第6話 私、また何かやっちゃったかしら?

 恩師相手にも人見知りを発動したシェフィーは、それでも先生に尋ねた。


「ええと……その……どうしましたか?」


「明日の体験授業の件で、皆様方がどれほど魔法が使えるかを知っておきたいの。そのために簡単な魔法試験をしたいのだけど、大丈夫?」


「大丈夫だと思います」


 そして、シェフィーは少しだけ先生とヒソヒソ話をする。

 数分して、振り返ったシェフィーは私たちに言った。


「あの、いきなりで申し訳ないんですけど、みなさんにはこれから魔法試験をやってもらうことになりました。試験は簡単です。とりあえず炎を出せ、とのことです」


 本当にいきなりなお願いだよ。

 私たちはその場で顔を合わせ、真っ先にフワッとミィアと私が答えた。


「ミィアは魔法、使えな〜い」


「私も魔法は使えないよ」


 続けて不死鳥の剣を握ったルフナが答える。下着姿で。


「不死鳥の剣を使ってもいいのなら、炎を出すくらい簡単だぞ」


 なぜかルフナはミィアの方を見てそう言いのけた。


 一方、スミカさんは私の隣にやってきて、小声で聞いてくる。


「ユラちゃん、炎を出すスキルなんてあるのかしら?」


「ないとは思えないけど……確認してみよう」


 すぐに『おウチスキル』を起動し、大量に並ぶスキルを見ていく。

 女神様のアップデートが入ったのか、スキル表は少しだけ見やすくなっていた。

 おかげで、目的のスキルを見つけるのに時間はかからない。


「あった……のかな? 『スキル・炎ボボボー』だってさ」


「まあ! いかにも炎がボボボーってしそうなスキルだわね!」


「スキル、解放しちゃうよ」 


 さっそくスキルを解放。

 これで準備は完了、外にいる先生が声を張り上げる。


「では、魔法試験開始です!」


 最初に試験を受けるのはルフナだ。

 ルフナは鎧をテキトーに着てテラスに立ち、不死鳥の剣を掲げる。


「行け! 不死鳥の剣!」


 掛け声の直後、不死鳥の剣から炎が飛び出した。

 炎は龍みたいな動きで空に昇り、魔法学校の中庭に火の粉を散らす。


 先生は目を丸くした。


「なっ、なんてすごい……! さすがは羊の騎士団のナイトさんです!」


 ルフナの試験結果は高得点確定だね。


 次はスミカさんの番——だけど、その前に私は物置へ。

 物置から取り出したのは、お父さんがキャンプ用に買ったガスバーナー。


 ガスバーナー片手に、私はテラスに出た。


「ちなみに、これは魔法のうちに入るのかな?」


 私はおもむろにガスバーナーの火をつける。

 ファンタジーの欠片もなく吹き出す青い炎に、先生は興味津々。


「おお! その道具は、もしかして異世界の道具!?」


「え? あ、は、はい、そ、そうです」


「異世界の道具なんて、はじめて見ました!」


 前のめり気味の先生は、どことなく子供みたい。

 もしやこれ、私も試験結果は高得点確定だったり?


 そんなことより、今度こそスミカさんの番だ。

 自宅のベランダには、いつの間に火炎放射器みたいなのが生えてる。

 スミカさんはノリノリな様子。


「スキル・炎ボボボー、発動よ! えい!」


 次の瞬間、噴水のような炎が自宅から吹き出す。


 私たちは熱波に包まれ、『山の上の国』の寒さは消え去った。

 というか、今にも自宅と魔法学校を燃やしちゃいそうで、ちょっと怖いよ。


 火炎放射が終わると、腰を抜かした先生が声を震わせた。


「ほ、炎がボボボーって……! す、すす、すごすぎます! 勇者の力、恐れ入りました!」


 もはや教師というより、ただの野次馬な先生。

 シュゼたちはおかしそうに笑う。


「クク、羊たちを指導せし者も、魔王城スミカたちの力の前にひれ伏したか」


「先生が楽しそうなのです」


「あんなに目をキラキラさせた先生、はじめて見ました」


 生徒も卒業生も、今までに見たことのない教師の姿に感想を述べている。

 うんうん、なんだか知らないけどいい光景な気がするよ。


 さて、先生はパッと立ち上がり、声を張り上げた。


「決めました! 明日は皆様方に魔法学校の授業を体験してもらうつもりでしたが、変更します! 皆様方、明日は我が校の生徒たちに授業をしてあげてください! お願いします!」


 そして私たちに頭を下げる先生。

 どうやら私たち、生徒を飛び越えて教師になっちゃったらしい。

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