第4話 ロッククライミング自宅
町を出発すること約2時間。
シェフィーは魔法陣を作り、ルフナは不死鳥の剣の手入れをしていた。
私とミィアは、テレビゲームで
「わわわ! モンスターが変な動きをしてるよ!」
「即死攻撃のモーションだね。焦らず距離をとれば大丈夫」
「おお~! 本当だ~!」
「必殺技を使うなら今だよ。このモンスターは即死攻撃後に隙があるから」
「分かった、ユラユラ師匠! いくぞ~!」
素早いコントローラーさばきで、ミィアの操作するキャラはモンスターとの距離を縮めた。
そしてミィアは、最高のタイミングで必殺技を発動する。
「やった~! 見て見てユラユラ師匠! やっつけたよ~!」
「うむ、無駄な動きも減ってきたし、ミィアは順調にゲーマーの階段を上ってるね」
「えへへ~、これもユラユラ師匠のおかげだよ~」
にんまり笑顔を浮かべたミィアに、私はノックアウト寸前。
――弟子って、こんなにかわいいものなの? それとも、単にミィアがかわいいの? どっちも?
なんだか、ルフナのミィアに対する愛が少し理解できてきた。
今の私の心は幸せでいっぱい。
そんな風にふわふわとしているときだった。テレビの裏からスミカさんが現れる。
「みんな! 『ちょっと怖い崖』に到着したわよ!」
「うわわわ!」
「スミカお姉ちゃんがテレビから生えてきた!?」
ちょっと怖い登場をするスミカさんに、私とシェフィーはソファから飛び上がった。
なんでスミカさんは、こうやって変な場所から登場するんだろう。
はっきり言って、心臓に悪い。
とはいえ、自宅は『ちょっと怖い崖』に到着したらしい。
スミカさんは言葉を続けた。
「ほら、窓の外を見てちょうだい!」
そういえば私たち、ずっと外の景色を見ていなかった。
みんながみんな自分のやりたいことに集中していたせいで、外の景色を知る人はひとりもいなかった。
さて、自宅は今どんな場所にいるんだろう。
「どれどれ――」
窓の外に目を向ければ、そこには不思議な景色が。
視界の右半分は沼地、左半分は青空。自宅の足元には険しい岩場が広がっている。
――地平線って、縦だったっけ?
頭の中で天使さんがリンボーダンスをしているんじゃないか、というぐらいに私の頭は混乱中。
しばらく考えて、ようやく不思議な景色の正体が分かった。
正体が分かったと同時、私はカーテンにしがみついた。
「ちょ、ちょっと待って! これ、もしかして、家が崖に直角になってる!?」
「その通りよ」
「おお~! すごいすごい! ミィアたち、横になってる~!」
今の状況に興味津々なミィアだけど、私はそれどころじゃない。
自宅は現在、約90度傾いた状態で崖を登っている。
めちゃくちゃだ。
私は足をガタガタさせ、カーテンにしがみついたまま。
少しして、窓の外に目を向けたシェフィーとルフナも私と同じ反応を示した。
「崖に到着したら、次は魔法石を――わああ!」
「シェフィー? どうした? 何か――うおおお!」
ルフナは私とは違う方のカーテンに、シェフィーは私に抱きつく。
首をかしげたのはミィアだった。
「みんな、どうしたの? なんでカーテンにしがみついてるの?」
「ミィア様こそ、なんで外のあの景色を見て普通でいられるんですか!?」
「だってだって、おウチの中は普通だもん! 地面を歩いてるときと、なんにも変わってないんだもん!」
「言われてみればそうですけど……でも……」
「ミィアの言う通りだ……」
「たしかに……」
窓の外を見るまで、私たちは自宅が崖を直角に登っていることに気づかなかった。
つまり、危険なことは何もないということ。
私はゆっくりとカーテンから離れた。
シェフィーは私に抱きついたままだけど、これはこれで安心感があるので、このままスミカさんに質問してみる。
「ええと、スミカさん、何がどうして自宅は崖を登ってるの?」
「さっきユラちゃんが解放してくれたスキルに『ロッククライミング』っていうのがあったわよね。それと『ジャパニーズニンジャ』っていうスキルを組み合わせたら、崖に登れちゃったのよ」
「登れちゃったんだ」
これがスキルのおかげなら合点がいく。家の中が普段通りなのも説明がつく。
