第5話 あり得たかもしれない世界

 魔法学校見学は、私の夢をひとつひとつ叶えていくような見学だった。


 杖を使った魔法の練習、魔法陣の描き方の授業、魔法の歴史の授業、魔法使い風の制服。

 憧れの、それなのにまったく知らない世界のオンパレードだ。


 今の私の心は、魔法学校にわしづかみにされている。


「いいなぁ、山の上の魔法学校、いいなぁ」


「ユラユラ〜、さっきから『いいなぁ』しか言ってな〜い」


「だって魔法学校、いいんだもん」


 私の語彙力はすでに死んでいる。

 代わりに妄想は広がるばかり。


「もし私が『ツギハギノ世界』に生まれて、2歳若くて、魔法が使えたら、シェフィーと一緒に魔法学校で過ごしてたんだろうなぁ。いいなぁ」


「でもそれだと、私がユラちゃんたちと出会えなくなっちゃうわね」


「じゃあ、スミカさんも『ツギハギノ世界』の家になればいいよ。そうすれば、スミカさんと一緒にいながら魔法学校に通える。いいなぁ」


「シェフィーは13歳で魔法学校を卒業するけどな」


「あ、そっか。なら、シェフィーの成績が下がるよう邪魔しないと」


「ユラさん!? さらっと怖いこと言わないでください!」


 手をバタバタさせて抗議するシェフィー。

 一方の私は、唐突なネガティブ思考に陥った。


「どうせ私は陰キャだからね、魔法学校でも成績は微妙で、二人組作るときは必ず余って、友達は一人もいなくて、シェフィーと仲良くなる前にシェフィーが学校を卒業しちゃうのがオチだよね……」


 いくら世界が変わったって、私は変わらない。

 私が変わらない限り、私にとって学校はトラウマ製造機のまま。


 そうやってネガティブに浸る私の手を、シェフィーは強く握ってくれた。


「悲しいことを言わないでください! わたしも人見知りですから、二人組を作るときは必ず余ってましたし、休み時間は話す人がいなかったから、学校中をプラプラ歩いていました! だから安心してください!」


「シェフィーもなかなか悲しいこと言ってるよ」


 とは言いながら、私はシェフィーが仲間なことに一安心している。

 シェフィーは私の手を握ったまま言葉を続けた。


「わたしもユラさんも同じ人見知りです。それに、もしユラさんが魔法を使えたら、とっても優秀な魔法使いさんになっていたと思います。だから、わたしたちは必ず仲良くなれたと思うんです。もしかしたら、一緒に13歳で魔法学校を卒業できたかもしれません」


 そうして、シェフィーは私をじっと見つめた。


「卒業後はわたしとユラさん、スミカさんの3人で『西の方の国』に行って、2人で見習い魔法使いになるんです。そこでミィア様やルフナさんと出会い、旅に出る。今と同じですよ」


 どんな世界線に生まれたって、私たちは今と変わらない毎日を過ごす。

 そんな優しいことを言うシェフィーに、私はもう泣きそうだよ。


 シェフィーの言葉を聞いて、みんなも楽しそうに笑った。


「えへへ〜、優秀な魔術師長候補が2人だったら、『西の方の国』の未来は安心だ〜」


「見習い魔法使いのユラか。あだ名は氷の女王で決まりだな」


「フフフ、どんな世界でも、私たちは一緒ね」


「みんな……」


 自宅に引きこもったままなのに、優しいみんなに会えて、私は幸せ者だね。


 私がネガティブを脱し笑顔を取り戻した頃、シュゼがシェフィーの服を掴んだ。


「宿敵女神よ、羊たちを指導せし者がやってきたぞ」


「あ、ホントです。伝えてくれてありがとう、シュゼ」


「クク、この程度、造作もない」


 お姉ちゃんに褒められたシュゼは、口調とは裏腹に満面の笑みを浮かべていた。


 シェフィーはテラスに出て、辺りを見渡す。

 すると、1人の女性の声がシェフィーに語りかけた。


「シェフィーさん、久しぶり」


「お、お久しぶりです! 先生!」


 ちょっと緊張気味にペコリとお辞儀するシェフィー。

 私も窓の外をちらりと覗いてみれば、そこには大きな魔法の杖を持った、背の高い女の人が立っている。

 ふむふむ、あの人がシェフィーの先生だった人なんだね。

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