第4話 料理って性格が出るよね

 魔法陣制作勝負に負けたシキネは、次の勝負で頭がいっぱいらしい。


「2回戦は!? 2回戦は何をするんだ!?」


 数メートル離れた場所にいるとは思えないシキネの大声。


 これに反応したのはミィアとシェフィーだった。

 2人は息を合わせたみたいにシキネに伝える。


「ええとね、2回戦はね、お料理勝負だよ~!」


「スミカさんとルフナさん、シキネさんとクロワさんの2チームでそれぞれに料理を作って、その完成度を競う勝負です」


 私たちにはスミカさんがついているんだ。お料理勝負でシキネに負けるはずがない。


 今度ばかりはシキネも不利を悟ったらしい。

 彼女は数歩退き、地面に膝をついた。


「りょ、料理!? そ、そそ、そんな家庭的なこと……」


 なぜか顔を赤くしたシキネに、クロワは手を差し伸べる。


「料理ならウチに任せるんじゃい。ウチは食べ物が本体、料理には自信があるんじゃい」


「うおお! さすがクロワ! 共食いってことか!」


「その言い方はやめるんじゃい」


 クロワはちょっとだけ頬を膨らませた。

 リビングでは、やる気満々のスミカさんとルフナがキッチンへ向かう。 


「フフフ、お料理は得意中の得意、負けないわよ」


「あ、ああ、私も努力する……」


 珍しく緊張気味な様子のルフナに、スミカさんは優しく声を掛けた。


「どうしたのかしら? ルフナちゃん、お料理には自信ない?」


「本音を言うとな。私は小さい頃から剣術ばかりで、料理なんてやったことがなくて……」


「大丈夫、それで十分よ。ルフナちゃんの剣術は、お料理でも活躍できるわ」


 一体スミカさんはルフナに何をさせようとしているんだろう?

