第5話 凸砂
お料理勝負の結果を聞いて、シェフィーはおもむろに言う。
「2回戦、お料理勝負は私たちの勝ちです。これで私たちは2勝したので、勇者勝負は――」
「待て! もう1回だ! もう1回だけ勝負させてくれ!」
「え? でも、次で勝ってもシキネさんが勝利することはできませんよ?」
「別にいい! せっかくの3回勝負だ! 3回戦もやらせてくれ!」
シキネはたぶん、単に勝負がしたいだけなんだろう。
返答に困ったシェフィーは、私のところに相談しにきた。
「どうします?」
「まあ、シキネがそれで満足するならいいんじゃない?」
どうせ断っても逃がしてくれないだろうし。
私の言葉を聞いたシェフィーは、3回戦の開催をシキネに伝えた。
するとシキネは、誕生日プレゼントをもらった子供みたいな顔をして大声を出す。
「よっしゃ! 3回戦だ! なあなあ! 3回戦はどんな勝負だ!?」
ぴょんぴょん飛び跳ねるシキネの質問。
答えたのはシェフィーとミィア。
「3回戦はFPS勝負です」
「ルールは単純だよ! シキネとクロワがチームでユラユラと対決して、ユラユラよりたくさんキル数を稼げばシキネとクロワの勝ち!」
「FPSって、ゲームのFPSだよな!? 銃で撃ち合うヤツ! それならやったことあるぞ! 勝てる! これなら勝てる!」
自信を取り戻したシキネは、やる気もうなぎ登りだ。
FPS勝負のため、ミィアとルフナはテレビとゲームの準備をはじめる。
自宅のシールドの外に持っていくのは、2台のテレビ、押し入れにしまってあった2台のゲーム機、延長コード。
準備の様子を見ていたシェフィーは、不思議そうな顔を私に向けた。
「気になってたんですけど、なんでユラさんは同じゲームソフトとゲーム機を3台も持っているんですか?」
「ああ、それね。ゲーム機の1台は初期型、もう1台はお父さんが限定特典欲しさに買ってきたやつだよ。ゲームソフトもお父さんが店舗限定特典のために5つ買って、余ってたやつ」
「ユラさんのゲーム愛はお父さん譲りでしたか……」
こんな話をしているうち、2台のテレビと2台のゲーム機は地面に置かれ、延長コードにコンセントがさされる。
シキネとルフナはお父さんのアカウントと私の複垢でゲームに参加だ。
複垢のキルデス比は変動しちゃうだろうけど、そこは気にしない。
ミィアがオンライン設定を完了しルームを作れば、ルフナが手を挙げ報告。
「準備ができたぞ」
「オッケー」
私もパソコンをモニターにしてコントローラーを握った。
外からはクロワとシキネの会話が聞こえてくる。
「なあ、ウチはどの武器で出撃じゃい?」
「よく分からないけど、たぶんこれが強い! ほら、見た目もごつい!」
ごつい銃ということは、軽機関銃か何かかな。
なら私はPDWで出撃だ。
出撃ボタンを押せば、モニターには工場を舞台にした戦場が広がる。
テラスに立ったシェフィーは宣言した。
「では、勝負開始です!」
戦いがはじまったと同時、シキネの大声が響き渡る。
「おいユラ! アタシの弾丸を食らう覚悟はできてるか!?」
それはこっちのセリフだよ。
きっとシキネは馬鹿正直に突っ込んでくるはず。
だから私は抜け道へ。
抜け道に行くと、そこにはクロワのキャラが。
「いたんじゃい! こっちに――」
クロワが銃を撃つ前に私はトリガーを引き1キル。
この先制攻撃にシキネは見事につられた。
「クソッ! クロワの仇を――」
一切の警戒もなく抜け道にやってきたシキネを1キル。
「あっという間にやられたんじゃい」
「まだだ! まだアタシたちは負けてない!」
なんとかして負けを取り戻そうとするシキネは、何度も突撃を繰り返す。
その度に私はシキネから1キルを奪い取った。
ゲームを観戦中のミィアたちは、のんきにゲーム実況だ。
「おお~! ユラユラ無双だ~!」
「シキネさんたちがかわいそうです!」
「なんだかユラの動き、変態的だな」
それは褒め言葉なの?