次の疑問は、シェフィーに聞いてみるのが一番かな。
「ねえシェフィー、ここは『ちょっと怖い崖』だったよね。ちょっとどころか、すごく怖いんだけど」
「眺めるだけなら『ちょっと怖い』で済むんです!」
私に抱きついたまま、上目遣いで質問に答えてくれたシェフィー。
まあ、こんな登り方をしたら、どこの崖も怖いよね。
私の質問タイムが終わると、カーテンから離れたルフナが窓の外を眺めながら、おもむろに言った。
「目的地には到着したんだ。早くあわあわ魔法石を探そう」
「そっ、そうですね!」
「探そ~!」
ルフナの提案に乗った私たちは、あわあわ魔法石探しを開始した。
と、その前に、もうひとつだけシェフィーに質問。
「あわあわ魔法石って、どんな見た目なの?」
「色は白で、形は楕円形です。崖に突き刺さってよく目立ちますから、見つけるのは難しくありません」
「分かった」
ということで、私たちはいろんな部屋に散会した。
シェフィーに抱きつかれたままの私は自室、ミィアはリビング、ルフナは寝室へ。
スミカさんは崖の移動に集中してもらう。
自室にやってきた私は、窓に張り付き魔法石を探した。
そり立つ崖と大空の景色はとても綺麗だけど、地面を見るのは怖いのでやめておこう。
魔法石を探しはじめて数分後、寝室からルフナの声が聞こえてくる。
「何かあるぞ!」
さっそく魔法石発見?
「あ、すまない! 私の勘違いだ! あれは鳥のお尻だ!」
ルフナから伝えられる残念なお知らせ。
私たちは魔法石探しを再開する。
しばらくして、今度はミィアの声が家中に響き渡った。
「ねえねえ! 魔法石みたいなのがあったよ~!」
また鳥さんのお尻じゃないよね?
「むう、見間違いだった~! ただの崖に刺さった王様の彫刻だった~!」
「それは新しい芸術ですか!?」
シェフィーのツッコミの通りだ。芸術的すぎて意味が分からない。
意味が分からないので、魔法石探しを再開させよう。
少しして、私は崖に刺さった白い石を見つけた。
「あれが、あわあわ魔法石?」
自信がないので、私はシェフィーを頼る。
私に抱きついたままのシェフィーは、おそるおそる外に視線を向け、表情を明るくした。
「間違いありません! あわあわ魔法石です! やりましたね、ユラさん!」
あっさりと、無事に見つかったあわあわ魔法石。
私たちはリビングに集まり、スミカさんは自宅をあわあわ魔法石の側まで寄せてくれる。
あわあわ魔法石が目の前までやってくると、ルフナが窓を開け、不死鳥の剣を振った。
不死鳥の剣は崖を削り、あわあわ魔法石は自宅の中へ。
あわあわ魔法石をキャッチしたミィアと、それを眺めていたシェフィーは、嬉しそうに飛び跳ねた。
「やったやった~! 探し物、見つけたよ~!」
「わぁ~! キレイな魔法石です!」
「2人とも、まだクエストは終わっていないぞ。あわあわ魔法石をトラコンの里に持っていかないといけないからなぁ」
「あ! そうだった~!」
「すみません、はしゃぎすぎました……」
えへへと笑ったミィアと、顔を赤くしたシェフィー。
ミィアは私にあわあわ魔法石を渡し、ルフナと一緒にトラコンの里を探しはじめる。
せわしい王女様だね。
とりあえず、クエストの難しい部分は終わった。
スミカさんとシェフィーは、私に向かって口を開く。
「ユラちゃん、魔法石をなくさないよう、気をつけてね」
「貴重な魔法石ですから、きちんとしまっておきましょう」
「そうだね」
2人の言う通りだろう。
私はリビングを見回した。
「しまっておくとすれば、ここがいいかな」
私が手にしたのは、昨日の夕ご飯の冷凍チャーハンが入っていた空袋。
その空袋に、私はあわあわ魔法石を放り込む。
これにスミカさんとシェフィーは苦笑い。
「のんびり屋さんのユラちゃんは、テキトー屋さんでもあるのね」
「魔法石の扱いが雑すぎます……」
まあまあ、いいじゃない。そこら辺に放り出すよりはマシだよ。
あわあわ魔法石を見つけた私たちは、クエストの次の段階へ。
自宅は崖を降り、トラコンの里へと向かった。
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