第4話 4時間目、ジュウの勇者の授業

 3時間目の授業は、後半はほぼ映画の観賞会と化した。

 最後は、雨の中で歌って踊る名シーンと共に授業を締めくくる。


 そこそこ授業が盛り上がって満足した私は、リビングに戻るなりソファに倒れ込んだ。


 あらゆる誤解を生み出した罪悪感に唐突に苛まれながら、私はスミカさんに視線を向ける。

 スミカさんは、4時間目が楽しみらしい。


「フフフ、ようやく私が先生になる番が来たわね。生徒のみんなが笑顔になってくれるのが待ち切れないわ」


「スミカさんの授業、私も楽しみです!」


「同感だ。ジュウの勇者はおとぎ話の存在、生徒のみんなも楽しみにしてるはずだしな」


「よし、私、張り切っちゃうわよ!」


 やる気満々のスミカさんは、授業がはじまる前にテラスに出る。

 一方の生徒さんたちも、ジュウの勇者の授業とあって、授業開始前にテラスの前に集まっていた。


 授業開始の時間がやってくれば、スミカさんはさっそく自己紹介をはじめる。


「はじめまして、私はスミカ=ホーム、女神様にお願いされて、ジュウの勇者として『ツギハギノ世界』にやってきたおウチよ。この姿は私の一部で、私の本体はこのおウチなの。みんな、よろしくお願いするわね」


「よ、よろしくお願いします!」


 今回は先生よりも生徒さんたちの方が緊張している。


 これまでとは逆パターンだけど、まあ、当然かな。

 だって勇者が目の前にいたら、誰だって緊張するもんね。


 でも、ジュウの勇者は優しいスミカさんだ。


「フフフ、かわいい生徒たちに囲まれて、なんだか幸せな気分だわ。もし家を出られたなら、みんなのことを撫でてあげたいくらいよ」


 頬に手を当て、そんなことを言い出すスミカさん。

 おかげで生徒さんたちの緊張が解けたみたい。


 生徒さんたちはみんな、イメージと違う勇者の優しい笑顔にほっとしている。

 ホント、スミカさんは女神様より女神様っぽいよ。


 さて、緊張が解ければ授業の開始だ。


「ところで、みんなは私のこと、どのくらい知ってるのかしら? 知ってることを教えてちょうだい」


「ジュウの勇者様はたくさんの魔法が使えるって聞きました!」


「すっごく強くて、移動要塞って呼ばれてる!」


「魔王城の如き奇怪な建物であるな」


「お布団がふかふかしてて、あったか〜い!」


「たくさんのマモノ相手にも、一軒で勝てちゃう!」


「強い!」


「あらまあ、シュゼちゃんやミィアちゃん以外のみんなも、けっこう私のことを知っていてくれているのね。嬉しいわ」


 ちょっと武闘派イメージに偏ってる気がしないでもないけどね。

 フフフと笑ったスミカさんは、授業の本題に入る。


「さっき、たくさんの魔法が使えるって言ってくれた子がいたわね。その通り、私はたくさんの技が使えるようになったわ。魔法じゃなくて、スキル? だけれどね」


 知らない単語の登場に、生徒さんたちの好奇心が爆発する。

 これにスミカさんはにっこり笑って、解説を続けた。


「スキルは、旅を続けていくうちに覚えていくものなの。今は何十個ものスキルを覚えたけど、覚えられるスキルはまだまだあるわ。原理はよく分からないのだけど、きっと女神様の力のおかげね」


 おとぎ話の世界が目の前にあることに、生徒さんたちはいよいよ体を乗り出した。


「フフ、みんなスキルを見るのが待ち切れないみたいね。じゃあ、さっそくスキル披露よ!」


 そしてスミカさんはテラスの床に座り、目をつぶる。

 と同時、自宅の四本足が六本足に変わった。


「これは『六足歩行』というスキルよ。荒地を歩くときに便利なスキルね」


 ただでさえ家から四本の脚が生えてるだけでも変なのに、二本の脚が追加されたんだ。

 自宅の中からじゃなく外からそれを見る生徒さんたちからすれば、変さ加減は強烈。

 みんな、驚いているんだか困惑してるんだか分からない微妙な顔をしている。


 でもスミカさんは楽しそうに次のスキルを発動した。


「今度は解放したばかりのスキル『痛いくらいまぶしい』よ! えい!」


 直後、自宅の電気という電気が輝きはじめた。

 そんじょそこらの普通の電球が、サートライトかと思うくらいに明るくなっている。

 自宅の中にいる私たちは、もう目を開けることもできないくらいまぶしいよ。


「次のスキルは『風通し抜群』ね!」


 すると、全部の窓がカーテンごと全開になり、自宅を冷たい空気が駆け巡った。

 寒い場所で発動するスキルじゃないよ、それ。


「よし、スキル『あとちょっとで無音』を発動するわ! よいしょ!」


 これは視覚的に分からないスキルなので、変化がよく分からない。


「続けてスキル『カニ気分』を発動するわ!」


 なんてことはない、これは自宅がただ左右に横移動するだけのスキルだ。

 ついにシェフィーがツッコミを入れる。


「このスキルに利用価値はあるんですか!?」


「ないと思う」


「女神様は何のつもりでこのスキルを用意したんですか!?」


「神のみぞ知る、かな」


 いまいち女神様の趣味が分からない。


 というか、スミカさんもなんで解放したばっかりの意味不明スキルを紹介してるんだろう。

 それも、ポイントが余ってたからテキトーに解放したスキルばっかり。

 もしやスミカさんは、使ったことないスキルを試してるだけだったりする?


 生徒さんたちも微妙な表情が張り付いちゃってるよ。 

 それなのに、なぜかスミカさんは満足げ。


「次はどんなスキルを紹介しようかしら? そうだわ! スキル『コンセント増やし』を紹介するわね!」


 また分かりにくいスキルだね。

 現代人には助かるスキルだけど、生徒さんたちには分からないんじゃ——


 と思っていたら、窓の外から生徒さんたちが消えた。

 代わりに真っ青な大空と、雄大な山脈が眼下に広がっている。


 これは、完全にあれだね。


「な、なな、なんで超ジャンプしたの!?」


「フフ、使うスキル、間違えちゃったわ」


 なんで笑っていられるの!?

 いつまで経ってもこの超ジャンプ、慣れないよ!

 特に地上に落ちる時が!


「わわわわわ! ユラさん!」

「わわわわわ! ルフナ!」


「よし、2人とも私に掴まってろ!」


 数百メートルを落ちる間、私とシェフィーは頼りになるナイトさんの腕に掴まっていた。

 すごい勢いで遠ざかる雲と、迫りくる地面に、私たちは恐怖のどん底へ。

 スタッと自宅が地面に着地すると、私たちはようやく一安心。


 一方で超ジャンプを見ていた生徒さんたちは、少しだけ呆然としてから、一斉に歓声を上げた。


「今までのスキルはよく分からなかったけど、今のはすごい!」


「勇者の力はこうじゃないとね!」


「きちんと勇者の力の授業だった! 住みやすい家の授業じゃなかった!」


 生徒さんたちの驚き方がちょっとおかしいけど、まあいいか。

 だってスミカさんが、すごく嬉しそうだから。


「フフフ、みんな私のスキルに驚いてくれたわ! みんなの驚いた顔が見られて、私とっても幸せよ!」


 やっぱりスミカさんは神様級の優しい家だね。

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