 キッチンに到着したスミカさんとルフナは、冷蔵庫から食材を引っ張り出した。


「ふむふむ、すごろく玉ねぎとレタスとトマトと――」


 顎に手を当てたスミカさんは、すぐに人さし指を立てた。

 あれは作る料理を決めたときの動作だ。

 すぐにスミカさんはルフナに指示を与える。


「さあルフナちゃん、トマトやレタスを私の言う通りに切ってちょうだい」


「ああ、任せてくれ」


 こうしてスミカさんとルフナの料理がはじまった。


 さて、一方のシキネとクロワのチームも料理をはじめる。


「お、おい! アタシは何をすればいいんだ!?」


「シキネは食材を捕まえてきてほしいんじゃい。魚でも獣でもなんでもいいんじゃい」


「よし! それならアタシでもできる! 行ってくるぞ!」


 料理の前に狩りをはじめた2人。

 早くも先行きが不安になってきた。


 数分後、キッチンからのどかな会話が聞こえてくる。


「これでいいのか?」


「そうそう、うまいわ。私の思った通り、ルフナちゃんは包丁さばきもうまいのね」


「ど、どうも」


「そうだわ! せっかくだし、果物も追加しちゃいましょう!」


 さらに何かを思いつき、スミカさんは冷蔵庫を開けた。


 私たちは、リビングのソファで料理の完成を待つ。


「ご飯まだかな~楽しみだな~」


「スミカさんとルフナは順調そうだね」


「はい。でもシキネさんとクロワさんは大丈夫でしょうか? シキネさんはどっか行っちゃいましたし、クロワさんは油たっぷりの鍋を焚き火で熱してるだけですし」


 ホント、あの2人は料理をする気があるのかどうかも分からない。


 なんて思っていると、森の奥からシキネが帰ってきた。

 シキネは1メートルぐらいの鳥らしきものを肩に担いでいる。


「見ろ! 狩ってきたぞ! そこら辺を飛んでたよく分からない鳥だ!」


「でかしたんじゃい。次は解体じゃい」


 バックパックから物騒な道具を取り出し、クロワは鳥の解体をはじめた。

 ファンタジー世界に来てはじめてのグロテスクな光景。

 溢れ出す臓物に、シェフィーの顔は真っ青だ。


「あわわわわ」


「ミィア、さすがにあれは見ない方がいい!」


 私はとっさにミィアの視界を遮った。

 自然の厳しさに怯える私たちの背後で、スミカさんとルフナは料理を続けている。


「うん、味付けもいい感じだわ」


「デザート、完成したぞ」


「あら! かわいくできたわね! ルフナちゃん、いい子いい子」


 頭を優しく撫でられたルフナは、不慣れに白い歯をのぞかせている。下着姿だけど。

 さてはて、しばらくして、のこぎりを持ったシキネが叫んだ。


「解体終わり! 次は!? 次はどうするんだ!?」


「よく分からない鳥に衣をまぶすんじゃい」


「分かった! うおりゃ! できた!」


「そうしたら、あの鍋によく分からない鳥を投入するんじゃい」


「よし! そりゃ!」


 宙を舞った衣付きの鶏肉は、勢い良く油の中に飛び込んだ。

 噴水みたいに飛び散った油には火がつき、凄まじい炎の柱が鍋を包み込む。

 シキネとクロワは、炎の柱を囲んで謎の雄叫び。


 リビングからそれを目撃した私たちは、勝手な感想を口にした。


「すごいすごい! 大爆発したよ! ワイルドだよ!」


「1回戦のときの炎魔法陣よりも派手な炎だね」


「あのお2人は、お料理じゃなくて生贄の儀式でもしているんでしょうか……」


 生贄の儀式勝負なら、間違いなくあの2人の勝ちだね。

 だけど、これはお料理勝負。


 数分後には両チーム共に料理を作り終える。


「これで完成よ」


「できたぜ!」


 ということで、まずはスミカさんとルフナの料理だ。

 外に置かれた机と椅子に座った審判ミィアの前に、2つのお皿が置かれる。


「お待たせしました。冷製BLTパスタと花飾りデザートよ」


 玉ねぎをまぶしたバジルソースとオリーブオイルに包まれ、サイコロみたいなベーコン、ちょうど良いサイズのレタス、星型のトマトに飾られたパスタ。

 隣には多様なお花を模したかわいらしいデザート。


 フォークを握ったミィアは目を輝かせた。


「おお~! いただきま~す!」


 パスタを口にした瞬間、ミィアは満面の笑みを浮かべる。


「おいし~い!」


 幸せそうなミィアの表情。

 私たちもスミカさんとルフナの料理に興味津々。

 隣からはシェフィーのお腹の音が聞こえてくるし、私はヨダレを抑えるので必死だ。


 ミィアがあっという間にパスタとデザートを食べ終えると、今度はシキネがドカンと大皿を置く。


「待たせたな! なんかの揚げ物だ!」


 ボロボロの衣がまとわりついた、よく分からない鳥の丸揚げ。

 それをおそるおそる口に運んだミィアは、意外そうな顔で言った。


「あ! 思ったより美味しいよ、これ!」 


 にわかには信じられないけれど、ミィアがフォークを止めないのなら、味は悪くないんだろう。

 それにしても見た目がひどい。


 審判の仕事、というよりも食事を終えたミィアは、テラスに立って無邪気に言った。


「どっちのお料理も美味しかったよ! でも、スミカお姉ちゃんとルフナのお料理は見た目がかわいかった! だから、スミカお姉ちゃんとルフナの勝ち!」


「やった! 勝負に勝ったわ! ルフナちゃんが作ってくれた花飾りデザートのおかげよ!」


「ああ……ミィアが私を勝者に……ああ……」


「ルフナちゃん!? 大変! ルフナちゃんが倒れちゃったわ! どうしましょう!? 救急車!? それともセントバーナード!?」


「落ち着いて。ルフナは喜んでるだけだから」


 ミィアに料理を褒められて、よっぽど嬉しかったんだろう。


 そう、お料理勝負はスミカさんとルフナの勝利だ。

 これで第二次勇者勝負は終わり、のはずだった。

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