第4話 学校のトイレはセーフゾーン
魔法研究所の見学を終えた自宅は、今は街のメイン通りを歩いてる。
スミカさんはソファの上で丸くなり、研究者たちに囲まれた恐怖に震えていた。
「火事以外にも、あんなに怖いことが世の中には存在するのね……」
「よしよし〜」
「フフ、ミィアちゃんは優しいわね」
フワッとミィアに撫でられ、そんなフワッとミィアを撫でるスミカさん。
なんやかんやでリビングは和やかだった。
しばらく街を歩くと、自宅は山の頂上付近に到着する。
ここでシェフィーは窓の前に立ち、一生懸命に声を張り上げた。
「さあ、見えてきましたよ! 次は『山の上の魔法学校』の見学です!」
またまたファンタジー感のある言葉が出てきたよ。
私はさっそく窓の外をのぞいてみた。
すると、そこには予想外の景色が。
山の頂上にあったのは、レンガ造りの建物たちと、帆をたたんだ大きな帆船。
思わず私は、見たものをそのまま口にしちゃう。
「大きい船が山の上に乗っかってる」
「あの船は、神話の時代にこの山に不時着したという伝説を持つ空飛ぶ魔法の船です。山の上の魔法学校は、数百年前にあの船で開設されました。学校の規模が大きくなった現在でも、山の上の魔法学校の教室として使われているんですよ」
「へ〜。船は今でも空飛べるの?」
「飛べるらしいですよ。飛んじゃうと生徒たちが困っちゃいますけど」
「たしかに」
空飛ぶ学校も、それはそれで見てみたいけどね。
船とレンガ造りの建物が並ぶ魔法学校は、夢にまで見た魔法学校の雰囲気そのまま。
魔法学校の広い校門を通り過ぎれば、異世界転移後で初の学校だ。
シェフィーが案内してくれる魔法学校見学は、とってもワクワクする。
けれども私は、ちょっとだけため息をついてしまった。
「はぁ……学校かぁ……」
「どうしましたか? 浮かない顔ですね?」
「学校には、嫌な思い出がいっぱいあるんだよね……」
「そうでしたか……ユラさんもいろんな苦労を——」
なんとなく事情を察してくれたシェフィーは、私の手を握ってくれる。
と同時、魔法学校のグラウンドに学校の生徒たちが並んでいるのが目に入った。
とんがり帽子をかぶり、魔法陣と魔法の杖を手にし、水魔法の練習をする生徒たちを見て、私は思わず叫ぶ。
「あ! 魔法の練習してる! すごい! 魔法学校すごい! この学校楽しい!」
「嫌な思い出と浮かない顔はどこへ!?」
入学初日の自己紹介で2分ぐらい沈黙したとか、休み時間はトイレで過ごす時間が一番長かったとか、そんなトラウマ知らない!
ここは魔法学校、夢のファンタジー世界なんだから!
みたいな感じで私のテンションは乱高下、シェフィーは困惑中。
そんな私たちの背後で、ルフナがシュゼとチルに話しかけている。下着姿で。
「お前たちもこの学校の生徒なのか?」
「いかにも」
「はいなのです」
「じゃあ、学校にいなくて大丈夫なのか?」
もっともな疑問。
これに対し、シュゼはコートのポッケに手を突っ込み、ニタリと笑って答えた。
「クク。天界は、世界をも破壊しかねないこの私の召喚魔法を恐れ、力を制御しようと企んでいる。ゆえに、この私が学校にいる必要がなくなったのだ」
「詠唱魔法の使い手である私も、シュゼ様と同じ理由で学校にいなくて大丈夫なのです」
2人の答えに、ルフナはぽかんとしている。
私はルフナのためにも、シュゼとチルに確認した。
「つまり、今日は召喚魔法と詠唱魔法の授業がないから、学校はお休みってことね」
「そういうことなのです」
どうやら正解だったみたい。
魔法学校は得意な魔法によって授業時間が異なるんだね。
ルフナは、フワッとミィアと一緒にポカンとしたままだった。
「ユラ、よくシュゼの言っていることが理解できたな」
「実はユラユラ〜、超能力者〜?」
「いやいや、なんとなく分かっただけだよ」
まあ、もしかしたら私は、シュゼの厨二ワールドに支配されはじめてるのかも。
興味深そうに魔法学校を眺めていたスミカさんは、シェフィーに尋ねた。
「シュゼちゃんとチルちゃんが魔法学校の生徒さんなら、シェフィーちゃんも魔法学校の生徒さんなのかしら?」
シュゼが12歳くらい、シェフィーが14歳くらい。
魔法学校では中学生くらいの子たちが魔法の勉強をしている。
ならスミカさんの言う通り、シェフィーが魔法学校の生徒でもおかしくはない。
とはいえシェフィーは『西の方の国』の見習い魔法使いだから、留学でもしてたのかな?
気になる答えは、シェフィーがすぐに教えてくれた。
「いえ、わたしは魔法学校の卒業生です」
うん? それっておかしくない?
「でもシェフィーって、まだ中学生くらいの歳だよね。卒業には早くない?」
素朴な私の疑問に、スミカさんも『うんうん』とうなずいていた。
対するシェフィーは一瞬だけ言葉に詰まり、その一瞬をシュゼが埋める。
「宿敵女神は、この私の宿敵となる人物。魔法学校など児戯に等しかったのだ」
「ええと……その……わたし、魔法学校を13歳で首席卒業した過去がありまして……」
ちょっと待って、なんかすごい答えが返ってきたよ。
「13歳で卒業!? まさかの飛び級!? しかも首席!?」
「あらまあ! シェフィーちゃんはエリートさんだったのね!」
「見習い魔法使いにしては若いと思っていたが、そういうことだったのか」
「おお〜、じゃあじゃあ、シェフィーが『西の方の国』の未来の魔術師長さん候補だったんだね〜」
意外というか、納得というか、ともかくすごすぎるシェフィーの経歴。
それにみんなが驚き、素直に褒め称えた。
おかげでシェフィーの顔が真っ赤に染まる。
極め付けはチルとシュゼの言葉だった。
「シェフィーさんは魔法学校の生徒たちの憧れなのです」
「お前らも、ようやく宿敵女神の実力を思い知ったか。ククク、ククハハハ!」
後輩と妹にまで褒められて、シェフィーの照れは限界に達したらしい。
シェフィーは顔を赤くしたまま、みんなの声をかき消すように大声で叫んだ。
「い、行きますよ! け、けけ、見学開始です!」
こうして、エリート照れ屋さんシェフィーによる母校見学がはじまる。
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