第3話 魔法陣は奥が深いね
勝負開始から十数分、魔法陣制作勝負に区切りがついた。
「文様、描けたよ~! ほら!」
「どれどれ……おお! ミィア様すごいです! 力強い独特な文様、きっとすごい魔法になりますよ!」
「えへへ~」
「完成だ! すごい魔法陣ができたぞ!」
「いろんな意味ですごいことになりそうじゃい」
リビングと外で同時に魔法陣が完成した。
スミカさんはおもむろに立ち上がり、テラスに立つ。
「フフフ、自信作が揃ったみたいね。それじゃあ、みんなが作った魔法陣で魔法を発動してみましょう! 最初はシェフィーちゃんとミィアちゃんが作った炎魔法陣からよ。2人とも、準備はいいかしら?」
「はい!」
「いいよ~!」
シェフィーとミィアは魔法陣を持って外に出た。
1枚の魔法陣をミィアが地面に置くと、シェフィーは小さな杖を手に取る。
2人が作った魔法陣は、一体どんな魔法を見せてくれるのかな?
「えい!」
小さな杖で魔法陣を叩けば、魔法陣の文様がオレンジに輝き浮かび上がった。
文様は揺らめく炎に姿を変え、螺旋状に絡まる。
絡まり合った炎は近場の木々の間を縫うように駆け抜け、一瞬にして空へと登った。
残された熱波に暖められた私とルフナは興奮を隠せない。
「うおぉ! なんかかっこいい!」
「まるで古に伝わる火龍のようだな」
さすが2人の魔法陣、完成度が高い。
「次はシキネちゃんとクロワちゃんが作った魔法陣ね」
スミカさんの言葉を聞いて、クロワが魔法陣を地面に置いた。
小さな杖で魔法陣を起動させるのはシェフィーの担当。
シェフィーが小さな杖で魔法陣を叩くと、魔法陣は無事に起動する。
「来たぞ来たぞ! アタシたちの炎魔法だぞ!」
そして文様は炎に姿を変え、ガスバーナーみたく吹き出す。
「炎だ! 炎が吹き出した!」
「じゃい! 一時はどうなるかと思ったけど、炎が生まれたんじゃい!」
炎が吹き出したのは3秒程度。
それでもシキネとクロワは体を乗り出していた。
私は思わずつぶやいてしまう。
「楽しそうだね、あの2人」
「当然よ。生まれてはじめて魔法を使って楽しくない子はいないわ。ユラちゃんもそうだったでしょ?」
「ま、まあね」
確かにそうだ。
ファンタジー世界で魔法を使うなんて、物語の登場人物になったような気分だもんね。
こればっかりは私も人のこと言えないよ。
2チームの炎魔法発動が終わると、スミカさんは判定を開始する。
「炎魔法陣制作の結果は――引き分けよ! 完成度で言えばシェフィーちゃんとミィアちゃんの勝ちだけど、シキネちゃんとクロワちゃんははじめての魔法だったから、おまけしてあげたわ。おまけは今回だけよ」
たぶん、スミカさんはシキネとクロワの楽しそうな表情に負けてしまったのだろう。
炎魔法陣制作は甘々の引き分け。
勝負の行方はまだ分からない。
「さあ、次は水魔法陣よ!」
先に魔法を披露するのは、炎魔法のときと同じくシェフィーとミィア。
「行きます!」
床に置かれた魔法陣を小さな杖で叩けば、魔法陣の文様は水滴の連なりに。
まるで鎖のような水滴の連なりは、しなやかに、自由自在に、独自の文様を描くかのようにテラスを動き回る。
加えて光を反射し輝くそれは、もはや水のショーと言っても過言ではない光景。
私とルフナは驚きでいっぱいだ。
「芸術的!」
「水が生きてるみたいだ!」
驚いていたのは、魔法陣を発動させたシェフィーも同じだった。
「びっくりです! ミィア様の描いた文様、魔法に特殊な効果を与えていて面白いです!」
魔法陣の奥の深さを引き出したミィアをシェフィーは大絶賛。
みんなに褒められ照れたのか、さすがのミィアもはにかむことしかできない。
そんなミィアに対抗心を燃やしたのはシキネだ。
「負けてられるか! アタシたちの水魔法を見たら、お前らもきっと驚くぞ!」
