第5話 緊急、マモノ退治の授業

 スミカさんのよく分からないスキル紹介が終わりに差し掛かった頃。

 一瞬だけ地面が大きく揺れた。

 まるで地面から体を突き上げられたような揺れだ。


「うん? 直下型地震?」


「地震なんて珍しいですね。南の方では——」


「ど、どどど、どういうことだ!? 地面が揺れるなんて、信じられない!」


 あれれ、ルフナが珍しく動揺してるよ。


「もしかしてルフナ、地震は初体験だったり?」


「あ、ああ、生まれてはじめてだ。動くはずのない地面が揺れるなんて、地震とは恐ろしいものだな。どうしてユラとシェフィーは平然としていられるんだ?」


「元の世界じゃよくあったから。今のは震度3いくかいかないか、ってくらいだね」


「わたしは、実家がボロすぎて風でよく揺れたので、揺れには慣れてます」


「そうなのか……お前らは不思議なところでたくましいんだなぁ」


 予想外の褒められ方をされちゃった。


 なんにせよ、地震は一瞬のこと。

 特にこれといったことはない——と思っていたのだけど、スミカさんは授業を中断する。


「みんな、動かないでちょうだい! マモノを見つけたわ!」


 それは緊急事態だ。

 私はすぐにスミカさんに聞いた。


「レーダーに映った?」


「ええ、地震と同時にね。あっちの山から来るわ」


「じゃあさっきの地震もマモノと関係がありそうだね」


 となれば、マモノに詳しいナイトさんルフナに質問してみよう。


「ルフナ、地面を揺らすようなマモノって、どんなのがいる?」


「地面を叩くようなマモノはいくらでもいるが……あれほどの揺れとなると、もしかすれば山の中から飛び出してくる『サンミャク・イーター』かもしれないな。数十年に一度だけ目撃されるレジェンド級マモノだ」


「そんな危なそうなマモノが出てきたの!?」


「最近はマモノたちが異様なまでに活発だからな、可能性はある」


「このタイミングでレジェンド級が……」


 約100人の生徒さんたちを見て、私は不安に襲われる。

 一方のシェフィーは、正反対のことを口にした。


「いえ、むしろこのタイミングで良かったと思います」


「どういうこと?」


「レジェンド級マモノは勇者でないと倒すのが困難です。その勇者が、ここにいます」


 シェフィーはスミカさんをじっと見つめ、スミカさんは目を輝かせた。


「任せなさい! みんなは私が守るわ!」


 うん、たしかにその通りだ。

 ジュウの勇者がいれば、レジェンド級マモノなんて敵じゃないよね。


 ということで、生徒さんたちの保護はシェフィーに任せた。

 私とルフナは双眼鏡をのぞき、マモノを探す。


「いたぞ。あの大きさ、芋虫のような見た目、そして花柄……間違いなくサンミャク・イーターだな」


「こっちも見えた——って、思った以上に大きい! え? 山があの大きさだから、300メートルくらいあるよね!?」


「ああ、サンミャク・イーターは大物だ。街を5つほど破壊したという記録もあるくらいだ」


「とんでもないの来ちゃったよ! そのくせ花柄がちょっとかわいいよ!」


 山の上を這う、花柄の、巨大な芋虫サンミャク・イーター。

 あんなのが街を襲えばどうなるか、想像するだけでも鳥肌が立つ。

 早く退治しないと。


「ルフナ! 不死鳥の剣でサンミャク・イーターの動きを鈍らせて!」


「ああ、分かった!」


「スミカさんは榴弾砲を撃ちまくって!」


「了解だわ!」


 指示を聞いて、ルフナは不死鳥の剣から炎の柱を打ち出した。

 炎の柱はサンミャク・イーターの顔に直撃、狙い通りサンミャク・イーターの動きが鈍る。


 これに呼応して、ベランダから生えた榴弾砲が断続的に火を吹いた。


 あれだけ大きなマモノなら、ノーコンのスミカさんの攻撃だって当たる。

 爆音と衝撃を纏って飛び出した砲弾は、サンミャク・イーターの直上で破裂、大量の破片を突き刺した。


 着弾の音と一緒に届いたサンミャク・イーターの、思ったより甲高い呻き声を聞けば、それなりのダメージを与えられたみたい。


 でも——


「まだ動きが止まってない! どんどこ撃って! どんどこ!」


 さすがに300メートルのマモノを倒すのは一筋縄じゃいかなそうだ。

 スミカさんは榴弾砲をできる限りの速さで連射し、ルフナと不死鳥の剣も全力を出す。


 幸いなことに、サンミャク・イーターは遠距離攻撃ができない。

 だから、榴弾と炎の柱が一方的にサンミャク・イーターを襲い続けた。


 それでも動きを止めないサンミャク・イーター、ヤバイ。


「こっちに近いづいてきたよ! どんどん近づいてくるよ!」


「大丈夫だ! 『景色のいい国』に到着する前に倒す!」


「かわいい生徒のみんなに、手出しはさせないわ!」


 炎と爆発と、爆音と衝撃波と、破片と呻き声と。

 普段じゃ絶対に見ることのない光景、聞くことのない音が辺りを覆っている。


 攻撃された場所から紫の霧を出すサンミャク・イーターは、だいぶ弱っているみたいだ。

 でも、もう隣の山まで迫っている。


「ここまで近いなら——」


 私はとっさにコントローラーを握り、新しいスキルを解放した。


「スミカさん! スキル『戦車砲』を解放した! それを使って!」


「ええと……このスキルね!」


 榴弾砲の砲身の隣に、戦車砲が生えてくる。


 戦車砲から飛び出した砲弾は、何発かは外れたけど、サンミャク・イーターの体内に食い込んだ。

 サンミャク・イーターは今までで一番大きな呻き声を上げる。

 どうやら、戦車砲の徹甲弾はダメージが大きいらしい。


「よし! 榴弾砲で外部を攻撃しながら、戦車砲で内部を攻撃しよう!」


 これならいけると、私は確信した。


 榴弾砲と戦車砲が大量の砲弾をばら撒き、硝煙臭さが鼻をつく。

 途中からはガトリング砲の攻撃も追加だ。


 一軒陸軍状態のスミカさんは、それはもうバカスカと砲弾を撃ちまくった。

 そして、サンミャク・イーターはバカスカと砲弾を食らい、ついに動きを止めた。


 動きを止めたサンミャク・イーターは、霧となり消えていく。

 さっきまで300メートルのマモノがいた尾根に残るのは、雪がはぎ取られた跡だけ。


「倒した——?」


「倒したのかしら——?」


「さすがジュウの勇者だ! 私たちの勝ちだぞ!」


「倒した——おお! 倒した!」


「やったわ! 私たちの勝利よ!」


 喜び、抱き合う私たち。

 窓の外からも歓声が上がった。


「あんなに大きなマモノを倒しちゃった!」


「すごい! 噂通りの移動要塞だ! すごいすごい!」


「まさかこれほどの力とはな。クク、ますます利用価値がある」


「想像以上の力なのです。勇者はすごいのです」


「あんなのはじめて見た! 今日見たこと、一生忘れない!」


 生徒さんたちのみんなも、伝説の勇者の戦いを目の当たりにして大興奮している。

 期せずしてスミカさんのすごさを紹介する授業になったみたいだね。


 こうして、大きなアクシデントはあったものの、なんだかんだで生徒さんたちは私たちの授業を楽しんでくれた。

 課外授業は大成功、かな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る