まあ、でも私が無双状態なのは事実だ。
「これじゃ一方的すぎるか。凸砂しよ」
私はリスポーンし、スナイパーライフルを持って再出撃だ。
高台を歩いているとシキネを発見。
即座にヘッドショット。
「へあ!? なんでやられた!?」
「ユラはどこかに潜んでいるんじゃい。気をつけ――やられたんじゃい……」
ふむふむ、このままスナイパーライフルで敵地に突撃だ。
「クロワ! すぐ近くにいる! 撃て撃て!」
拳銃で撃ち合うような近距離でも、私はスコープを覗き込む。
ただ、さすがにこの近距離はきつい。
「動き回ってて当たらない……」
それでもなんとか、私はクロワを撃ち抜いた。
「やられたんじゃい!」
「大丈夫だ! 仇は取ってやる!」
これが戦闘狂の本能か、シキネは拳銃を手にした。
拳銃弾は私のキャラを蜂の巣にし、私の画面は赤くなる。
「やったぜ! やっと倒してやったぜ!」
「1キルするだけでも一苦労じゃい」
「でも、ユラだって無敵じゃないことが分かった! ここから反撃だ!」
意気揚々とシキネは再出撃を繰り返す。
私は少しも容赦しない。
「ほい」
2階から1キル。
「はい」
遠距離から1キル。
「あっ……」
凡ミスで1デス。
「よいしょ」
すれ違いざまに2キル。
「ユ、ユラユラ師匠……スナイパーで連続キルなんて……!」
「もう何が起きてるのか分からないです!」
「ゲームの中のユラは、間違いなく最強だな」
「ところで、スミカさんはずっと黙ってますけど、どうしたんですか?」
「え? ああ、遠くのお友達と遊べるなんて、最近のゲームはすごいなあと思って」
「驚く場所が初歩的です!」
スミカおばあちゃんたちに見守られながら、私は無双を続けた。
5分後、当然の結果が訪れる。
「なああ! 負けた!」
「ボロ負けじゃい」
「結果はシキネさんが3キル20デス、クロワさんが1キル17デス、ユラさんが37キル4デス」
「ユラユラ師匠の圧勝だ~!」
「ま、こんなもんだよね」
清々しいまでの勝利に私はついドヤ顔をしてみせ、そこそこウザがられた。
3回戦、FPS勝負は私の勝ち。
これで1回戦から3回戦まで、すべてが私たちの勝ちだ。
さすがのクロワとシキネも肩を落としている。
「今回の勇者勝負、ウチらの全敗じゃい」
「クソッ! アタシたち最強の勇者が、こんなボロ負けするなんて……!」
「それだけユラさんたちが強かったということじゃい」
「よし! アタシたちはもっと強くなるぞ! もっともっと強くなって、ユラたちにリベンジする! クロワ、マモノ狩りに出発だ! うおおお!」
切り替えが早いのか、シキネは土煙を巻き上げどこかへ走り去っていった。
クロワも私たちに手を振る。
「ということでお別れじゃい。また会おうじゃい」
「ええ、またね」
スミカさんが手を振り返すと、クロワはバックパックを背負って森の中に消えていった。
なんでこう、勝負の終わりはいつもあっさりなんだろう。
私は無意識に大きなため息をつく。
「やっと終わった……」
「第三次勇者勝負、ありますかね?」
「ないでほしい。あっても絶対に阻止する」
決意を新たにし、私たちは自宅の外に置かれたテレビとゲーム機を回収するのであった。
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