胸を張るシキネはどんな水魔法を見せてくれるのだろう。
シェフィーはシキネたちが作った水魔法陣を小さな杖で叩き、文様を浮かび上がらせた。
すると、浮かび上がった文様は、文様のままのたうち回る。
まるで怨霊の髪みたく真っ黒な文様がのたうち回る不気味な光景に、シキネたちも困惑だ。
「なんだなんだ!?」
「どうなってるんじゃい!?」
「文様が雑すぎるときに起こる暴走です! よっぽど雑に描かないと起こらない現象で、わたしもはじめて見ました!」
「シェフィー!? 喜んでる場合じゃないよ!」
「そっ、そうですね!」
急いでバッグをあさったシェフィーは、翼の生えたハムスターの飾りがついた指輪を手にした。
そしてシェフィーはのたうち回る文様に突撃。
指輪のハムスターは文様を食べはじめ、暴れる文様は少しずつ減っていく。
あのハムスター、意外と万能なんだね。
文様を食べ尽くしたハムスターは、おじさんみたいにゲップをした。
《ぷは。お腹いっぱいだなん。もう食べられないなん》
「ふう……なんとかなりました」
よく分からないうちに、ちょっとしたトラブルは解決したらしい。
胸をなでおろしたスミカさんは、勝負の判定に戻った。
「落ち着いたみたいね。じゃあ、結果発表よ。今回の勝者は――シェフィーちゃんとミィアちゃん!」
異論なし。
「最後は光魔法陣ね」
この結果で勝負が決まる。
だからこそ、シェフィーは強く念じながら小さな杖で魔法陣を叩いた。
「成功してください!」
シェフィーの思いが通じたのか、ミィアの文様がすごかったのか。
浮かび上がった文様は七色に輝き、テラスを派手に飾った。
どことないミラーボール感。なんだかダブステップが似合いそうな光景。
「テラスがクラブと化した!?」
「おしゃれで楽しげな光魔法だな」
想定外の光魔法だったけど、これはこれですごい。
当然、シキネは対抗心をむき出しにした。
「勝ったと思うなよ!」
バンッと地面に魔法陣を置くシキネ。
間を置かずにシェフィーが魔法陣を発動する。
そうして魔法陣から現れたのは――光り輝く巨大な電球だった。
しかも、脚と手の生えた巨大な電球。
クロワは目が点になる。
「こ、これは……なんじゃい?」
「光を描けって言われてもよく分からなかったから、電球マンを描いた!」
「電球マンってなんじゃい?」
「知らん! アタシのオリジナルキャラだ!」
ちょっとよく分からないです。
脚と手が生えた電球がピカピカ光ってる光景は、ちょっとどころじゃなくシュールです。
にこやかに笑ったスミカさんは、容赦無く判定を下した。
「今回もシェフィーちゃんとミィアちゃんの勝ちね」
「待て! なんでアタシたちが負けなんだ!?」
「それはね、シキネちゃんとクロワちゃんが作ったのが光魔法陣じゃなくて、電球マン魔法陣だったからよ」
「そんな……クソッ!」
「どこに悔しがる要素があったんじゃい?」
シキネはクロワに引っ張られ、強く拳を握りながら負けを認める。
スミカさんはシェフィーとミィアの腕を持ち上げた。
「ということで、第1回戦はシェフィーちゃんとミィアちゃんの勝ち!」
「やりました! 得意の魔法で勝てて良かったです!」
「楽しかった~! シェフィー、これからも魔法陣制作、もっと手伝わせて~!」
「もちろんです! むしろ、ミィアさんにたくさん変わった魔法を見せてほしいです!」
手を取り合ったシェフィーとミィアは、はじける笑顔で語り合っている。
2人とも前から仲良しだったけど、より絆が深まったみたい。
勝負に勝って、シェフィーとミィアがさらに仲良くなって、魔法陣制作勝負はいいことばっかりだ。
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