 分かりました……?」


「ふ~ん?」


 結局、最後まで首をかしげたままのミードンを連れて、みんなはお散歩に出かけちゃった。

 リビングに残されたのは、私とスミカさん、シュゼとチル。

 チルは窓の外を眺め、シェフィーたちが遠ざかるのを確認した。


「光の一行は去ったのです。これより魔王城はシュゼ様のものなのです」


「ククク……ククハハハハ! ハーハッハッハッハ!」


 いきなり立ち上がり、大笑いするシュゼ。

 本人は邪悪なつもりなんだけど、やっぱりかわいい。


 笑い終えたシュゼは、コートをひるがえし言葉を続けた。


「ようやく魔王城から光の一行を追い出すことに成功した。これで魔王城も影の存在だ」


「影の存在じゃない魔王城なんてないと思うけど」


「さあ魔王城スミカ、氷の女王ユラ、これよりはこの私の命令オーダーに従ってもらうぞ!」


「ええ、何でも命令してちょうだい!」


「ちょっとスミカさん!?」


「ククク、従順な魔王城め、良い覚悟ではないか! では最初の命令オーダーを下す! この私の頭を撫でろ」


「喜んで! さあ、いい子いい子~」


 にっこりと笑うスミカさんは、楽しそうにシュゼの頭を撫でた。

 シュゼはネコみたいに満足げな表情をしている。


 何これ。


 しばらくほんわか空間が続き、チルが口を挟んだ。


「シュゼ様、そろそろ本題を」


「ふむ、そうであるな」


 いかにも影の支配者みたいな尊大な表情で、でも頭を撫でられたままのシュゼ。

 彼女は私とスミカさんに対し、堂々と言い放った。


命令オーダーだ! この私を、『ひゅうどろダンジョン』に連れて行け!」


「ひゅうどろダンジョン……ダンジョン!」


 とてつもなく魅力的な単語が出てきたよ!

 ファンタジーのお約束単語が、ようやく出てきたよ!


 諸々分からないことばかりだけど、私は食い気味にシュゼの命令オーダーに答えた。


「任せてください! 私たちが、シャドウマスター様をダンジョンにお連れし、真の意味で世界を支配するための助太刀をいたしましょう!」


「ほお、良い返事だ。やはり氷の女王は、この私の共に相応しい」


「ありがたきお言葉です。ささ、早くダンジョンへ向かいましょう」


「では行くぞ! 戦場へ! ククク、ククハハハハ!」


 意気投合し、私とシュゼはハイタッチ。

 対照的に、チルとスミカさんは冷静沈着だった。


「勝手に話が進んじゃっているのです」


「まあ、2人が楽しそうだからいいじゃない。私もダンジョン、行ってみたいしね」


「仕方がないのです。ひゅうどろダンジョンの地図はこれなのです」


 ということで、突如として私たちのはじめてのダンジョン攻略がはじまる。

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